第四話「討伐する者される者」③
しかし、そんな和やかな空気も到着するまでは続かない。彼らは殺し合いの場へと向かっているのだから。
警戒域【絡繰洞穴】は帝国三大山脈の一つ、シシゴ山脈の東端に存在する。入り口は七つだが、内部は複雑に分岐しており、入るものを迷わせる。その一番の特徴は、【亜宮核室】と呼称している中心部らしき空間から、洞穴内の構造を変化させることが可能なこと。発見されて七百年の歴史があるが、地図が作られていない理由だ。その創造性から迷宮の出来損ないとも呼ばれており、攻めるに難く、守るに易い堅固な砦となっている。
勿論、帝国とてそれを理解して放置していたわけではない。【絡繰洞穴】は過去何度か厄介な生命の根城として使われたが、そのたびに制圧し、帝国の管理下へと取り戻してきた。ただ、八十年ほどの平穏で気が緩んでいたのも確か。入り口は封鎖していたものの、警備がしやすいよう【亜宮核室】は最も警備の固い入り口のすぐ横に設置していた。そこを、【暴鮫の牙】に利用された。
「その部屋、奥の方に設置しちゃえばよかったんじゃないすか?」
「そうすると人の侵入は防ぎやすくとも、それ以外からの防護が難しくなる。指先程の羽虫でも、場合によっては【絡繰洞穴】を動かすからな。人を常駐させておいた方が良いと判断したのだろう」
「その結果がこれじゃ、締まらないですけどもね」
「そう言ってやるな。オウカだって、帝国全域を監視し続けることなどできないだろう。非力に思えても彼らの協力あってこそ平和は保たれる。そして、問題が起きてしまったのなら、後は俺たちの仕事だ」
四人は正装に着替えている。雲を模した徽章のついた帝国軍帽と外套。その下は武骨で頑丈な搾衣。手に持つ獲物はそれぞれだが、足に履く碧色の長靴はお揃いだ。
「日没だ。作戦を開始する」
ヒノスバのその一言と共に四人は真剣な表情になり、一斉に動き出した。
入口が四つ開いている南側で行われていた戦闘は、陽動とはいえ激しいものだったらしい。微かに漂ってくる荒れた魔力と北東入り口の見張りの少なさがそれを物語っている。
オウカが手で示す。距離五〇〇、外に四、内に四。距離一〇〇〇以内に他敵なし。
ヒノスバが手で示す。メディエとオウカは待機。要すれば撃て。ファウーゼは自分と来い。
他の三人は頷いた。
静かに魔術の準備をするメディエを尻目に、ヒノスバとファウーゼは林の中を進む。日没直後のため空はまだ斑な色をしているが、木が密集してできた陰であれば十分に暗い。想定通り、二人は外の見張りから二十歩ほどの位置まで移動できた。
手前は俺が。奥はお前がやれ。ヒノスバの指示にファウーゼは頷くと、ゆっくりと折り畳まれる指の最後の一本と共に駆けだした。
肉食獣の狩りのように静かに飛び出した二人に見張りは気づけない。南の戦闘が一度収まりそうだという空気に気が緩んでいるのも一因。半日突っ立っていて誰も来なかったということもそう。だが、それが文字通りの命取りとなった。
ヒノスバの武器は鋼鐵製の斧槍。重厚ながら鋭利な帝国軍の歩兵の一般兵装。鍛えていなければ成人男性でも持ち上げるのにさえ苦労するそれを、ヒノスバは背に抱えたまま風のように駆け、抜き放ち、手前にいた二人の見張りの首を刎ねとばした。
どっと頭が地面を転がる音に振り向いた男の目の前には煌めく薄い刃があり、それは男が何かを言う前に喉を深く切り裂いた。その血飛沫に違和感を感じたもう一人の男もやはり何かをする暇はない。延髄に器用に突きさされた刃の切っ先が口から飛び出たと思った瞬間にはその命は終わっていた。
洞窟内部にいた残りの見張りも、異音に首を傾げつつ洞窟から顔を出す。
