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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十五章 魔人と神聖騎士

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アーシャ日記2

 幽鬼の森に戻ったアーシャは、レベルが三十に到達していた。フォルトにおねだりをして、北の平原で魔獣を討伐したからだ。

 召喚されたリビングアーマーを盾に、後方で『奉納の舞(ほうのうのまい)』を踊りながら攻撃魔法を撃ち込んでいた。

 同様に戦闘参加したソフィアも、その恩恵にあずかっている。


「あたしも限界突破よ!」


 アーシャは現在、フォルトの寝室にいる。

 魔人の強さを目の当たりにして、身体の火照りを解消したところである。また安全だったとはいえ中型魔獣と戦ったので、本能的に愛する男性の温もりを求めていた。

 そして身分証となるカードを確認して、レベルが三十に到達したことを知る。


「ほう。アレで上がったのか」

「うん! 上がってたよ」

「ならばレベル三十までは、パワーレベリングで良いのかもしれないな」

「何それ?」


 ベッドに座りながらギャルメイクを整えているアーシャは、フォルトに聞き慣れない言葉の意味を尋ねた。

 いや。実は知っているが、彼を喜ばせるためだ。


「強者に寄生して、レベルを上げることだな」

「寄生って酷いんですけどぉ?」

「こ、言葉が悪かったな! まぁゲーム用語だ。しかしゲームと違って現実だし、悪い意味ではないぞ。死んだら終わりだからな」

「だよねぇ。じゃあフォルトさんに寄生してれば、あたしは死なないね!」

「と、当然だ! アーシャを失うわけにはいかん!」

「ギャル好きのエロオヤジだもんね」

「うむ」

「認めるなあっ!」


(もう離れないよ! フォルトさんより強い男なんていないっしょ! ルリ様に負けたときのような思いをするのは嫌っ!)


