再会の勇者候補チーム2
シュンが率いる勇者候補チームは、自由都市アルバハードに戻ってきた。
この町から幽鬼の森に向かって、フォルトの屋敷を目指すためだ。とはいえ領主バグバットの執事に紹介された道場で、仲間のアルディスが修行をしている。
まずは合流するために、その道場まで足を延ばした。
「さてと。「気」とやらを修得できたかな?」
今回の来訪は、アルディスの限界突破がメインだった。
幽鬼の森にいるとされるファントムが討伐対象である。彼女が「気」を修得していれば、精神体のアンデッドにダメージを与えられるのだ。
本人は、自分の力だけで討伐したいと願っている。だが修得できていなければ、仲間の補助魔法の出番である。修得いかんを問わず、幽鬼の森には向かう予定だ。
ともあれ、道場にある馬繋場に馬車を駐める。
そしてシュンが下車して、アルディスを迎えにいった。
「やあっ!」
シュンが耳を澄まと、道場の中から気合の入った声がする。久しぶりに恋人の声を聴き、思わず笑みをこぼした。
それから道場に入ると、二人の男女が組手稽古をしていた。
「よおアルディス! 調子はどうだ?」
「シュン! やっと迎えが来たぁ」
手を振ったアルディスは、清々しいアスリートの顔だ。どうやら数日前には修得して、シュンが迎えにくるまで鍛錬を続けていたようだ。
話したいことは多いが、修行を付けてもらったマードックに近づいた。
「マードックさん。アルディスを鍛えてもらって礼を言う」
「だははははっ! ちょいと無茶をしたがな。希望どおりに育てたぞ!」
「それは助かる」
「だが、修行は終わらん。お前からも、鍛錬を怠らないように言ってやれ」
「まぁアルディスは頑張り屋だ。俺が言わなくても続けるだろうぜ」
シュンはサボり気味だが、アルディスは日課の鍛錬を続けていた。
逆に、「やりなよ」と五月蠅いぐらいだ。彼女にはとても言えないので、ここでは持ち上げておく。
「今のアルディスなら、ファントムぐらいは余裕で倒せるだろう」
「マードックさんは知ってるのか?」
「ワシは倒したことがある。攻撃さえ当たれば、大したアンデッドではないぞ」
「良かったなアルディス」
「へへ。これでボクも限界突破して、シュンとギッシュに追いつくよ!」
「馬鹿もん!」
「あいた!」
得意気なアルディスが、マードックにどつかれている。
おそらくは、「気を抜くな!」と伝えたいのだろう。
討伐するまでは、何が起こるか分からない。いや。倒した後も分からないのが、こちらの世界の戦闘だ。
「油断大敵だ! そんなことでは、アンデッドに仲間入りだぞ!」
「分かってるわよ!」
「ならばいい。ではなアルディス。死ぬなよ?」
「マードックさん」
「ワシのことは師匠と呼べ!」
「はい師匠! お世話になりました!」
「はははははっ!」
「気」を教わるだけだったが、その過程でマードック流の型を習ったらしい。
すでに師弟関係となっており、彼女の目には涙が浮かんでいる。修行の日々でも思い返しているのかもしれない。
その様子を眺めていたシュンは、過去の読んだ熱血空手漫画が脳裏に浮かんだ。
「何を笑ってるのよ」
「実業団でも、そんな感じだったのか?」
「さすがにないわよ。今のだってパワハラで訴えられるわ」
「だろうな。こっちの世界にいると、日本が馬鹿らしくなるぜ」
「そうかもね」
マードックは昭和時代の格闘家に近く、根性論を地で行くタイプである。
価値観が変化している最中の現代日本であれば、世間から糾弾されてしまう。だがこちらの世界だと普通であって、問題にする人は皆無だった。
その緩さが笑いを誘うのだ。
「マードックさん。依頼料だ」
「だははははっ! 悪いな。これで、道場から出ていかなくてもよくなる」
「強いのに何してんだか」
「だははははっ! また鍛えたくなったら戻ってこい!」
マードックに依頼料を渡したシュンは、アルディスを連れて馬繋場に向かう。
