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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十五章 魔人と神聖騎士

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姉妹覚醒3

 ルリシオンはフォルトたちと別れ、西に向かった。

 そして視線の先には、土煙が舞っている。

 まだ姿は見られないが、魔獣どもが走っているのだろう。進路上になるこの場で待機していれば、わざわざ近づかなくても接敵できるか。

 そう考えて歩みを止めると、後方に大きな魔力を探知した。


(あらあ? 支援は要らないと言ったはずだけどお)


 身内だけは大切にする魔人。

 フォルトの要らぬお節介は、本音で言えばうれしい。だが魔族の名家ローゼンクロイツ家の令嬢として、その優しさに甘えるわけにはいかない。

 ともあれ見学ぐらいなら構わないので、誰が来たかを確認する。


「あれはカーミラじゃなくて……」


 空を見上げると、褐色肌の女性が向かってきていた。

 捕獲や運搬が得意な大罪の悪魔で、すでに仕事を終えたようだ。ならば支援ではなく、別の目的があるのかもしれない。

 何にせよ、魔獣どもと戦うまで時間がある。

 ルリシオンが大きく手を振ると、マモンは速度を落として降下してきた。


「よう! まだ始めてなかったか」

「まだ遠いわよお。それでマモンは、なぜ私のところに来たのかしらあ? 見学をしたところで、面白いものは見られないわよお」

「邪魔はしねえよ。猿以外の魔獣を捕獲できればいいぜ」


 マモンから話を聞くと、どうやら捕獲する魔獣の種類が足りないそうだ。各種魔獣を二頭ずつ捕獲することが、フォルトからの命令だった。

 それに納得したルリシオンは、ふと考え込んだ。

 確かに支援は必要なかったが、魔獣どもの数が多い。また試練の主旨は、討伐対象の発見と討伐である。

 つまりマンティコアと対峙たいじして、自分の力で討伐すれば良い。

 他の魔獣は邪魔なだけ。まとめて討伐しても意味はないのだ。


(私は、お姉ちゃんよりも融通が利くしねえ)