 もちろんアーシャは、おっさんが好きになったわけではない。

 今でも虫唾が走るほど嫌いだが、フォルトだけは特別だった。他のおっさんが言い寄ってくれば、ボロクソに罵倒するだろう。

 そして誰よりも強い魔人から離れなければ、過酷な世界で生きていける。


「それにしても、アーシャが限界突破か。レベル三十だとレイナスと同じで、魔物の討伐になる可能性が高いな。だが違う可能性もあるし……。楽しみだ」

「楽しみなん?」

「ガチャっぽいところが?」

「あー、確かにねぇ。じゃあ後で、シェラさんに神託を頼んでくるよぉ」

「後で?」

「運動しよ? 運動!」

「でへでへ」


 フォルトが喜ぶことなら何でもすると、アーシャは決めている。

 飽きられて捨てられないように、彼をつなぎ止めるためだ。元カレのシュンと違ってそんなことはしないと確信しているが、不安は常に付きまとっていた。

 日課の訓練によって体が鍛えられているので、二回戦も余裕でこなせる。常に求められるならと、積極的に自分から求めてしまう。

 ともあれ、ギャルに対して奉仕願望があるおっさんは「ちょろ」かった。

 以降は彼が果てるまで睦み合って、寝室の床に設置された扉の先に向かう。


「あっ! レイナス先輩がいる!」

「あらアーシャ。フォルト様のお相手は終わったのかしら?」

「終わったよぉ。今はベッドの上で、ボーっとしてるね!」

「ふふっ。フォルト様らしいですわ」


 フォルトは現在、俗にいう賢者タイムに入っている。

 「次はレイナス先輩かぁ」と苦笑いを浮かべたアーシャは、脱衣所で服を脱ぐ。同時に風呂の清掃中だったブラウニーから、真っ白なタオルを受け取った。

 そして風呂場に戻り、体を洗い始めた。

 ルーチェが作った魔導具の蛇口を捻るとお湯が出て、自作の石鹸せっけんまである。今では慣れてしまったが、こちらの世界だと上級貴族でないと整えられない環境だ。

 やはり、彼からは離れられない。

 そう思いながら、湯船に浸かっているレイナスに声を掛けた。


「ティオさんの修行って大変みたいね」

「そうね。でも、強くなった実感はあるわ」

「へぇ。レベルは上がったん?」

「今は三十三ね。魔物を討伐しなくても上がるということは、それだけ無駄が多かったのでしょう。フォルト様に良い報告ができますわ」

「そう言えばさぁ。次の狩りはいつなん?」


 マリアンデールとルリシオンの限界突破が終わったので、次はおっさん親衛隊が狩りに出かける番だった。

 次回からはベルナティオも加わるので、レベル上げの効率は上がるはずだ。とはいえアーシャは限界突破作業を終わらせないと、残念ながらレベルが上がらない。

 なるべくなら、それが終わった後が良い。

 そう考えていると、レイナスからとある件を伝えられた。


「聞いておりませんが、あの者たちの対応が終わった後でしょうね」

「うぇ。またシュンたちが来るんだったあ! ちょー嫌なんですけど!」

「ふふっ。今度はフォルト様が在宅中ですわよ」


 魔族の姉妹の限界突破が終わった後の予定。

 それは、シュンが率いる勇者候補チームの来訪である。

 すっかり忘れていたが、フォルトたちが捕獲した魔獣を引き渡すこととチームメンバーの限界突破作業が目的と聞いていた。

 魔の森での一件から距離を取っており、顔を見るのも嫌なのだ。

 復縁など以ての外で、友達として関係を維持するつもりもなかった。だがフォルトに嫉妬しているのは見抜いており、ちょっとした復讐ふくしゅうはしたいかもしれない。


「そうね! じゃあ、ラブラブなところを見せつけよっと!」

「あの男は自信家ですから、きっと悔しがりますわ。アーシャは堂々と、フォルト様との仲を見せつけてやると良いですわね」


 そう。悪いのはすべてシュンなのだから、アーシャが隠れる必要は無い。思う存分に、自分を捨てたことを後悔させてやれば良いのだ。

 などと話が盛り上がってきたところで、レイナスが湯船から出た。


「良い湯でしたわ。アーシャはこれから、何をするのかしら?」

「シェラさんに、限界突破の神託を頼むつもりぃ」

「でしたら、テラスに行くと良いですわ」

「サンキュー! お風呂から上がったら行ってみるね!」

「ふふっ。レベルが近くなりましたわね」

「実感がないなあ。剣術だとあっさり負けるしぃ」


 戦闘に関して、アーシャは器用貧乏である。

 総合的なレベルはレイナスに近づいたが、個々の技術では劣っていた。剣術では彼女に遠く及ばず、魔法だとソフィアに負けるのだ。

 それについてはフォルトの育成方針で、文句をいうつもりはない。


「フォルト様は戦闘に関して遊びだと仰りますが、私たちは確実に力を付けていますわ。エウィ王国であれば、中級騎士に相当しますわね」

「そうなの? まぁあたしたちのために、色々と考えてるのは分かるけどね」


 勇者候補のシュンとギッシュは、すでに中級騎士待遇を受けている。

 そして召喚当時のアーシャが勇者候補に選ばれなかったことを考えれば、フォルトの育成方針は成果を上げていた。

 たとえそれが彼の趣味から設定されたことだとしても、だ。


(あたしの称号が舞姫だから踊り子とか? フォルトさん本人も、あたしが踊ってるときの生足が見たいだけって言ってたけどね!)


 アーシャの中では、エロオヤジと化しているフォルト。

 それでも、自分に夢中だと思うとうれしい。体に付着している泡を湯で流した後はすべすべな小麦色の肌を確認して、「もっと夢中にさせよう」と決意する。


「では、フォルト様のお相手をしてきますわ」

「頑張ってねぇ」


 脱衣所で魔法学園の制服を着用したレイナスが、風呂場の梯子を上っていく。

 その姿にふと「戻って混ざろうかな?」と考えながら湯船に浸かったところで、脱衣所からベルナティオが姿を現した。


「ティ、ティオさんも今からなん?」

「うむ。レイナスを指導していたのだが、土埃つちぼこりで汚れてしまった。夕食までは時間があるから、先に汗を流そうかと思ってな」

「へ、へぇ」


 この「汗を流す」という言葉は、別の意味が込められている。

 ベルナティオの表情から察したアーシャは、寝室に戻るのを諦めた。

 当然だ。〈剣聖〉とレイナスは師弟の間柄。邪魔をしては悪いだろう。いや、その二人がそろう寝室に戻るのは自殺行為である。

 剣術での師弟でありながら、お互いがフォルトの調教を受けた女性なのだ。


(素直にシェラさんのいるテラスへ行こうっと)