しかし、次の瞬間にはその額に穴が開き、二人が同時に地面に崩れ落ちる。メディエの狙撃。それを知る由もなく、残りの二人もヒノスバとファウーゼに同様に処理された。
少し間を置き、増援や見逃しがないことを確認すると、ヒノスバは手で待機していた二人を呼び寄せる。メディエとオウカはそれに素早く従い、四人は洞窟の前に張り付いた。
行くぞ。ヒノスバがそう手で短く支持すると、四人は作戦通りの陣形で洞窟に踏み入った。
目的とする【亜宮核室】の位置は既にオウカが特定している。ある程度の経路も構築済み。つまり気をつけるべきは、相手に気取られて洞窟内部の構造を組み替えられること。そのためにすべきことは、速攻だ。
四人は通路を駆け抜ける。速度は最も遅いオウカに合わせているが、つまりは一般人の全力疾走と同程度。答えの分かっている迷路を踏破するにはさほど時間はかからない。
散発的に見かける見回りはオウカの事前の察知のおかげもあり、ヒノスバの腕もあり、接敵と同時に物言わぬ骸となった。道程の七割を過ぎた時点でその数三人。見張りの八人を加えて十一人。
不意に、ヒノスバに過る違和感。
(多過ぎる。敵は三十人前後ではなかったのか? 南で戦っていた人員はまだ再度の襲撃に備えているはず。洞窟内部に引き込んでの防衛が基本戦術とはいえ、何かが……)
ヒノスバのその疑問に答えは見つからなかったが、オウカから経路変更の指示もないまま【亜宮核室】の手前まで到着した。目の前の十字路を超えて左に曲がれば目的地だ。取り越し苦労かとヒノスバは短く構える斧槍を構えなおすが、その判断は少しばかり早かった。
前の二人が十字路を通り過ぎる直前、オウカの険しい声が響く。
「組み換え! 左右から挟撃!」
組み換え。つまりは、【絡繰洞窟】の内部構造が変化したということ。全くの予兆のないそれに他の三人は舌打ちしつつ、目を合わせ、判断する。
ヒノスバはそのまま、ファウーゼは切り返してオウカの方へと向かい、メディエは十字路の中央で立ち止る。挟撃に対応すると決めたのはメディエ。
だが、続いてオウカの声が響いた。
「上下もです!」
そう叫ぶオウカとファウーゼの足元の床が幻のように消失し、頭上からは無数の槍が振って来た。
完全な待ち伏せ。罠にかかったメディエは六人に挟み撃ち。ファウーゼとオウカは槍の雨に打たれながら、醜悪な笑みを浮かべる男どもが待ち受ける下層に落下。分断されたヒノスバは一人きり。
仕掛けた側はこれ以上なく上手く行ったと考えているだろう。
事実、舌打ちするヒノスバの目の前には、満足そうな笑みを浮かべた【暴鮫の牙】が曲がり角から姿を表した。
だが。
「最近の【独立命撰特務】も質が落ちたな」
「……そう判断するのは、少しばかり早いだろう」
相手は、メディエであり、ファウーゼであり、オウカだ。
――メディエは即座に鐵の筒を展開し、飛び込んで来ようとする六人に向けた。凄まじい反応速度と精度。その銃口はぴたりと六人の眉間に合わせられている。挟み撃ちを仕掛けた六人からは、黒い円がぽっかりと宙に浮かんでいるように見えたかもしれない。
武器を構えておらず、魔力を練っていない魔術師との接近戦。これほど楽な仕事はない。
そう思った男たちは次の瞬間には天井を見て倒れていた。
体に力は入らず。額からは何かが流れ落ち。痛みはもうない。男たちは自分が何をされたのかも気づくことなく、そのまま意識を失った。男たちが最後に聞いた音は、がん、と硬い鉄が破断するような音だった。
――ファウーゼは足元が消えた瞬間、鞘で壁を叩いて反対側の壁を踏んだ。そして、そのまま壁を蹴って宙を駆けると、剣を使って槍を一つずつ壁際に選り分けていく。真下に落ちていくオウカに当たらないように。自分が安全に下りられる場所を作るように。邪魔な男たちを突き刺さるように。
