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2:決意を注文した結果、大嵐が付いてきた

 私が結城の家に着いたのは七時頃だった。言われた通り醤油とお砂糖を買ったから、思ったよりも時間がかかってしまった。

 あ、ちゃんとレシートは渡したよ。


 玄関のベルを鳴らす。出てきたのは結城だった。結城の部屋着はかわいいよなぁ。女子力に溢れてる。

 だってピンクのうさちゃんきぐるみだもん。ちなみに私はねこちゃんを押し付けられた。お泊まりの時はそれ着てます。


「いらっしゃい。上がって」

「おじゃまします。……今日はお母さんじゃないんだね」


 結城は肩越しに苦笑した。それに合わせて髪も揺れる。


「この時期は結婚記念日だからって、あちこち飛び回ってるんだよ」

「そっか~」


 リビングに上がらせてもらう。何十回と来ているから慣れたものだ。

 モコモコのスリッパ相変わらず気持ちいいなぁ。スリッパそろそろ買い換えようかな。


「ご飯にしようか」

「今日は何?」

「すき焼き」

「マジすか」


 すき焼きを食べ終わって、お風呂に入った。結城の家のお風呂は天井がとても高くて好き。結城のお父さんの好みなんだって。三メートルくらいあるのかな。もっと? まぁいいか。


「はふ~~」


 やっと一息つけた気がする。今日は色々なことがあった。

 先輩を泊めたいとか言われて、その先輩がトップ6の六会先輩で、そのまま逃げてきて。このまま結城の家のお世話になるわけにはいかない。どうにかしないといけない。


「すぐ誰かに助けを求めるのもやめなきゃな……」


 合計して三十分ぐらいでお風呂から出た。身体を拭いてちょうど下着を着たところでリビングから物音と結城が何か言っているのが聞こえた。少し怒鳴っているようだ。あの結城が怒鳴るなんて珍しい。


「お母さんと電話してるのかな?」


 いやでも、と考えたところで足音が近づいてくる。……ドタドタと音を立てるなんて結城の足音じゃない。


「いったい、だれが」


 そう口にしてドアの方に顔を向けたときだった。



「莉沙!」



 入ってきたのは龍弥。後ろにはため息を吐いている結城の姿がある。先ほども言ったけれど、私はちょうど下着を着たところなのだ。硬直した龍弥の顔が赤く染まっていく。家でもこんな姿を見せたことはないのに。

