7:ちゃんと受け入れることが出来ました
カチリ、という音が鳴る。ここの扉だけ買い換えたようでまだ新しい。
六会先輩が鍵を閉まったのを見届けると、ちょうど目に光が射し込んだ。
「大丈夫? 眩しかった?」
「うん、でももう大丈夫。ありがとね、龍弥」
扉を開けてくれたのは龍弥だ。顔が良いだけでなくこういうさりげなさがモテる要因なのだろうと思う。私とは大違いだ。
屋上の端にはベンチがあこった。初めからあったとは思えないからきっと誰かがここに持ってきたんだろうな。ただ広いだけだと思ってたからちょっと驚いた。
「莉沙。こっちにおいで」
右側にいた先輩についていくと、なにやら機械を動かし始めた。そうは言っても簡単なものだ。エレベーターの階数選択のように金属の箱に赤いボタンと青いボタンが上下に並んでいて、先輩は青いボタンを押した。
押してからすぐ、上の方から大きな音がして頭上に屋根が現れた。
「すごい、ですね」
そのあとに続く「お金にものを言わせて」という言葉は言わなくて良かったと思う。だってそのすぐあとに先輩がもっと驚くようなことを言ったから。
「でもこういうのって私立なら結構あるとか聞いたよ?」
暗に珍しいものではないと言われてやっぱり距離を感じてしまう。何でそんなに知ってるんだよ! とか思っちゃう。やっぱり金持ちは違うなぁ。
「そろそろ食べませんか? 莉沙ももうちょっと近づけば良いのに」
おっと、無意識に下がっていたか。通りで暑いなと思ったんだ、屋根の下から出てるからさ。
屋根が作る影の内側で集まってお弁当を広げる。紺色のお弁当箱入れは高校入学前に龍弥とお揃いで買ったものだ。買い物に行ったとき、笑いながらノリでそうしていたはず。後悔とかはしていない。
お弁当箱包みを開けたら中にはなぜか私のスマホが入っている。おかしいなぁと思ったけど……気づいた。
うん、気づいた。これは気づかない方がバカだと思う。私のスマホケースに写真と書かれた付箋が張ってあるんだもの。それも何枚も。
さすがに嫌でも気づくよねー。林檎は私と話してたからファンの子達か。写真を撮ってこいという無言の催促なんだよねこれ。忘れたらヤバイことになりそう。
「莉沙、お弁当箱逆さまになってたの?」
いつまでもお弁当を出さない私を心配したのだと思うけど何で言うことが「逆さまになってたの?」なんだろうかね、弟よ。そんなに私はお弁当を逆さまにしたことはないぞ。というか写真いつ撮ろうか。
「いや、大丈夫だよ」
「そか。それよりも聞きたいこととかあるんだけど」
「聞きたいこと?」
もぐもぐ。
写真のことばっかり考えていてあまり話を聞いていなかったら、返ってきた言葉は聞きたくない言葉だった。
「先輩の泊まりの条件とか」
それが目的だったのかっ! まんまとついてきちゃったんだけど!! はっきり言ってそれは無くなったと思ってた。外では暴れられないから心のなかで暴れてやる!! 嫌だって言っても多分無理なんでしょ! 分かってますよもう!!
もぐもぐ。
「そろそろ本気でヤバイんだって。ただのストーカーじゃないんだよ? 窓のすぐそばで写真を撮ろうとしたりするし、ポストに変な手紙を入れることなんて毎日なんだって」
「なにそれ気持ち悪い。吐き気する」
それやられたら私は外に出れない。全部龍弥に任せて布団のなかに引きこもる気がする。
……はっ!
「でしょ?」
気づいた時には目の前で龍弥がにっこりと笑っていた。我が意を得たりという顔だ。
乗せられたっ! なんなんだよもう!
もぐもぐ。
「先輩さっきっからもぐもぐもぐもぐうるさいです!?」
「先輩の話してるんですよ!?」
何一つ発言しない先輩はずっと食べ続けていて耳だけをこちらに傾けていた。マイペースにも程があると思うんだ。私たちが怒っている間もまだ食べ続けているんだよ?
「交渉は全部龍弥に任せてるだろ」
拗ねたように言ってるなぁ。というかやっぱり組んでるんだねこの二人。
「先輩もなんか言ってくださいよ!」
龍弥にそう言われてしばらく考え込んだあと先輩は言った。
「……あ、この前婚姻届が同封されてた」
「「気持ち悪っ!!」」
ドン引きした。いやだってさ、さすがに婚姻届はないでしょう。結婚しろとか愛が重すぎる! 助けてって言って良いと思うんだよこれは。何にも書かれてなかったよってあとから付け足したけど逆に怖いんだけどっ!
「婚姻届とか届いたんなら警察に言った方が良いと思いますよ。さすがにこれはない」
「言ってもあんまり意味ないしな。逆に自分を押してくる人が多すぎる」
警察に話すことを進める龍弥が冷や汗かいちゃってるよ。もちろん私だって。警察に相談に行って逆に被害を受けるってどうなんだろう。信用って無くならないのかな?
「その点、莉沙は良いよね」
「へ? 私ですか?」
「うん。だって自分を押しつけてこないでしょ?」
何で私なんだろうとか思ってたけど苦笑しながら「一緒に居るとすごく楽」と言う先輩を見て、心に理由がストンと落ちてきた気がする。だから二人に何かを言われる前に自分から「良いよ」と言ったことはそう悪いことではないと思うのだ。




