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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十五章 魔人と神聖騎士

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再会の勇者候補チーム3

 シュンが率いる勇者候補チーム一行は、自由都市アルバハードで吸血鬼の執事を乗せて、再び幽鬼の森に入った。

 この執事がいると、無数に徘徊はいかいするアンデッドに襲われない。

 大半のアンデッドは、過去に吸血鬼の真祖バグバットが召喚したからだ。とはいえ新たに自然発生したアンデッドも、格の違いで離れていくらしい。

 ともあれ八人乗りの大型馬車は、フォルトの屋敷に続く道を走る。薄い紫色の霧は不気味さを誘うが、二回目の来訪なので多少は慣れた。

 御者を務めるのはエレーヌだ。


「気を修得されたようですね」

「はい! 紹介してくれてありがとうございました!」


 拳をグッと握ったアルディスが、執事に礼を伝えた。

 マードックを紹介されたからこそ、短期間で「気」を修得できたのだ。


「いえいえ。マードック様は家賃の滞納が続いておりまして、道場を取り上げる寸前でした。今回の件でお支払いしていただけます」

「師匠って……」

「もちろん、デルヴィ侯爵様への贈物でもあります。アルディス様が強くなられることは、皆さまを支援している侯爵様の意に沿いますので」

「そ、そうなんだ。いいのかな?」

「隣接する領地の領主様です。仲良くするのは、当然でございます」


 マードックの滞納金など、大した金額ではない。しかしながら、格闘家としての腕は確かだった。

 アルディスが強くなれば、勇者候補チーム全体の価値が上がる。ならば、そうなるように彼を紹介したアルバハードの印象が良くなるのだ。

 シュンからすると、侯爵の後ろ盾が効果を発揮したと言えるだろう。

 執事の言葉からそう感じ取り、思わずほくそ笑んでしまう。

 そして、今回の主要目的について尋ねた。


「なぁ執事さん。どこにファントムがいるんだ?」

「ファントムの出現場所は、フォルト様の屋敷よりも先になります。ですから、到着後にお教えします。いま私から言えることは、道中のアンデッド対策についてです」

「アンデッド対策?」

「誠に恐縮ながら私が同行できるのは、屋敷との往復だけです。幽鬼の森の奥に向かうなら、アンデッドたちが襲ってきますよ?」

「一緒に来てくれねぇのか?」

「皆様方に関して主人からは、フォルト様の屋敷まで案内するように仰せつかっております。ファントムの出現場所は対象外なのですよ」

「た、確かにそうだけどよぉ」

「私は、バグバット様の執事でございます」


 吸血鬼にとっては、真祖の命令が絶対なのだ。フォルトの屋敷まで案内する指示は受けたが、それ以上のことはやれない。

 ファントムの討伐は、勇者候補チームの力量によって成されるもの。残念ながら、格闘家の紹介とは意味合いが違う。

 これについては、食い下がろうが情に訴えても変わらない。


「しょうがないよね。師匠を紹介してもらっただけでも有難いしさ」

「まあな。自力で何とかするしかねぇか」

「俺らだけで行けるだろ? ゾンビなんぞ、俺がグチャグチャにしてやんよ!」

「なら、ギッシュに任せるわ! ボクは触りたくないからね!」

「いや。空手家も戦えよ」

「ゾンビは嫌よ! ボクは素手だよ? 腐った死体なんて触れないよ!」

「はははははっ! ギッシュの負けだな!」

「うるせえホスト! いいよ。俺がやってやんよ!」


 アンデッドと言っても幽鬼の森にいるのは、ゾンビやスケルトンが多い。勇者候補チームであれば、何の苦労もなく倒せる。

 問題は別にあり、後ほど考えなければならない。

 何にせよフォルトの屋敷に到着するまでは、他の話題に移った。


「ねぇねぇシュン。信仰系魔法を使えるようになったの?」

「使えるぜ。神から授かったのは、治癒や防御魔法だった」

「凄いね!」

「初級だけどな。これも、聖神イシュリルの導きだぜ!」

「ちょっと。宗教にハマんないでよね!」

「ハマってはねぇけど、実際に声が聴こえたんだ。それによ。力の源は信仰心なんだぜ? つまり、神を信じねぇと使えねぇんだよ」


 現在のシュンは、聖神イシュリルの信者になっている。

 シュナイデン枢機卿すうききょうにも伝えたように、神からの声が聴こえれば信じるしかなかったのだ。脳に直接語りかけられた声は、洗脳や詐欺の類ではない。また信仰系魔法を授けられたことで、神の存在を否定できなかった。


