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鐵の篩  作者: 仁崎 真昼
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第五話「隊が求める人材は?」②

 最初に見つけることができたのは、碧雲隊闘技指導員のトドイだった。

「取材!? 取材なんて初めてっすよー! あれっすか、似顔絵なんかも掲載しちゃったり! 美人にお願いしまっす!」

「あはは、肖像画家を雇う余裕はないので、申し訳ありません。ですが、取材というのは本当です。お時間に余裕があるようであればお願いします」

 バーヲが示してきた広報官という腕章に目を輝かせ、トドイは背後で倒れているファウーゼたちに休憩だと宣言した。そして、手拭で汗を拭きつつ折り畳み式の椅子を引っ張ってくる。

 稽古場の端で膝を突き合わせて座ると、バーヲは手帳を取り出して切り出した。

「今回、トドイさんにお聞きしたいことは、一つです。ずばり、碧雲隊はどういった戦士を集めているのか。戦士に何を求めているのか。あなたが戦士を選ぶ際の基準をお聞かせいただきたいのです」

「ははーん? なるほど、つまりはどんどんと強くなっているうちの隊がどう人を集めているのか、その秘訣を知りたいってことですね?」

「はい。特に碧雲隊は教導院の特等生や御前試合の有名な参加者はあまり取られない印象があります。しかし、耀華隊のように個別に戦士を囲っているわけでもない。そう言った中で、他の隊に遜色ない戦力を集めているのは不可思議の一言。よほど情報を集めるのが巧いのか、それとも目の付け所が異なるのか。トドイさん、いかがでしょう」

 褒められて気分の良くなったトドイは上機嫌な表情で髪を撫でつける。

「私はっすね、筋肉を見てます」

「筋肉、ですか」

「はい。闘技を極めれば人は素手で鐵を貫けるようになります。だから、筋力なんて不要だと考えている人も多いです」

「実際、トドイさんに比べると、ファウーゼさんたちは少し控えめですよね」

「はい。それであれだけ動けてるのは凄いんすけど、けど、ああ見えて脚と体幹の筋肉は凄いっすよ。芸術的です。惚れ惚れします。大殿筋から広背筋にかけての曲線ときたらそれはもう」

 自分の合いの手が原因で脱線していることに気付いたバーヲは無理矢理話題を戻す。

「はは、それはまた後程詳しく聞かせていただくとして、筋力を重視している根拠は?」

「簡単な話で、闘技は正しい動きによって引き起こされる現象? 事象? って感じなんすけど、結局正しい動きなんて筋力がないとできないんすよ。最終的に筋力をほぼ必要としなくなるとこまで至れれば別ですけど、そこまで行くのは本当に一握りで、現状の【独立命撰特務】であっても、二人、かな? そんくらいしかいないんすよ。別に、そっちの余分を削り切る方向が正しいというわけでもないですしね。ほら、少し前に話題になってた子も【領域】は確か拡張の方向でしたよね? うちの隊長も……あっいやこれ言っちゃ駄目なやつだ。すみません、今のなしで」

 闘技の心得のないバーヲにとって、半分も理解できない話だった。だが、話を咀嚼するのは得意だ。そのため、どのみち書けない話の後半は削り、一般人にも理解できるように丸めようとする。

「つまりは、何をするにはまず筋肉。体を鍛えておいて損はない、ということでしょうか」

「そっすそっす! 話が通じる人で助かりましたよー」

 要約というのには乱暴すぎるが、元より小難しい話の苦手なトドイにとっては丁度良かったようだった。満足そうにうなずきつつ胸の前で腕を組んでいる。

 一方、バーヲは額をかきつつ少し悩む。

(少し話を膨らませるにしても、なんか、凡庸だなぁ。そりゃあ筋肉むきむきの大柄な男の人がいたら、おっ、てなるのは当たり前だし。そう言う人が強いのも当たり前だし。この前のプッダプーヤさんもその系統だし。どっちかというと、オウカさんを取った理由とかを聞きたかったけど)

 ちらりとトドイを見るバーヲ。

(まあ、闘技指導員だしな。多分推薦者は別にいたんだろう。よし、この人は分かりやすい枠、としよう!)

