6:期待の視線でちくちく、ちくり
月曜日になりました。はっきり言って学校に行きたくないです嫌な予感します。すでに朝ごはんは食べ終わっていて着替えも終わっている。あとは自分の心の準備が出来れば良いのだけれど。
六会先輩の家を掃除してから一日と半日ぐらいが経ちました。その間は家から出ることもせずに結城と遊んでばかり。なぜって?
お外は怖いもので溢れてるからだよ。主にトップ6とか。
あれから龍弥とも連絡を取っていないから、学校に行って二人に会うのがちょっと怖い。
でも行かなければいけない。というわけで学校へ行くために嫌々玄関の扉を開けたのだった。
◇◇◇◇◇◇
結城と学校に行ってから五時間ぐらいが経った。朝の授業がすべて終わって今からお昼休みというところ。クラスの端の方で友達とわいわいお昼ご飯です。
「今日のお昼はハンバーグなのだ!」
「この辺の椅子借りていい?」
「購買行かなきゃー!」
うん、もう滅茶苦茶だね。こういう騒がしい空気が気に入ってるから良いんだけどさ。
「ちょっとお手洗いに行ってくる」
「じゃあ、待ってるねー」
結城の言葉に応えたのは私、ではなくもう一人の友達である桐谷林檎きりやりんご。143センチという低身長でクラスのマスコットキャラ。チーターも裸足で逃げ出すほど足が早く、体育祭実行委員になるほどの運動好き。その理由はまあ……言わないでおこう。
「ね、ね、結局のところどうなの?」
肩を寄せて下から覗き込んできた林檎はにやにやと頬を緩めていた。
「なにが?」
「龍弥君に決まってるでしょ!」
林檎は私や結城とは違い、大のトップ6好きなのだ。だからこうしていつも龍弥のことを聞いてくる。私だったら好きになるどころか廊下ですれ違いたくもない。物好きな奴め。
確かに龍弥は優しいし、彼氏としては申し分ない。だけど……。
「何度も言うけど私と龍弥は姉弟だよ。弟に対して恋愛感情を抱くことなんて無いし、あり得ない」
「えー、でもでも禁断の恋なんて憧れない?」
「憧れない」
龍弥には幸せをつかんでほしい。大切な人が出来て、その人と一緒に未来を創っていってほしい。そんなのは、価値観の押し付けだろうか。
時々こんなことを考えてしまう。何シリアスな雰囲気を作っているのだろう。こういうときは、林檎のボブカットをなで回すに限る。
わしゃわしゃという擬音が聞こえるくらいなで回す。さらさらの髪が指に馴染んで気持ちいい。
「ふわぁー……。撫でられたら眠くなってきちゃった。まだご飯食べてないのにぃ……」
完全たれ目でリラックスしている林檎可愛い。猫みたい。いやどちらかというと犬か?
天使の輪を付けて家までお持ち帰りしたい。今度は手櫛で髪を直していると林檎がいきなり大きな声を出した。
「あ!」
急に何! ビックリするよもう! それにまだ梳かしきれて無いんだから動かないでよ。
ところで何かに気づいたって顔してるな。一体なんだろ。検討もつかないけど。
「莉沙って、龍弥君には恋愛感情を抱くことなんて無いって言ってたよね? なのに私に対してはこんな対応……。まさかっ! 莉紗は女の子が好き!?」
「ちょっと! それはないから! 普通に男の子が好きだよ! というか発想が凄いな!?」
「えへへ。それほどでもあるよ」
「別に誉めてないよ! それにそこはそれほどでもないよ、でしょ!?」
ツッコミ疲れる……。席が隣だから授業中にもこうなったりするんだよ。さっきも突っ込んだばかりでもう疲れた。
林檎はいつまでも笑ってるし。悪戯して驚かせようかな。
ゆっくりと手を脇腹まで伸ばしてあと数センチというところで林檎が急に立ち上がった。
見開いた目には力強い光が入り、一心不乱に教室の後ろのドアを見つめている。ご主人様の帰りを待つ忠犬みたいだ。