「そうやって、神様を軽く扱ってるから初級なんじゃない?」

「はははははっ! かもなあ。まぁ信じるも信じないも自由だぜ。だが俺は、神聖騎士団に異動したしな。神殿勢力の一員としても信じねぇといけねぇ」


 アルディスには見透かされたようだが、ハマっていないのは本当だ。

 そう簡単に傾倒するわけがなく、神を「使える」程度にしか考えていない。とはいえ信仰系魔法を授けられて、ラキシスを自由に扱えるようになった。

 それを踏まえれば、聖神イシュリルに傾倒しても良いとは考えている。


「ボクたちに強要しなければいいよ。シュンの目的は変わらないんでしょ?」

「そうだな。勇者級を目指しながら、貴族としても成功するのは変わらねぇ。優先順位は勇者級に成長することだが、まぁいつものようにやるさ」

「勇者候補の務めってさ。魔物や魔族の討伐だよね?」

「魔族か。おっさんの近くにいやがるな。エウィ王国は魔族狩りを推奨してるし、本来は俺たちが討伐しないといけねぇのか」

「だよね」

「もう戦うつもりはなかったんだけどな」


 マリアンデールとルリシオンの魔族姉妹。

 容姿が良くても、種族と性格は最悪だった。特に後者は、アーシャと一緒に挑んでこっぴどく負けた相手である。

 屈服させて愉悦に浸りたいところだが、まだ勝機は見出せていない。


「もうって……。彼女たちと戦ったことがあるの?」

「片方な。負けたことが悔しいから、今まで黙っていた」

「おうホスト。気持ちは分かるが、どっちに負けたんだ?」

「ちっ。安心しろ。大きいほうだ」


 魔の森での出来事は、仲間に伝えていない。

 確かに、ルリシオン戦の敗北は悔しかった。しかしながらそれ以上に、当時の恋人だったアーシャを捨てたことを知られたくなかったのだ。

 もちろん現在の恋人たちに悪印象を与えるので、後者の件は今も隠している。


(アーシャは……。アルディスたちに言わねぇな。あいつにとっては、トラウマになるような出来事だったはずだ。俺が同じ立場でも隠し通すぜ)