そして、馬車内で待っているチームメンバーと合流した。
「あれ? ラキシスさんがいる」
「ど、どうも」
「新しくメンバーに加えたぜ。信仰系魔法での治療もできるぞ」
「ふーん。シュン、まさか」
「勘違いすんな。信仰系魔法の件で相談に行ったんだよ」
「それで?」
アルディスからは疑いの目で見られたが、シュンは今までの経緯を説明する。もちろん、ラキシスを欲望のはけ口にしていることは内緒だ。
ともあれ、説明を聞いたアルディスは驚いている。
その理由は、神聖騎士団に異動となった件についてだった。
「ちょっと! ボクたちはどうなるのさ!」
「異動は俺だけだぜ。他のみんなは、今までどおりでいいってさ。まぁ国家の中級騎士よりも身分が上になるから、建前としては部下なんだけどよ」
「建前? ならいいんだけど……」
「これで、チームとしては万全だぜ」
「確かに治癒専門の神官さんがいるなら、今までよりは戦いやすくなるね」
「そうそう。エレーヌも支援に回れるしな」
あくまでも書類上の話なので、勇者候補チームとしては変わらない。
そうしておかないと、チーム内で軋轢が生じてしまう。
「なるほどね。だからギッシュが不貞腐れてるのね」
「うるせえぞ空手家!」
「そんな部下だの何だのって考えてる場合じゃないよ? ボクも限界突破をすれば、ギッシュのレベルに追いつくわ!」
「けっ! また引き離してやんぜ!」
「そうそう。ギッシュは、自分が強くなることだけを考えてりゃいいのよ」
「ちっ。分かったから、さっさと出発しようぜ」
(ナイスだぜアルディス! あれからもギッシュは、不満ばっか言ってやがった。いちいち蒸し返してくるから疲れんだよ)
強さに関して貪欲なギッシュは、アルディスの言葉で機嫌が直ったか。
元暴走族総長の面目があるから反発しているだけで、権力には興味がない人物だ。シュンが抑えようとしても角が立つため、このフォローは有難い。
「そうだな。まずは、執事さんに会いに行くぜ!」
幽鬼の森に向かう場合は、前回と同様に、領主バグバットの執事が同行する手筈になっていた。日程は決めてあったので、合流の準備を終えているはずだ。
そして今回は、フォルトがいるだろう。
本来なら会いたくもなく、殺意すら抱いている。また前回の強硬手段について、何か言われるかもしれない。
そう思ったシュンは、少しだけ憂鬱な気分になるのだった。
◇◇◇◇◇
シュンが率いる勇者候補チームが、幽鬼の森に向かっている頃。
テラスで寛ぐフォルトは、三人の女性と向き合っていた。
そのうちの一人は、魔族の聖母シェラである。白衣の下に着込んでいるボディコンワンピをイヤらしい視線で眺めて、目に焼き付けた。
続けて、もう一人は元聖女ソフィアだ。最強のビキニビスチェを更にイヤらしく凝視して、目に焼き付ける。
「でへでへ」
「なぜ、私を見ない」
そして最後の一人は、傲慢の悪魔ルシフェルだ。フワフワと浮いて、フォルトの視界に入ろうとしていた。
確かに、好みではある。
左右の色が違うオッドアイの持ち主で、しかもボンテージ姿。他にも背中から生えた翼・髪型など、自身の趣味が反映されている。
「何度も言っているが、大罪の悪魔はそそらないのだ」
「はははははっ! 相変わらず冗談が上手だな!」
「………………」
「それで、私に何の用かね?」
ルシフェルは腕を組みながら、フォルトよりも上に浮く。
その理由は――たとえ主人であっても――見下すためだと理解している。「さすがは傲慢の悪魔」だと、別の意味で感心してしまう。
「ソフィアとシェラを連れて、北の平原でパワーレベリングだ」
「ほう。貴様にしては、よく考えたものだな」
「レベルは三十まででいいぞ」
「はははははっ! もっと上げてやっても構わないぞ?」
(限界突破の作業をやらないと、レベルは三十で止まるのだが……。マウントを取りたくて仕方がないようだ。もしかして俺は、こういう感じに振る舞いたいのか?)