そしてそれを合図にしたかのように教室中の女子も立ち上がる。ただし皆一様に動き出そうとしない。黙ってドアを見つめており、ほんの少しの変化も逃さないつもりでいる。
実はこれ、とある合図なのだ。私も何度かこれに助けられた。
「皆、座って。二人、龍弥君と賢正先輩」
その言葉を発したのは林檎だった。実は林檎は『六皇子会』という組織に所属している。正式名称を『六皇子を愛でる生徒達の会』と言うらしいのだが長ったらしくて覚えられない。そしてそのなかにも様々な役職が振り分けられるのだが、量が多すぎて覚えるのが大変。というわけで覚えている範囲をご紹介しましょう。
六皇子の為にお掃除し隊。六皇子を応援し隊。六皇子に差し入れし隊。六皇子の為の抜け駆け禁止隊。六皇子が快適に日常を過ごせるように環境作り隊。まだあるらしいけどもうよく分からない。
そんな私でも一つ、まだ知っていることがある。それは林檎の所属が姫君だということ。六皇子に対して六人の姫君がおり、それぞれが好きな人のファンを完璧に統率している。要するにファンのなかでのトップな訳だ。ちなみに林檎は龍弥の姫君である。
そんなこんなでその二人がクラスの前へ到着した。すごいよね、まるで予言みたいに誰が来るか分かっちゃうんだもん。二人は通りすぎるだけなのかと思ったらうちのクラスの前で止まった。龍弥がドアに手をかけて私の名前を呼ぶ。
「莉紗。ライン見た?」
……。あれ、おかしいな? 何で龍弥が私の名前を呼ぶんだろうか。人がいる前で私と仲良くしないみたいな暗黙の了解ができてたよね? 急にどうした弟よ!
お弁当を広げながらそんな現実逃避していた間に、私の前に再びの大嵐がやって来ていた。人の話を聞かない六会先輩という大嵐が。
「莉沙。泊まりの件で話があるんだけど今いい?」
「「「「「泊まり!?」」」」」
「ちょっ! こんなところで何言ってるんですか!」
「いやだって事実だから」
事実だからじゃないでしょー! 何多くの人の前でそんなこと言ってくれっちゃってるんですか!?
「人の立場っていうものを考えてください!」
六会先輩は一瞬、キョトンとした顔をしてそれから軽く笑った。
「そっか。ここで話すのもあれだよね。まだお昼ご飯食べてないみたいだし移動しようか」
そして私の手をとって、そのまま歩き出そうとする。え、ちょっと何!? 何でこうなるの?
視界に入った龍弥に助けを求めるように視線をずらすと、そこには笑顔なのにこめかみに青筋が浮き上がっている龍弥がいる。
……助けを求められないのだけれど。
「でも、友達とご飯食べるのでっ。移動できないです!」
「じゃあ、ちょっと莉沙借りていい?」
林檎に声をかけた。まて、それはまずい! 林檎なら絶対にはいって言っちゃう! どうしよう!
「その前に、少し莉沙と話しますね」
助けてくれるの!? うわ、疑ってごめん林檎。
そう言って先輩から離れると林檎はがしっと両手を掴んできた。
いきなりどうした。助けてくれたのではなかったのか。
「ご飯のシーンなんて貴重なの! 撮ってきてくれるよね?」
おおう。まさかの御願い来ましたか。だが、断るのが私。
「ごめん無理」
「ね?」
威圧怖いです。半端無いです! 林檎だけでなく周りの生徒たちからも懇願するような目を向けられた。これ、断れるわけないじゃん!
「……今回だけだから」
一気に花が咲いた! ピンクのオーラが見えるけど気のせいだよね?
「どうぞ。莉沙を連れてってください」
「うん。ありがとう」
ねえ。その笑顔の応酬やめない? めっちゃ怖いよ? 周りは幸福感で鼻血出してる人続出だし。
……写真とれなかったらどうしよう?
そんなこんなで六会先輩に連行され、林檎とその他の六会先輩と龍弥のファンに見送られて教室を出たのだった。