 姉のマリアンデールであれば、確実にマモンを追い返すだろう。しかしながら妹のルリシオンのほうが、物事を柔軟に考えられた。

 大罪の悪魔を送ってもらえたのなら、邪魔者の排除に使わないと損である。


「あはっ! なら、先に捕獲しちゃっていいわよお」

「そうかい? ルリが戦っている最中に捕獲するのは面倒だからねぇ。そう言ってもらえると助かるよ」

「相手が人間なら譲らないけどねえ。格下の魔獣を討伐しても楽しくないわよお。マンティコアさえ残してもらえれば構わないわあ」

「んじゃ! お言葉に甘えて、サクサクと捕獲しようかねぇ」


 魔獣の群れは、ルリシオンが視認できるところまで来ていた。

 目を細めて確認すると、二十頭以上はいるだろうか。あちらも二人を発見したようで、生意気にも威圧を込めた咆哮ほうこうを上げている。

 そしてマモンは頭をかきながら、右手を前に突き出した。

 魔法かスキルか。

 小声のため聞き取れなかったが、中空に無数の魔法陣が浮かんだ。とはいえそれも一瞬のことで、魔法陣が砕け散って地面に霧散していった。


「もしかして失敗したのかしらあ?」

「まさか。捕獲の準備はできたよ。直接戦闘だとサタンに負けるけど、あたいはからめ手が得意分野だからねぇ。まぁ見てればわかるさ」


 「そう」と言葉を発したルリシオンは、マモンの隣に移動する。

 魔獣の群れはもう目の前まで来ているので、最悪は自分が迎撃するつもりだった。魔法だと間に合いそうもないが、とっておきのスキルを保持している。

 そして牙をむいた魔獣の群れが、二人に攻撃を仕かけようとした瞬間。

 高々に右手を上げたマモンがパチンと指を鳴らすと、魔獣たちの踏み込んだ地面がぽっかりと消失した。


「「ギャオン!」」

「あはっ!」


 マモンが作りだした何個もの落とし穴に、すべての魔獣が落ちていった。

 搦め手とはよく言ったもので、ルリシオンは感嘆の声を挙げる。

 落とし穴はそれほど深くないが、ジャンプしても地上まで届かない。壁は奇麗な切断面を見せており、魔獣どもは登ってこれないようだ。

 中型魔獣の群れを、いとも簡単に捕獲している。


「まぁ穴は深くねぇからな。死んでねぇと思うぜ」

「今のは魔法? それともスキルかしらあ?」

「原初魔法だぜ。聞いたことねぇか?」


 マモンが使ったのは、【ヒデュン・トラップ/隠されたわな】という魔法。効果としては、脳裏に描いた罠を隠して設置できる。

 これは術式魔法ではなく、原初の魔法だった。

 世界の創生時代に主流となった魔法だが、すでに失われて久しい。長命種でも知る者はおらず、大罪の悪魔のような特殊存在にしか使えない。

 または……。


「原初? 知らないわねえ」

「そっか。まぁ今でも使える奴らは、神々や竜種ぐらいじゃねぇかな? 教えられるもんじゃねぇから、習得は無理だと思うぜ」

「そう。ならいいわ」

「とりあえず、屋敷に持ち帰る魔獣を選別しちまおう。ルリも落とし穴の中から、マンティコアを探すといいぜ」


 マモンが魔獣の選別を開始したので、ルリシオンもマンティコアを探す。

 穴の底にはプレーンウルフやブラックタイガー、他にもニードルパンサーがいる。壁に爪を立てたり飛び跳ねているが、無駄な努力と言わざるを得ない。

 そして数個の落とし穴を順番に回ると、老人の顔をした魔獣を発見した。


「この落とし穴にいたわあ。プレーンウルフと一緒よお」

「そいつなら他の穴にもいるから、全部殺していいぜ」

「はあい! 燃やしちゃうわねえ」


 満面の笑みを浮かべたルリシオンは、マンティコアが落ちた穴の前に立つ。

 そして、とっておきのスキルを発動させた。


「死になさあい。全力の『炎獄陣えんごくじん』よお!」

「「ギャオオオオッ!」」


 ルリシオンの必殺スキルは、自身を中心に何本もの炎柱を発現させた。落とし穴から隙間なく噴き上がる炎柱は青白く、骨すらも残さない圧倒的な熱量である。

 マンティコアを含めた魔獣どもが抗えるわけはずもない。断末魔の咆哮とともに、その存在は消し炭になった。

 スキルは魔力ではなく精神力を消耗するので、一瞬だけ意識が遠のく。だがそれも束の間、「だから心配には及ばないのよお」と心の中で思う。

 火に耐性の無い中型魔獣であれば、一人で討伐できるのだ。

 ともあれルリシオンは、限界突破の試練を終えた。


(今回の試練は長かったけど、無事に達成できたようねえ。お姉ちゃんは大丈夫だろうし、フォルトにおねだりができそうだわあ)