 そう結論付けたバーヲはしたり顔をしているトドイに向かって頭をさげ、その場を後にした。




 次に捕まったのは、碧雲隊魔術指導員のスンダッギ。

「取材! なんとも珍しい。国軍の方からかな? 禁軍の方からかな?」

 そう言ってかははと笑う老人の目は笑っていなかった。

 バーヲは苦笑いをしつつ答える。

「国軍の方の依頼です。なので安心してください。悪いようには書きませんので」

「それが本当なら喜ばしいことじゃて。まあどちらにせようちに広報官と関係を悪くする余裕はありゃせんか。よかろ、若人に爺の説教を聞かせてやろうぞ」

「よろしくお願いいたします」

 碧雲隊の中庭に設置された長椅子で、二人は横になって座る。腰の曲がり切ったスンダッギとバーヲでは目線の高さは合わないが、二人ともそれは気にしていなかった。

 ごほごほと軽く咳をして、スンダッギは話し始める。

「まず、碧雲隊がどのような人間を求めるかは知らん。それは最終的に小隊長が決めることじゃて。わしらは個々人がよさそうだと思った相手を調べつくし、その長所と短所を纏めるだけじゃ」

「おや、最終的な決定権は完全にフォフォ小隊長が持っているんですか? 一時的に、部分的にでも与えたりはしない?」

「せんせん。そういうことしとるから白の隊は揉めとるんじゃろ」

「ですが、あまり独裁感が高まり過ぎるのも問題じゃないでしょうか。朱顎隊の隊員からはたまにそうした愚痴を聞きますよ」

「所詮軍隊に何を言っとる。上官の言うことは絶対じゃ」

 正論だと思ったバーヲはそこを追うことを諦める。それに、そうした話題を出せば冥弓隊の上をいくわけがないのに、そちらでは問題が起きていない時点で、ただの手綱の締め方の問題だというのは理解している。ただ、こうした話が上官から出るか部下から出るかでは話が違うため、確認しておきたい点だったのだ。

 手元の手帳に書き加えつつ、バーヲは先を促す。

「では、スンダッギさん個人ではどのような戦士を求めていますか?」

「簡単な話。火力よ火力。魔術師に求められているのは、どう言いつくろおうとてそれだけよ」

「それは狙撃者として?」

「破壊者としてやれる魔術師がいるならやればよい。だが、いずれにせよ必要なのは相手を殲滅する力よ。これがないものは推薦はせんの」

 断言する口調に、好々爺然とした態度の奥に隠す頑固さを見て取ったバーヲは口を噤む。こうした手合いは、黙っていても話が尽きることはないと経験から知っていた。

「戦いの敗北条件は何がある?」

「敗北条件、ですか。死んだり、負傷、負けて逃げ出して」

「他には?」

「……ああ、防衛線だったら防衛拠点の陥落、人質がいるならそれが殺されてしまえば勝利とは言えませんし、他にも、状況によると思います」

「然り。それらすべてに対応するのは難しいが、【独立命撰特務】はそのすべての状況に適応する必要がある。我らの仕事は多岐にわたるが故じゃ。そして、そのすべてに勝つ必要がある。ではその勝利条件は?」

「敗北条件を満たさないことですか?」

「いいや、敵を殲滅すればよい。敵がいなくなれば負けもない」

 あまりの暴論にバーヲは苦笑してしまった。それを見てスンダッギも高らかに笑う。

「難しそうに思えるじゃろ。じゃが、魔術なら可能じゃ。敵に何かをさせる前に、遥かに離れた距離から、一瞬で相手の命を奪う。相手が一万の大軍でも、魔術であれば可能じゃ。火力さえあればの」

「ですが、難しいでしょう」

「困難を成してこそ【独立命撰特務】。わしはそう思うよ」

「なるほど」

 バーヲは頷きながら手帳を閉じた。

(この人も、わかりやすい枠。戦士にではなく、一般層に。こうした反論が出やすそうな話題もいくつかは必要だし、そう言う意味でも結構美味しいか?)