 アーシャを捨てた理由は、シュンの黒歴史である。

 それは、彼女にとっても同様だろう。今でこそ原因は取り除かれているが、プライドが高いほど他人には言えない内容だった。

 彼女がアルディスたちの前に出ない理由も、ボロが出るからだと考えている。

 よりを戻すつもりなので、そのまま黙っていてほしい。


「ならよぉ。魔族の女どもは、共通の敵ってわけだ」

「共通と言っても、ギッシュは小さいほうだろ?」

「おうよ! 大きいほうは、ホストにくれてやんよ!」


 ギッシュはルリシオンに挑まないが、はっきり言ってシュンも遠慮したい。

 勝機を見出せていないこともあるが、そもそもリベンジするつもりがない。魔族の討伐が勇者候補の務めでも、次の敗北は死である。

 せめて勇者級まで成長して、確実に勝てる手段がないと不可能だ。


「皆様方は、ローゼンクロイツ家を御存知で?」


 そんなことを考えていると、吸血鬼の執事が疑問を呈した。

 ローゼンクロイツ家についてシュンは、過去に聞いたことがあるような気はする。と言っても記憶が曖昧なので、素直に「知らない」と答えた。


「シュン。座学で……」


 話を聞いていたノックスが、ここぞとばかりにツッコミを入れてくる。

 それに対してエレーヌが続き、シュンに答えを教えてくれた。持つべきものは、今の恋人である。


「ま、魔族の名家と習っていますよ」

「そ、そう、それだ! エレーヌも知っていたか」

「当たり前よ! アルディスは覚えてないだろうけどね」

「へへ。空手家のボクに、何を期待しているのかな?」

「もう!」


 シュンを含めて、前衛の三人は脳筋だった。誰かに聞いて済む話なら、別に覚えなくても良いする人種だ。

 ギッシュも誰かしらが答えるだろうと、そっぽを向いていた。

 ともかく話が脱線しそうなところで、執事からせき払いが聴こえた。


「ゴホン。よろしいですかな?」

「あ、どうぞ」

「エレーヌ様が仰ったとおり、魔族の中でも上位の家でございます。そして話に出ていた魔族の姉妹は、ローゼンクロイツ家の御令嬢なのです」

「へぇ。それで?」


 執事が伝えたいことは、魔族の貴族の家格について。

 力のみで家格が決定する魔族の中で、ローゼンクロイツ家は魔王の次に位置していた。勇魔戦争時の当主は、魔王軍六魔将筆頭のジュノバ。

 その令嬢姉妹が、話に出ていたマリアンデールとルリシオンなのだ。またジュノバほどではないが、姉妹も相当な力を有しているらしい。

 ちなみに座学だと、彼女たちについては別の内容で伝えられていた。


「つまり、俺たちじゃ勝てねぇって言いてぇのか?」

「いいえ。事実だけを申し上げております。それを踏まえたうえで、皆様方にお伝えしておかなければならない話があります」

「何だ?」

「ローゼンクロイツ家の現当主は、いま向かっている屋敷の主なのですよ」

「ってことは……。まさかおっさんか!」

「はい。ご存知ないようでしたので、僭越せんえつながら私からお伝えしました」


 執事に確認すると、シュンたちが知っている話だと思っていたようだ。

 この件については三国会議の晩餐会ばんさんかいで、姉妹が各国の首脳や貴族の前で宣言したらしい。しかしながらデルヴィ侯爵やバルボ子爵からは、何も知らされていない。

 まさにシュンは、開いた口が塞がらない状態だ。

 そして仲間を見ると、唖然あぜん呆然ぼうぜんとしていた。


「マ、マジかよ!」

「侯爵様から聞いておりませんか?」

「何も聞いてねぇよ!」

「そうですか。まぁいずれは知れ渡るかと存じます」


(ど、どうなってんだ? あんなキモいおっさんが強ぇはずが……。い、いや。もしも強かったと仮定すると……)


 執事の話を踏まえるなら、フォルトの異常さが納得できる。

 危険な魔の森で暮らしていたことや魔族を手懐けている件。エウィ王国の重鎮グリムから、双竜山の森を提供されている件。召喚した魔物を使役している件など。

 挙げればキリはないが、ジュノバとやらに近い強さを持つなら可能か。

 それは皆も思ったようで、馬車内が少し騒がしくなった。


「おっさんって、そんなにも強いのか?」

「力量については存じ上げません。先ほども申し上げましたが、あくまでも事実をお伝えしております」

「な、なるほど。執事さんは、俺たちに忠告してんだな」

「はい。森の奥地に同行できませんので、その埋め合わせと思ってください」

「洗脳じゃねぇのか?」

「はて。何の話か分かりませんが……」

「いや。こっちの話だ」


 フォルトは洗脳スキルを持っており、周囲の女性たちを従えている。

 そうシュンは考えていたが、執事の話で揺らいでしまう。


「異世界人の皆様方にとって、こちらの世界は特殊な環境ではないでしょうか?」

「そうだな。俺らがいた世界とは違い過ぎるぜ」

「私とて元は普通の人間ですが、吸血鬼に変化してからは力が増しました。何が起こるか分からない世界ですので、柔軟な思考を持つことが重要です」

「柔軟な思考ねぇ」


 執事からの忠告を受けて、シュンは考えを改めたほうが良いと感じた。

 現時点でのフォルトの情報が無い状態で、弱者だと決めつけるのは危険。警戒のしすぎは悪いことではなく、強者だった場合に備えられる。

 それでも社会的弱者のイメージが頭にこびり付いて、どうしても侮ってしまう。と言っても殺害する目的で訪れたわけではなく、まずは情報収集が先決か。

 そしてローゼンクロイツ家については、まだ話が続いた。


「シュン様にお尋ねしますが、勇魔戦争時におけるマリアンデール様とルリシオン様の逸話はご存知ですか?」

「逸話? あぁそういや聞いたことがねぇな。有名な貴族家なのは分かったが、あいつらも有名なのか?」

「知らぬは、命を落としますぞ」

「は?」

「マリアンデール様は〈狂乱の女王〉、ルリシオン様が〈爆炎の薔薇ばら姫〉と呼ばれております。当時はお二人だけで、ソル帝国軍を壊滅させました。軽々に戦うなどと口にしてはいけません」