 今回の限界突破は、姉妹にとって特別だった。

 そしてフォルトに対し、とある願いを持っていた。

 もちろん身内の願いであれば、何を置いてでもかなえてくれるだろう。しかしながら姉妹のおねだりは、力が伴っていないと駄目だと考えている。

 その前提が、いま達成された。

 後はマリアンデールとルリシオンの願いを、彼が聞き入れてくれるかどうか。などと思考を巡らせていると、マモンが近づいてきた。


「ほう。いい炎だぜ。消耗は激しそうだがよ」

「目ざといわねえ。全力と言っても倒れるほどじゃないわよお」

「そうかい? 無事に討伐できたようで何よりだぜ」

「マモンのほうはどうなのかしらあ?」

「捕獲まで終わってるぜ。休まなくても構わないなら戻りてぇんだけどよ」


 マモンは半透明の縄で、目的の魔獣を引き上げていた。

 それも原初魔法らしく、鋼鉄よりも頑丈さがあるようだ。魔獣どもが暴れないように巻かれており、ルリシオンは「便利なものねえ」と感心してしまう。

 以降は浮遊魔法を使い、空中に浮かべている。


「フォルトも待っていることだしねえ。でも残った魔獣と落とし穴は、そのままにしていくのかしらあ?」

「はははははっ! まぁ気にすんな。さっさと歩こうぜ」

「あら。空を飛んで、先に帰ってもいいわよお」

「それでもいいけどよ。ルリを置いていくと怒られるぜ」


 魔物・魔獣しか棲息せいそくしていない場所なので、後始末は必要ないか。

 マモンは魔獣を運んでいるので、ルリシオンを抱えて飛べない。いや。腰にしがみ付けば飛行できそうだが、さすがに遠慮したいところだ。

 とりあえず護衛をしてくれるようなので、甘んじて受けておく。

 そして落とし穴から距離が離れたところで、マモンが再び指を鳴らした。と同時に後方で大爆発が起こり、ビックリして振り向く。


「後始末をしたのねえ」

「まあな。あの落とし穴は、自然に修復しねぇからよ」

「ふーん。確かにフォルトの性格だと、穴はふさぎそうよねえ」

「命令されたわけじゃねぇけど、あたいは主人の一部だしね」


 フォルトの大罪で顕現したマモンは、その意を酌む。

 変に几帳面きちょうめんなところがある魔人が主人なので、この後始末はうなずけた。

 道すがらに尋ねると、魔力を凝縮した爆弾を設置したらしい。あの爆発では魔獣どもは生きておらず、落とし穴も塞がっただろう。

 まったく、大罪の悪魔はどれも恐ろしい。

 そう思ったルリシオンは、愛しの魔人と姉が待つ場所に急ぐのだった。



◇◇◇◇◇



 フォルトは寝転んだ状態で、ルリシオンとマモンを迎える。

 駄目親父が全開とはいえ、これもカーミラの膝枕が悪い。まさに悪魔的な心地良さで、体を起き上がらせることを拒んでしまう。また自身の悪い手が、アーシャやソフィアの柔らかさを堪能していた。