 問題は、トドイの意見とは全く一致しないこと。闘技指導員と魔術指導員という役職を見れば当然のことかもしれないが、共通点が全く見えないとは思っていなかったため、バーヲはどう纏めるかと首を捻った。

 そして、気付けば横に座っていたスンダッギの姿は消えていた。まるで幽霊か何かのような気配の消し方に、礼を言う間もなかったな、とバーヲは独り言ちた。




 三人目は、碧雲隊健康管理官のリンだ。

 碧雲隊の医療室で、椅子に腰掛けて振り返った姿勢のまま、リンは固まった。

「取材……ですか? 私に……?」

「はい。碧雲隊は健康管理官も任命に関する打ち合わせに参加しているとお聞きしたので、是非ご意見をお聞きしたく」

「いや、私は参加してると言っても、ほとんど座ってるだけですし。たまに意見は聞かれますけど、役に立ってるのかどうか」

「全然問題ありません! 意見を求められると言うことは、頼りにされているということです。きっとその意見は今の碧雲隊を形作る大事な要素の一つですよ」

 自信なさげに背中を丸めるリンに、バーヲは笑顔で対応する。勿論、それは心からの笑顔ではないが、そこは広報官の得意技。ルヴィケスのように誰からも作り笑いと分かるような適当な仮面ではない。

 実際、リンはその柔らかい笑顔にいくらか安心したようで、少しだけ表情を和らげた。

 バーヲの笑顔は崩れない。たとえ話す気になったリンに勧められたのが椅子ではなく怪我人用の寝台であったとしても。礼を言いつつそれが高級な長椅子かのように優雅に座る。

「えっと、碧雲隊がどんな人材を、求めているか、でしたよね?」

「はい」

「碧雲隊が求めているのは、帝国最強の百人、という看板に恥じない強者です」

「なるほど。人柄や適性より、強さをより重視するということでしょうか」

「あくまで、第一とするのはです。碧雲隊が求める強者は生半可なものではありません。そして、そこまで強さを求められる人というのは、それ以外に価値を見出せない人が多いです。強さに身を捧げるだけの確固たる芯を持っています。そういう人は逆に安全なんです。犯罪とか、賄賂とか、そういったものに手を出しません。興味がないから」

 バーヲはリンの語り口に違和感を感じた。まるでそれは台本を読み上げているかのように心が籠っていない。話し方が先程までと違い滑らか過ぎる。

 それを指摘するか迷ったが、その前にリンは自虐的な笑みを浮かべて続けた。

「と、いうのが碧雲隊の方針です。小隊長に話を伺えば、今のような話を聞けると思います」

「では、あなたは違うと?」

「はい。私は、引き際をわきまえている人、を獲ってほしいです」

「勇猛な戦士ではなく、賢明な戦士がほしいと」

「そうです。強い人はよく、勘違いをしています。自分より強い相手はいないと。でも、それは間違いです。自分より強い相手はいます。戦い続けていれば、必ず、自分より強い人と出会います。どんな強い人でも、それは同じ。たとえ一時、世界で最も強いとしても、いつか――それは自身の衰えかもしれませんし、相手の成長かもしれませんが、いつか。必ず、自分より強い人と出会います。そして、戦うことになる。それが、戦士のさだめです」

 相変わらず、ゆっくりと小さな声で話してはいるが、その言葉には先ほどまでにはなかった自信が漲っている。自分の言葉を心から信じていると、そう言わんばかりに、リンは断言する。

「だから、そうしたときに、逃げてほしい。逃げて、生きて帰ってきてほしいんです。生きてさえすれば、怪我は治せます。治します。隊も情報を得られますし、対策を練れます。敗北感に塗れたとしても、救えなかった命に苦悩したとしても、それでも、生きていなければ意味がないのです。だから、私は、そうした戦士を望みます。私では、死者は蘇らせられないので」

 バーヲは手帳を手で弄りながらも黙って聞いた。そして、その前髪の下から除く金色の瞳に気圧されたように何度も頷いた。

「なるほど、健康管理官ならではの視点ですね。戦士は生きてこそ戦える。それを忘れてはならない、と」

「はい。皆さんどうせ、勇ましいことばかり言うと思うので、こうした意見もあると、思ってもらえれば」

「ありがとうございます。今の言葉、月報に使わせていただきます」

 バーヲは頭をさげながら思い出した。

(そういや、碧雲隊はここ七年ほど死者が出ていない。確か、リン健康管理官が赴任して以降だ。それが果たしてリン健康管理官の薫陶のおかげなのか、それとも単純に医療の腕前のおかげなのかは不明だけど、記事に絡ませられるかも)

 ただ、死者が出てないのに人が足りていないのもまた問題である。そう思い直し、バーヲは心の中で唸った。

 そうしていると、丁度怪我人が一人運び込まれてきたため、その場は解散となった。

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