大罪の悪魔は、フォルトの一部なのだ。ならばルシフェルの傲慢の見せ方は、自身の欲望と考えられる。
そう思った瞬間に、唖然としてしまった。
「フォルト様。二人だけで大丈夫でしょうか?」
「ふははははっ! 安心しろ。俺のルシフェルがついている!」
「はははははっ! 私が一緒にいるのだ! 何を心配する必要があるのだ?」
「「はぁ」」
思わずルシフェルのマネをしたが、フォルトは何となく気分が良くなる。
するとソフィアとシェラは、顔を見合わせて溜息を吐いた。気持ちは痛いほど分かるので、乾いた笑みを浮かべるしかない。
「あまり、本気を出すな」
「なぜだね?」
「レベル差がありすぎる場合の実験をしていないのだ」
「ほほう。では貴様に変わって、私が実験をしてやろうか」
「やらなくていい。今日中に帰ってこられなくなるだろ?」
「確かにな。ずっと平原に居てはいかんのか?」
「俺が寂しいからな。それと、有翼人に発見されるな」
「誰にものを言っている。透明化の魔法ぐらい使えるぞ!」
「なら安心だ」
「まぁ任せておけ。貴様がむせび泣くほどの働きをしてやろう」
フォルトはルシフェルを使って、おっさん親衛隊のレベルを、最低でも三十にしてしまうつもりだった。
限界突破の作業を、その都度やるのが面倒臭いからだ。
この傲慢の悪魔は、集団戦に特化している。パワーレベリングのお供なら、サタンよりも効率が良いだろう。
何にせよ、そろそろ出発してもらう。
「二人とも気を付けてな」
「はい魔人様。ちゅ」
「フォ、フォルト様。ちゅ」
「でへでへ」
「………………。私はいいのか?」
「いいから! さっさと行って、とっとと帰ってこい!」
「寂しがり屋め。私が戻ったら、豊満な胸で挟んでやろう」
「はいはい」
ルシフェルは右腕にソフィア、左腕にはシェラを置いて、空へと飛び立った。
体格は人間の女性と変わらないのだが、二人を軽々と抱えている。かなりの飛行速度で視界から遠ざかっているため、途中で落とさないか心配だ。
以降のフォルトは、テラスの専用椅子に腰を下ろした。
すでにカーミラが座っており、顔を近づけながら密着してくる。
「あぁ柔らかい」
「御主人様が大好きな女の子の体ですよぉ」
「極楽じゃ」
「あんっ!」
フォルトの顔が、だらしなく緩む。
おっさんだと通報ものだが、今の若い姿でも同様かもしれない。
ともあれカーミラを堪能していると、ベルナティオとレイナスが近づいてきた。鍛錬が終わったようで、二人の首筋に流れる汗がキラキラと輝いて見える。
「お疲れだな。レイナスの調子はどうだ?」
「きさまのせいで敏感過ぎるから、集中力が切れやすいな。だが最初の頃よりは、マシになってきたと思うぞ。そろそろ、モノにするのではないか?」
「フォルト様と師匠では、触り方が微妙に違いますわ。快感の波に間がある関係で、何とか耐えられていますわね」
「えっと。何の話をしているのだ?」
「スキル『一意専心』の修得についてだが?」
微妙に違う気はしたが、回答はレイナスへの指導なので合っている。
深く考えると下半身が疼くので、話題を変えたほうが良さそうだ。
そして二人は、同じテーブルに着いた。同時にタオルで汗をふき取りながら、水分補給を始めている。
フォルトは「そう言えば」と続けて、ベルナティオに質問した。
「ティオは、シュンたちに会うのは初めてだったな?」