 ブラウニーを召喚して、ベッドを作らせたい気分である。


「こんな場所で寛げるのはフォルトだけよお」

「あ、はは……。無事に目的を果たせたようだな」

「マモンが魔獣を捕獲するついでに終わらせたわあ」

「ついで、か。マモンもご苦労だった」

「いいってことよ。命令どおりに、各種二頭を捕獲しといたぜ」


 二人を労ったフォルトは、空に浮いている魔獣どもに視線を向ける。

 「グルルル」とうなっているが、魔法的な鎖によって身動きはとれない。傷も無く捕獲しているマモンは、とても有能である。

 「俺の一部なのになぜ」と、小一時間ほど問い詰めたい。

 そしてルリシオンに視線を戻すと、姉のマリアンデールに抱き着かれていた。お腹に頭を付けてグリグリとしているあたり、どちらが姉か分かったものではない。

 そう考えた瞬間……。


「貴方。いま失礼なことを考えなかったかしら?」

「イイエ。尊イナト思ッタダケデス」

「ならいいわ。それと私から、マモンにお願いがあったのだけど?」

「あぁそうだった。マリのほうに、マンティコアが二頭もいたらしい。一頭を捕獲したそうだから、マモンが運んでやってくれ」

「ほう。まぁ余裕はあるからいいぜ」

「カーミラも頼む。屋敷まで運ぶのを手伝ってやれ」

「はあい!」


 魔界を通ったほうが早いので、マモンにはカーミラを付ける。二人は空を飛び、そのまま西に彼方に消えていった。

 そこでフォルトはソフィアに近寄って、真面目な表情で肩に手を置いた。


「次は、ソフィアの膝枕を堪能したい」

「ど、どうぞ。ですが、顔は上に向けてくださいね」

「あ、はい」


 残念ながらフォルトは、お約束の行動を封じられた。しかしながら彼女の膝枕も極上なので、すぐさまイヤらしい表情に変わる。

 そしてアーシャが、「ねぇエロオヤジ」と質問を投げかけてきた。

 まさにそのとおりなので、快く回答する。 


「あたしたちは帰らないの?」

「四人も運べないぞ? カーミラとマモンが戻ってからだな」

「両手にマリ様とルリ様。前後にあたしと、ソフィアさんがぶら下がるのは?」

「寝室ならいいけど……。いや。ちょっと捨てがたい提案だ」

「きゃはっ! 冗談よ、冗談! さすがに落ちるっしょ!」


 アーシャは冗談と言っているが、本気に聞こえたのは気のせいか。フォルトの力を間近で見たので、魔人なら可能と思っていそうだ。

 そこで話題を変えるように、マリアンデールとルリシオンに声をかけた。


「二人は限界突破をしたのか?」

「マンティコアを討伐した時点で試練は完了よ」

「ほうほう。レベルは?」

「貴方。踏まれたいのかしら?」

「そ、そっち系は勘弁だ! 俺の趣味じゃない!」


 姉妹のレベルは気になるが、新しい世界に目覚めたくない。

 今も昔もフォルトは、女性から虐待されて興奮するタイプではないのだ。とはいえ踏まれるときは踏まれるので、強く拒絶しても意味はない。

 もちろん答えたくないなら、無理に尋ねないのはいつものこと。目的が達成できたのなら、それに越したことはない。

 これで、大きな予定の一つが終わったのだから……。

 などと考えて一息つくと、ルリシオンが興味深いことを口走った。


「今回の限界突破で覚醒したわよお」

「は? 覚醒とは何だ?」

「フォルトは何もしらないのねえ。覚醒は……」


 得意気なルリシオンが、覚醒についての説明を始めた。

 何回かの限界突破をすると、ギフトと呼ばれる能力が授けられるらしい。内容としては特別なスキルで、加護的なものが多いそうだ。

 これの有無が、「領域の壁」とも言われている。レベルで負けていても、力関係が逆転するほどだった。


「それは凄いな! マリとルリが得たギフトを教えてくれ」

「ふふっ。どうしようかしらね」

「レベルと同じで教えられないのか?」

「迷うわねえ。本当に知りたいのかしらあ?」

勿体もったいぶるなあ」

「あはっ! それだけ重要なのよお」


 マリアンデールとルリシオンが左右に別れて、フォルトの両隣に座った。次に姉妹は耳元に顔を寄せて、「お願いがあるのだけど」とささやく。

 情欲をかき立てる行動で、一瞬にして撃沈してしまう。

 ちなみに膝枕中のソフィアは、顔を両手で隠して恥ずかしがっている。アーシャに至っては、興味津々な表情で眺めていた。


(でへでへ。マ、マリまでこんなおねだりをするとは……。背徳感がヤバい。と、とにかく内容を聞かないと……)


「ぜ、善処はする! 簡単な内容で頼むぞ?」

「堪え性が無いわね。ゴニョゴニョ」

「ふんふん」

「だからフォルトは好きよお。ゴニョゴニョ」

「ふんふんふん」


 姉妹のおねだりは、もっと前に言われても不思議ではなかった。

 それを限界突破のタイミングで伝えるあたり、フォルトのツボを心得ている。達成のご褒美としては最適かもしれない。

 ただしカーミラに相談するので、今この場では答えられなかった。


「叶えるのはやぶさかではないのだが、今は何とも言えないな。悪いが、屋敷に戻ってからでいいか?」

「フォルトだけで決められないのは分かっているわあ」

「急いではいないけど、なるべく早く答えを聞かせなさい!」

「そうしよう。しかし、暇だな」


 平原地帯はすばらしい景色が広がるとはいえ、さすがに飽きてきた。カーミラとマモンが戻るまではまだ時間が掛かるので、どうするかを悩む。

 するとソフィアが再起動して、フォルトの疑問に答えた。


「で、では魔獣を討伐しませんか? マリさんとルリさんは疲れていると思いますので、フォルト様さえよろしければ戦闘経験を積みたいです」

「なら、あたしも! ねぇフォルトさん。駄目かなぁ?」

「ソ、ソフィアとアーシャもおねだりか!」

「ふふっ。フォルト様に守られながら戦ってみたいのです」

「そうよ! 次は実際に、わたしを守ってほしいの!」

「うぐっ! 俺の怠惰は知っているだろうに……。でもまぁ仕方ない、か」


 身内は公平に愛する。

 そう決めているフォルトは、渋々でも狩りのおねだりを聞き入れた。幽鬼の森に帰りながらであれば、少しは時間短縮ができるだろう。

 もちろん自身に前衛は無理なので、数体のリビングアーマーを召喚した。レイスも送還しておらず、上空から支援させるつもりだ。

 フォルトらしさが全開でも、ソフィアとアーシャは笑顔を向けてくれた。あきれられると思っていたが、守る方法は何でも良いらしい。

 きっと、女心というものかもしれない。

 マリアンデールとルリシオンを見ると、ニヤニヤと笑っている。

 それには「疲れていないだろ」と思いつつ、四人を連れて、幽鬼の森に向かい歩きだすのだった。

Copyright©2021-特攻君

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