 そう思い直したアーシャは、ほんのひと時の時間をベルナティオと過ごす。

 彼女は色々と期待しているので、体を洗うのも一瞬で済ませている。また湯船に浸かることもなく、梯子に向かっていた。

 そして〈剣聖〉の姿が見えなくなると、「期待し過ぎ!」と笑ってしまう。

 にも角にも限界突破の内容は、フォルトも楽しみにしていた。ならばとアーシャは湯船を出て、鼻歌を口ずさみながら脱衣所に向かうのだった。



◇◇◇◇◇



 魔族の司祭シェラに頼んで限界突破の試練を受けたアーシャは、フォルトに伝えるのを夕食の時間まで待った。

 待ったというよりは待たされたが正解だが、これも彼を喜ばせるためだ。

 「身内が大好き」・「二度手間が嫌い」という性格である。夕食時のような皆が集まるときに伝えたほうが楽しませられると、アーシャは知っていた。

 ちなみに食堂での席順は決まっておらず、皆は適当な席に座る。

 ただしフォルトとカーミラ・マリアンデールとルリシオンは、二席を確保するのが通例となっていた。またクエストに出ていないときのリリエラは、隣のデーブルで食べている。

 本日は限界突破の話があるので、フォルトの空いた隣を占領した。


「戦神の指輪?」


 レベル三十の限界突破は高確率で魔物討伐だが、アーシャは違った。

 戦神の指輪と呼ばれるアイテムを入手するらしい。シェラも捕捉として「大変珍しい神託だが、例はある」と言っていた。

 フォルトはいつものように、「ふーん」と興味なさげに聞いている。しかしながらそれが違うということも、アーシャは知っていた。

 こういうときは、思考を巡らしているのだ。


(フォルトさんって、意外と頭がいいよね! 思いつきで話すことが多いけど、最後はいい具合に終わってるしぃ)


「最初の限界突破だから、入手が無理ってわけじゃないのよ!」

「ほう。どうなのだシェラ?」

「さすがに神々も、突破が不可能なことは試練にしませんね」

「でね。どこにあるかは、シェラさんも知らないのよ!」

「そうなのか? うーん。指輪の名称だけじゃなあ。困った困った」


 フォルトとの生活が長くなり、アーシャはよく理解している。

 あれは本当に困っていない、と。

 打開策を考えようとしているが、単純に情報が足りないだけだ。と言ってもこの状況を楽しんでおり、笑みを浮かべながら料理をガツガツと食べている。

 そこで近くのおかずを箸で取って、フォルトの口に運んだ。


「あーん。これを食べたら何か思いつくっしょ!」

「パクッ! もぐもぐ。良し! まずは、みんなにこう! 戦神の指輪について、誰か心当たりはないか?」


 アーシャが夕食前に、情報収集をしても良かった。

 それを行わなかったのも、フォルトを楽しませるためだ。身内と額を付け合わせて考えることが、彼を喜ばせる要因だった。

 根が単純なおっさんだけに、他の身内も理解している。重要な話題のときは訊かれるまで話に加わらない。

 そして、手を挙げたのはソフィアだった。


「戦神の指輪は、戦神オービス神殿の秘宝の一つですね」

「ほほう。さすがはソフィア。詳しいな」


 戦神オービスとは天界の神々の一柱で、力と勇気を司る。

 総本山はソル帝国にあり、国教となっていた。


「ならさ。神殿から奪えばいいってことなん?」

「残念ながら、勇魔戦争のどさくさで盗まれたそうです」

「ふむ。マリ、ルリ」

「ちょっと! 私たちは盗んでないわよ!」

「フォルトぉ。戦争のときは、帝国軍を蹂躙じゅうりんして遊んでいたのよお。帝都までは攻め込んでいないわあ」

「ははっ。冗談だ、冗談」


(人間を……。それも帝国軍を蹂躙じゅうりんしてたとか、マリ様とルリ様は怖すぎぃ。でも今は味方よ! 同じ身内だわ!)