その様はまるで空中を飛び回る鳥のようであり、重力の影響を受けていないのではないかと錯覚するほど。思わず見とれてしまった男たちは、自分に向かって降り注ぐ槍にすら気づけず、自分たちが仕掛けた槍に刺さって死んだ。
少し遅れてファウーゼが降り、その片腕で剣を構えても何も変わらない。
一度それを見てしまった男たちは、ファウーゼから目を逸らすことができず、そのまま喉を切り裂かれた。
――オウカは、そのまま落下して、爪先、膝、胴の順でころりと着地した。槍はファウーゼがどうにかしてくれている音がしたため、気にせず周囲の音を聞く。
自分を見て息を荒らげている男が三人。うちの一人は即座に抱き着くように飛びついてきた。
素手であることを確認したオウカはあえてそれに逆らわず、両腕を掴ませる。やや遅れて二人がしがみついてきたが、それにも抵抗しない。
「それは眩暈か絶望か――【電網】」
一番拘束がねちっこかった男を古典魔術で痺れさせ、背後の男の玉を鷲掴みして潰し、胸に顔を突っ込んできている男の首に飛びつくようにして足を絡ませる。そして、体重を乗せて捻ることにより、地面に叩きつけると同時にその首をへし折った。
メディエは何事もなかったのように床の穴を跳び越える。オウカはファウーゼに抱えられて上に登って来た。それらを見て【暴鮫の牙】は不快そうな顔をした。
「腕はなくても、気のいい奴等だったんだけどな」
「悪党なんてそんなもんだ。余裕があるときは身内にだけは優しい。そして強者にへつらい、弱者をいたぶる」
「お前らだって大して変わらないだろう。いや、違うか。お前らは大して強くないのに偉ぶっている。最悪だ。雑魚の癖に。帝国百士だ? 調子に乗るな反吐が出る。帝国最強の百人? 誇大広告にもほどがある」
ヒノスバは思わず笑ってしまった。そして、そのまま吐き捨てるように煽る。
「なんだ、まだ未練があるのか? 自分を除名した【独立命撰特務】に」
それを聞くなり、【暴鮫の牙】は斧槍を構えた。その顔は怒りに染まっている。
ヒノスバは剣を構えようとするファウーゼを下がらせ、自分も斧槍を構えた。その構えは鏡合わせのように対称的だ。
いずれも、帝国軍式斧槍術。いずれも、達人と呼んで差し支えない隙のなさ。
絞り出すような声で【暴鮫の牙】は呟いた。
「どうせお前らの様なのが来ると思ってたよ。自分の懐を傷めたくない州兵は助けを呼び、舐め腐った中央は一騎当千だと思い込んでいる駒を貸す。いつもそうだ。大体がそうだ。だから今日の昼間のだって本気じゃないとわかっていたし、お前らが忍び込んでくるのも分かっていた。こそこそと、空き巣のようにな」
「おいおい、家主を追い出して人の家に勝手に住み着いた強盗が偉そうな口を利くじゃないか。言っとくがこれは優しさなんだぜ? お偉方が求めてるのはお前の首だけだから、小悪党のちんけな命程度は見逃してやろうとしてたんだ。だがまあ、要らないなら偉大なる大地に返しておくのも吝かではない。礼は要らないぞ。見ての通り、大した手間ではなかったからな」
「減らず口を。第五分隊程度の下っ端が偉そうに」
「おお、それを知ってるということはちゃんと新聞は読んでるのか。だがあまり詳しくなさそうだから教えてやる。【独立命撰特務】では三年以内の除名は名簿に残らない。だからお前の名は、誰も知らないんだ。すまないな」
その言葉は見事に【暴鮫の牙】の触れられたくない部分に突き刺さった。だからこそ、【暴鮫の牙】は表情を消し、全身に殺意を漲らせて腰を落とした。
先手は、【暴鮫の牙】。