「確か、エウィ王国の勇者候補だったか? 戦ってもいいのか?」
「やめておけ。レイナスに負けた相手だぞ」
「そうですわ。師匠が得るものはありませんわよ」
レイナスとシュンの模擬戦は、彼女の圧倒的勝利で終わっている。
これといって目を見張る力は無く、〈剣聖〉にとってはカカシも同然。戦うメリットは皆無で、「やるだけ無駄」とはレイナスの言葉。
実に辛辣だが、シュンに向けている感情はよく分かった。
「ところで、きさま。ソフィアとシェラは出発したのか?」
「さっきな。ティオも行きたかったか?」
「きさまが言っていたパワーレベリングというやつか。残念ながら、私の修行にはならん。もう少し強めの魔獣が相手なら良いのだがな」
「棲息する魔獣の種類は知らないぞ」
「勇魔戦争では、檻の中の魔獣よりも強いのがいたようですわ」
「ほうほう」
勇魔戦争では、北の平原が激戦地だった。
魔族との戦いもあったが、元々棲息する魔物・魔獣も襲ってきたらしい。中には今回捕獲した魔獣よりも、推奨討伐レベルが高い種類も存在した。
これらは、人間と魔族の両方に被害を出している。また強いて言えば、人間のほうがその割合は大きい。
理由は、魔族よりも人間が弱いからだ。
「それでも戦争は、人間側が勝ったのだな」
「さすがに拙いと思ったのか、聖神イシュリル神殿が儀式魔法を行使したと聞き及んでいますわ」
「神の力を借りたってことか」
「実際には目にしていませんが、歴史の授業で習いましたわ」
何人かの命を代償に、神の奇跡を願う。
良くあるシチュエーションだが、効果は絶大である。広大な平原の一部でも、魔物や魔獣を寄せ付けないフィールドを作り出したそうだ。
「話が飛んでしまったな。まぁ神を馬鹿にするのは止めよう」
「ふふっ。フォルト様なら倒せますわよ」
「ないない。そもそも俺の攻撃は、神に通用しないぞ」
「魔神にならないと駄目でーす!」
カーミラが口を挟んでくる。
この話は、魔の森で暮らし始めたときに、彼女から聞いた話だ。大昔に勃発した神話戦争では、魔神が天界の神々の何柱かを殺したらしい。
ただし神話なので、本当かどうかも怪しいが……。
「魔神か。確かカルマ値が絶対悪、だったな」
「今の御主人様は、悪に傾いていますねぇ」
「俺は〈堕ちた魔人〉だからな」
「何だそれは?」
「俺の二つ名にどうだ? 格好良いだろ?」
「きさまは、〈色欲の化け物〉がお似合いだ」
「あっはっはっ!」
ベルナティオに切り返されて、フォルトは可笑しさが込み上げてくる。
実際に、そのとおりだからだ。
「さて。ティオとレイナスには、〈色欲の化け物〉の相手をしてもらうかな」
「そうこなくてはな。触り方の違いを教えてもらおう」
「いやですわ師匠。修行にならなくなりますわよ? ですのでフォルト様、最初に師匠を骨抜きにしてしまいましょう」
「よく分からんが、カーミラも行くぞ!」
「はあい!」
フォルトが立ち上がるのと同時に、三人も立ち上がった。
もちろん、向かう先は風呂場である。ベルナティオとレイナスは鍛錬をしていたので、今は汗ばんでいるのだ。
ここは是が非でも、入念に洗ってあげないといけないだろう。
そして再びだらしのない顔に変わり、足早に歩きだすのだった。
Copyright©2021-特攻君
感想・評価・ブックマークを付けてくださっている読者様、本当にありがとうございます。