 私は悲鳴を上げた。




「きゃあぁぁあ!!」





 今私たちは膝詰め会議中だ。もちろん結城の家のリビングで、結城が間に入ってくれてる。そうじゃないと喧嘩になるからね。


「で、なんで浜松の家にいるの?」


 目の前には不機嫌な顔をした龍弥がいる。こちらを睨み付けて。睨み付けないでお姉ちゃん怖い。


「元々泊まる約束してたの」

「嘘」


 即答で切り返された。


「いつも前日には絶対に言ってる」

「しゅ、宿題で分からないところがあって」

「いつも俺が教えてる」


 私は助けを求めるように結城を見た。

 睨まれた。これは自分で何とかしろってことだ。なんで二人から睨まれるの。


「家に帰りたくなかったの」

「何で」

「……言いたくない」


 私は顔を背けてしまった。きっと傷ついたよね。ごめんね、龍弥。ダメな私で本当にごめん。


「っ! だからって……!」

「ストップ」


 結城だ。ここに居てくれて良かった。顔が上げれない。


「取り敢えず今夜はここに泊める。龍弥は一度戻って」

「嫌だ。莉沙と一緒が良い」


 いったい何をむきになっているのだろう。こんなに意固地になる龍弥を見るのは初めてだ。


「ごめん。帰って」

「莉沙!」


 私は上へ上がった。後を結城に任せるのは気が進まなかったけど、私が動かなきゃ龍弥も動かないと思うから。


 しばらくして扉が開いた気がした。結城が龍弥を追い返してくれたのだろう。そして一つの足音がこちらに向かってくる。その足音は私の前で止まった。


「こんなところで何してるの」

「だって」


 私がいるのは扉の前だ。部屋には入ってない。


「風邪ひくよ」


 そう言って結城は私の隣に腰を下ろす。何でって思うけどこの優しさは嬉しい。


「最近、龍弥が分からない。時々ぼーっとしてるし今日みたいに変になる。私は、龍弥と仲良くしたいだけなのに」

「……」

「急に先輩を泊めるって言われて、それで元に戻るなら良いかなって思った。でも何か違う気がする。もっと不機嫌になったりする」

「……」


「私にはもう、どうして良いか分からないよ……」


 結城は私の方を見なかった。ただ話を聞いてくれることが嬉しかった。こんな良い友達がいるなんて幸せ者だなぁ。ありがとう、結城。


「全部吐き出せた?」


 私は答える代わりに笑った。こっちを見た結城に吹き出されて驚いたけどかなりひどい顔をしているらしい。

 二人で笑えるだけ笑ってそのまま今日は結城のベッドで眠った。眠る前にダブルベッドなの羨ましいな、と思った。


◇◇◇◇◇◇


 翌日、なぜかベッドから落ちていて体が痛かった。結城の姿は無くて下から物音がしたから、朝食を作っているのだろう。


「おはよーゆーき」


 料理しているところはすごく家庭的でお嫁さんだったら良いのになぁと思った。お皿まで運んでくれた。おいしそう。


「落ちてたけど大丈夫だった?」

「助けてくれても良かったのに」


 たわいもない話をしながらご飯を食べる。

 今日はどうしようか。やることもないしかといってこのまま浜松家にいるのもなぁ。

 色々と考えた末に結城と出掛けることになった。結城が遊びに行こうと言ってきたし、約束のデートもしていなかったから。


 やって来たのは近くにあるララモールという大型ショッピングモールだ。ゲームセンターから雑貨屋、食品売り場、はたまたガーデニング用品店まである。“ここに来ればすべて揃う!”という広告にほんのちょっとしか偽りがない。


「取り敢えず服を買いにいきましょう。いつまでも私の服だとね」


 そうなのだ。今私はサイズが一つ大きい結城の服を着ている。なぜかって? 家に帰れないからだよ……。

 ということで一時間ほどかけて服を見繕ってもらった。元々の服は袋に入れてもらって早速買った服を着た。

 途中何度も着せ替え人形にされたが、結局白いレースのスカートに淡い黄色の長袖シャツに落ち着いた。いかにも女の子な服装だ。


「……あの、結城さん? 楽しんでませんか?」

「全く、酷いわね。私は別に莉沙を着せ替え人形にして私の選んだ服を素直に着せられるなんて思ってないから」

「いやそれ思ってますよね!?」


 私の服を選んで、しばらくショッピングを楽しんだ。雑貨屋に行ってお揃いのキーホルダーを買ったり、ペットショップに行って動物たちとふれあってきたり、それはもう楽しかった。

 そしてお昼。


「何を食べようか」


 そう言う結城の言葉に私はマグトナルトという有名ファーストフード店を選んだ。愛称はマグトとかマッグとか。二十分くらい並んでそれぞれの食べ物を買った私たちは、店内の運よく空いた席に座った。


「ちょうど空いて良かったね」

「そうね。……ところで、これからどうするの?」

「ふむっ! ……っ!」

「ちょっとなにつまらせてるのよ! ほら水飲みなさい!」

「……ごくん! ごほっごほっ!」


 むせて死ぬかと思った! 死因がハンバーガーによる窒息死ってどうなんだろう? 笑い者にしかならない気がする。


「酷いよ結城さん。でもありがとう結城さん」

「全く肝が冷えたわ。何で聞いただけでむせるのよ。死因がハンバーガーによる窒息死なんて笑い者にしかならないでしょう」


 結城も同じことを考えていたようだ。


「はっきり言いたくないんでしょ、嫌いだって。だったらやっぱりなかったことにしてって言えば」

「でも」

「莉沙。あんたがどうしたいのかを考えてから聞きなさいっていつも言ってるでしょう。莉沙はどうしたいの?」


 結城の言うことは正しい。私がどうしたいのかを決めなきゃ誰の意見も意味はない。


「私は、トップ6と関わりたくない。龍弥にそう考えてることも知られたくない。結城に迷惑もかけたくない」

「なら?」

「龍弥と話し合いをする。今度は自分の口から思ってることを伝える」


 これで良いのだろうか。そう思って結城を見ると結城は笑いかけてくれていた。


「それでいいのよ。莉沙が嫌だと思うなら嫌だって言うことが大事。あぁでも一つだけ」


 な、なにかあったっけ!?


「少し位は私に迷惑をかけたっていいのよ? 莉沙が迷惑をかけなかった時なんてほとんどないんだから」


 思わず頬が緩む。泣いたらいけないと分かっていても涙が出てくる。


「ありがとゆうきぃ……」

「というか迷惑をかけられなかった時なんてないんだから」

「ひどいっ! 今の私の感動を返して!」


 結城が居てくれて良かった。本当にそう思える。


「ちょっとお手洗いに行ってくるね」

「うん。いってらっしゃい」


 こういう風にきちんとお手洗いって言えるところで女子力に差が出てくるのかな。私トイレって言うかもしれない。いやきっとトイレって言う。なんて呑気なことを考えていたら急に大嵐がやって来た。


「あれ、君あの時の逃げていった子?」

「へ?」


 急に声をかけてきたのは、茶色い髪の男の人。顔立ちは整っていて、微笑まれたら百人中百人がイケメンだと答えるだろう。私は顔を写真でしか見たことがないけれど、目の前にいる男性は紛れもなくその人で、もっと言えば私が昨日から逃げ続けている先輩。


 六会賢正(けんせい)その人だった。

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