 アーシャとしては、姉妹の敬称は外せない。

 身内に敵意を向けない・危害を加えないことは重々理解している。しかも、双竜山の森でフォルトに抱かれた後は優しくしてもらっていた。

 それでも圧倒的な力を持つ魔族で、人間に対しては残忍な一面を見せる。特にルリシオンからは恐怖を植え付けられており、タメ口は今でも無理だった。

 ともあれフォルトに捨てられないかぎり、姉妹は心強い味方である。


「盗まれたなら、誰かが持ってるってことだよね?」

「アーシャさん。犯人が特定されていれば、神殿勢力に何かしらの動きはあったかと思いますよ?」

「だよねぇ。他に情報はあるの?」


 アーシャの問いには、誰も口を開かなかった。

 つまりソフィア以外の身内は、戦神の指輪の情報を持っていない。ならばとフォルトの手を握ると、食事の手を止めて疑問を呈した。


「ちょっと待て。シェラに確認したいことがある」

「何でしょうか?」

「アーシャのような試練だと、俺たちはどこまで関与できるのだ? 魔物討伐であれば、戦闘直前の支援までは認められているよな?」

「はい。おそらくですが、指輪の入手までは手伝えると思います」


 アーシャの試練は難易度が高く、レベル三十の試練とは思えなかった。指輪の名称しかヒントがないためで、確実に情報収集をしないといけない。

 そうなると必然的に、他人の手を借りることになる。

 例えば、情報屋を使う場合。

 こちらが依頼側だとしても、情報屋は手伝ったことに変わりない。であればフォルトたちが手を貸したところで問題は無い、という解釈だった。

 ただし、それが正解かは分からない。


「なら、情報収集から手伝うとするか。そうなると、シルビアとドボを使いたい。リリエラが戻った後だな」

「アルバハードで情報収集はしないん?」

「俺が人間のいる町に行くとでも?」

「えー。近いんだから行こうよ! あたしが聞いて回るよ?」

「アーシャは馬鹿ですねぇ。どうせ、無駄足になりまーす!」

「何でよカーミラ!」

「理由ですかぁ? 簡単でーす!」


 カーミラが言うには、指輪の名称しか情報が無いからだ。

 形状も分からないので、最初に収集しなければならない情報が多すぎる。しかも神殿勢力の秘宝であれば、その価値は計り知れない。

 うその情報が蔓延まんえんしている可能性は高いだろう。

 下手に聞き込みをすると、偽物をつかまされて終わる。


「じゃあどうすんの?」

「冒険者どもから上がってきた情報を精査してから動けばいいんですよぉ。それに、すぐには動けませーん!」


 今後の予定は詰まっており、戦神の指輪は後回しになる。

 もうすぐシュンが率いる勇者候補チームが訪れるし、エルフの里にも行かなければならない。特に後者は、フォルトが楽しみにしている。


「ちぇ」

「まぁ待っている間にもできることはありそうだけどな」

「マジ? さすがはフォルトさんね。で、何をやればいいの? あたしの試練だし、あたしがやるよ!」

「いや。今は思いつかないぞ?」

「もっとサービスしてあげるからさぁ。こうやって……」


 フォルトの膝に手を置いたアーシャは、徐々に太ももへ移動させる。

 もちろん焦らしながらで、その先に進むかは彼次第だ。


「でへでへ。考えたいのは山々だけどな」

「ほらほら。ここを……」

「い、今は……。ちょっと!」

「きゃはっ! ほらほらほら!」

「わ、分かった! 分かったから!」

「ふっふーん! あたしの勝ち!」

「あっはっはっ!」


 フォルトが笑い出した。

 こういった冗談が通じるところは大好きだった。年齢が離れているとはいえ、何だかんだで相性が良いと思っている。

 娯楽が少ない世界なので、余計に楽しい。


「ならさ。夕飯を食べた後に、二人だけで考えようね」

「そそそ、そうだな!」

「ほら、あーん」

「あーん」

「見せつけるな! 私もやりたくなるだろ!」


 フォルトと席が離れているベルナティオが、アーシャに文句を言い始めた。

 少しばかり、独り占めし過ぎたか。だがこういったことも、食事中の歓談ではスパイスとなる。続けて他の身内にも責められるが、甘んじて弄られた。

 彼の周囲は、本当に平和である。


「今度は口移しでもするぅ?」

「そ、そんな積極的な!」

「んー!」


 皆に弄られた後も、アーシャはめげない。

 せっかく隣に座ったのだから、夕飯が終わるまでフォルトが喜ぶことをやった。捨てられないためには、自分がどうあるべきかだけを常に考えている。

 そして持ち前の明るさで、騒がしい夕飯を楽しむのだった。

Copyright©2021-特攻君

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