斧槍の槍の部分で下から突き上げるようにして振り上げる。それはまさしく雷光のごとき一閃。男が【独立命撰特務】に任命されたことがあるという事実を裏付けるように冴えた技前だ。しかも、それは単発ではない。躱されると判断すると、柄の中程に握った左手を中心に回転させ、石突で上体を反らしたヒノスバの顎を撃ち抜こうとする。
それに対し、ヒノスバは自身の斧槍の柄を跳ね上げることで軌道を逸らした。そして、そのままの勢いで体を反転させ、ぽっかりと空いた脇を突く。こちらは目を惹くような派手さはないが、流れるように滑らかな動き。
それに対し、【暴鮫の牙】は斧槍を切り返すと、柄を叩ききるかの勢いで弾く。
それに対し、ヒノスバは回した石突で肘の内側は叩こうとする。
それに対し、【暴鮫の牙】は柄を手の中で滑らして相手の柄と打ち合わせる。
それに対し、それに対し、それに対し。
それらの攻防は、一度瞬きをする間に行われる。見守る三人の中で辛うじてついていけているのはファウーゼのみ。メディエはやはり戦士は頭がおかしいと呆れ、オウカはその音の連なりを楽しんでいる。
刃同士がこすれ合って火花が散り、石突が宙を突いてうなりを上げる。
(思たより、やるわ。さて、うちがやるとしたらどう攻めるやろか)
剣は構えずとも頭の中で想像しつつ、細かく体を揺らすファウーゼ。それに気付いたヒノスバは、頼もしい新人だと呆れかえった。
ヒノスバにとっての誤算は、相手の腕前が想像の一段上だったこと。自分の動きについてこれているその時点で、【暴鮫の牙】が【独立命撰特務】を辞めてからも厳しい研鑽を積んできたことが容易に想像できる。何のしがらみもなく、もう少し若ければ、碧雲隊に来いと言いたいくらいの腕前だった。
だが、逆に言えばそれだけだ。その腕前はヒノスバには及ばず、権力に狂って罪を犯した相手を自分の隊に誘うことはない。
(だからお前は、ここで斬る)
雄たけびを上げて渾身の斬り下ろしを振ってくる【暴鮫の牙】に合わせ、自身も斧槍を振り上げる。二人の間でぶつかり合った得物の拮抗は一瞬。僅かに打ち負けたヒノスバの体勢が僅かに崩れる。
一歩踏み込み、畳みかければ殺せる。そう直感しつつ、【暴鮫の牙】は理解する。これは誘いだと。
もう一手牽制を打ち、完全に体勢を崩した後の方が確実。そうすれば膝を曲げた隙だらけの胸に致命の一撃を叩きこめる。その光景が目の前に浮かびあがり、【暴鮫の牙】は冷静に石突を振るった。
直後、【暴鮫の牙】の手から斧槍がすっぽ抜けた。
「あ……?」
腕は無事で怪我はない。肩や背中、向けにも。頭部に打撃を受けたわけでもない。
だが、腕の感覚がない。
それを理解した【暴鮫の牙】の胸に、ヒノスバの斧槍の石突が叩きこまれた。
吹き飛び地面に仰向けに倒れる【暴鮫の牙】と、それが手放した斧槍を拾ってオウカに投げ渡すヒノスバ。勝敗は明らかで、背後で見ていた三人は止めていた息をゆっくりと吐いた。
「なん、で」
口の端から血を吐きつつ問う【暴鮫の牙】にヒノスバは肩を竦める。
「お前の武器、軍の支給品だろ? 壊すわけにはいかないからな。知ってるとは思うが軍人の犯罪に時効はないんだ。最高級品は在庫が少ないから返してもらうぜ」
「そう、じゃ、なく」
「最後のか? 暴漢の武器を叩き落とすのは軍式斧槍術の基本のきだろ。ただの徹しだよ。ま、俺が使うとちょっとばかし痺れが酷いが」
他に質問は? とヒノスバが問い返すが、【暴鮫の牙】は返事をしなかった。どころか、既に息をしていなかった。
技は鍛えていても体は鍛えていなかった。薄々感じていたことだったが、手加減している余裕はなかった。だからヒノスバは一瞬目を閉じて息を吐くと、分隊の三人の方へ振り返った。
「ファウーゼ、核の操作を」
「はいはい。きちんと勉強してきてますよ」