「ぐ、軍を壊滅って……」


 シュンは頭を抱えてしまう。

 魔族は人間よりも強いと聞いていたが、シュンたちとの差は絶望的である。

 魔の森でのルリシオンは、ほとんど遊びに近かったということだ。同様に双竜山の森でのマリアンデールも、ギッシュを相手に子供以下の扱いだったのだろう。

 執事の話は有難い。

 こういった情報が欠如していたので、対応を誤るところだった。

 現時点では、魔族の姉妹を怒らせないにかぎる。


(おっさんがローゼンクロイツ家の当主ってことは、姉妹のどっちかと結婚でもしたのか? 魔族の美的感覚は知らねぇけど、まさかゲテモノ好きなのか?)


 シュンは執事の話から、魔族姉妹の脅威とは別のことに意識が向く。

 胸の奥に渦巻く嫉妬と殺意は、すべてフォルトに対してだからだ。なのでせっかくの忠告が、あまり響いていない。


「おっと。執事さんの話はよく分かったぜ。ギッシュも聞いてたよな?」

「ちっ。今は小さい魔族に喧嘩けんかを売らねぇよ。だが諦めたわけじゃねぇぞ!」

「まあな。人類は勇魔戦争で魔族に勝ってんだ。やれなくはねぇだろ」

「あたりめえだ!」


 執事からの忠告を聞いたところで、ギッシュが退くわけがなかった。

 硬派で不器用なツッパリだからか、一度決めた目標を捨てられない。現時点では勝てないと納得したとしても、だ。

 鍛錬に鍛錬を重ねて、いずれはマリアンデールにリベンジするつもりだろう。

 そして執事が続きを話そうと、口を開いた瞬間。


「おい! 奴らの屋敷が見えてきたぜ!」

「相変わらずの幽霊屋敷だよね」

「ま、また倉庫に泊まることになるのかなぁ?」

「数日はお邪魔するし、今度はお風呂を貸してもらうように交渉しないとね!」

「私は初めてお会いしますが……」

「俺らと同郷のおっさんだ。ラキシスは近づくんじゃねぇぞ」


 話の続きは、フォルトの屋敷が見えたことで遮られてしまう。

 そのことにはシュンを含め、全員が気付かなかった。中でもアルディスは御者台に身を乗り出して、エレーヌの隣に移動している。


「………………。まぁよろしゅうございましょう」

「何か言ったかい執事さん?」

「いえ。どうかご自重を……」

「おっさんは同郷の日本人だぜ。何とかなると思うぜぇ」

「そうそう。おっさんも悪い人じゃなかったしね」

「おじさんは破廉恥だから、ボクは近づかないわ」

「そ、それはアルディスが悪いんじゃ」

「部屋をのぞいたのは悪かったけどさ。エレーヌも嫌でしょ?」

「そ、そうだね」


 今度の来訪では、屋敷の主フォルトがいるはず。

 一応はギッシュが言ったように、同郷の日本人である。同時に召喚されたノックスも、あまり警戒していない。

 アルディスとエレーヌの話はよく分からないが、フォルトを嫌っているのか。ならば、自分たちから近づくことはないだろう。

 それでも、シュンだけは違った。


(あのおっさんが、ローゼンクロイツ家の当主とはな。とりあえずはリーダーの俺が相手をしなきゃいけねぇし、まずは会話から情報を引き出してぇぜ)


 執事の忠告がなくても、シュンはフォルトを警戒している。

 ただし言葉にして仲間と共有できるほど、内容を整理しきれなかった。後回しになるが、アンデッド対策を話し合っているときにでも伝えれば良いだろう。

 今は薄い紫色の霧が立ち込める不気味な森を抜けて、一息入れたいところだ。グッと体を伸ばした後は、幽霊屋敷をにらむ。

 そして敷地内に入ると、何人かの人影が見えたのだった。

Copyright©2021-特攻君

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