そう言ってファウーゼは【亜宮核室】に入り、中にある巨大な水晶玉に触り始める。その間にメディエは下層の打ち漏らしに止めを差し、オウカは嫌そうな顔をしながら【暴鮫の牙】を遺体袋に詰め始める。ヒノスバはてきぱきと働く隊員たちを見つつ、斧槍を担ぎ直した。
各人が作業を進めた結果、一番てこずったのはファウーゼだった。そのため、四人は【亜宮核質】に無言で佇む。
そうしていると、最初に口を開いたのはファウーゼだ。
「……なんや後ろから圧かけてくるのやめておくれやすか? 認証手順が正規の方法やと複雑なんどす」
「別にかけてはない。時間をかけすぎると死体が臭い始めるからオウカが大変なだけだ」
「俺は眠いから早くしてほしい。先輩、頑張れー」
「私もです。一度柔らかい寝台に慣れてしまうと駄目ですね。馬車の床はもう嫌なので」
ファウーゼは少しむっとした顔をしつつ、手を動かす。
またややあって、ヒノスバは呟いた。
「ファウーゼ」
「急かしても早うなりまへん」
「そうじゃない。どうだった」
それが【暴鮫の牙】の実力に対してのことだと理解したファウーゼは少しだけ悔しそうに呟いた。
「強かったどす。うちやったら良くて五分五分やったと思います」
「俺の見立ても同じだ。だがまあ、メディエと二人がかりなら余裕だろう」
「分隊長も」
「思ったより強かったか?」
「はい」
「まあそりゃそうだ。こう見えて、俺は一対一ならフォフォ隊長とだって渡り合えると自負してんだぜ」
「ええ、決して見劣りしてはりまへん」
珍しく素直な反応に、ヒノスバは気分を良さそうに自身の顎を撫でた。これからもこうして生意気な隊員に一目置いてもらえるならば、分隊長としてやりやすいことこの上ない。
しかし、ヒノスバは笑みを消すと、声を低くして静かに言った。
「だが、まだ上はあるんだ。フォフォ隊長は【領域】に踏み込んでいるが、俺はまだだ。まだ上はある。上はいる。研鑽に限界はないってことがよくわかるだろ。だから、お前らは決してこうはなるな」
示すのはオウカが縛った死体袋だ。
「この人、何して馘になったんどすか?」
「時期が被ってないから具体的な話は知らない。だが、自分が最強だと驕り、他の者を見下し、隊規に反した。暴行、贈賄、脅迫。【独立命撰特務】の権力を笠に着てあらゆることをしたらしい。仕事だと、任務だと、そう言い張ってな」
「……あほくさ。そんなことしてる暇があったらもっとやることあんだろ。腕を磨くとか」
メディエの呟きにヒノスバは頷く。
「俺たちは強者として集められた。だから、形はどうあれ強者として在らねばならない。任務をこなしつつも鍛錬を続け、俺たちは最強を目指し続けなければならないんだ。それ以外のことをしている時間はない。なぜなら、命を選別するものとして相応しいと、俺たちが根拠として示せるのは――強さだけなのだから」
その言葉に対する三人の反応はそれぞれ。だが、三人とも目はまだ澄んでいる。新人だからか、馬鹿だからか、それとも狂っているからか。いずれにしても、この三人であれば大丈夫だろうと、ヒノスバ根拠のない安堵を覚えた。
(本当に、そういうとこだけは、信用できるんだよな。ルヴィケスさんが選ぶ奴等は)
まだファウーゼの時間はかかりそうだと腰を下ろしたヒノスバは、直後部屋の揺れにより慌てて立ち上る。
ファウーゼは悪戯っぽい笑みを浮かべてヒノスバを見下ろす。
「動きました。ほら、休んでる暇はおへんでっせ、分隊長」
それは明らかにヒノスバの隙を狙っていた顔であり、まんまとしてやられたヒノスバは呆れつつも頭を掻いた。
ヒノスバは斧槍を構えなおすと、三人の方へ振り返って言った。
「それでは第三段階に入る。お前ら、忘れるなよ。無事に帰るまでが作戦だ」
三人は頷き、ファウーゼが示す入り口に向かって歩き出した。




