13:古っぽい図書室で
あれからもう一週間がたった。生活が大幅に変わるのかなとか思ってたけど現実はそうでもないみたい。作るご飯や洗濯物が一人分増えただけ。学校では相も変わらず話さないしご両親に許可を取るのだって私の役目じゃない。おじ様にも伝えてるしね。
「お、紫式部か」
そんな私は今、図書室で図書委員の真似事をしてます。きっと今誰かが「え、なんで?」と思ったことでしょう。それは私が言いたい。
ちょうど日向ぼっこに適したソファーの上で遡ること三十分前。クラスの女子と交わした会話があります。
「莉沙ー!!」
「何ー?」
「図書委員代わって!」
「今日?」
「今日!」
というように嵐が過ぎ去っていきまして。どうやら急な予定が入ったとか。ちなみにその子には二つ年上の彼氏がいます。
……青春してるねぇ!
「清少納言だー」
基本この図書室には人が来ません。来ませんとも。だって古っぽいし。
見渡す限り本本本本本。埃は無いし天井は高いし静かだし。私からすると宝の山なんだけど昔の本ばっかりだからなぁ。私がこの部屋の扉を開けてから五分経つけど誰も来ません。まぁあと十分くらいはここにいますよ、うん。約束だもんね。
「夏目漱石だー。……初版本なんてここにあるんだ」
実際にこれは仕事してる、とは言えないかもしれない。一応カウンターの上に「部屋のどこかにいます」っていう紙を置いてきたから良いと思うんだ。人来ないし。
何をしてるかっていうと暇なので陽当たりのいい場所に本をいくつか運んで読み進めています。本、というかただの日記なんだけど。昔誰かが置いてったみたいで何月何日にどの本を読んだのか、何処が面白かったのかが面白おかしく書いてある。正直これを持って帰りたい。
全部この図書館にある本なんだと。借りようかなぁ。
ふわふわなソファーの上ではどんなことも許せるような気がしてきた。もうここに住みたい。
「……おい」
「はい?」
そんなとき、急にかけられた声。聞いたことのある男子生徒の声でした。左を向けば目に入った光る頭髪にだらしのない白シャツ。目付きも鋭くてすごく威圧感。
日記を一度閉じて膝の上に置く。意地でも動きたくないんだよ。結局動くだろうけどさ。
「何か?」
「何かじゃねえだろ」
質問すれば即座に返してくれるなんて見かけによらずいい人だなぁ。もっと反応を楽しんでみたいけど怒らせるのは勘弁なので止めた。でも何のようだろう。
「図書委員だろ」
「私は代理ですね」
「代理でも構わねぇ」
無言で差し出されるのは本。ここまで来て漸く私は本を借りに来たんだなぁと思えた。
しかもタイトルは。
「注文の多い料理店」
まさかの宮沢賢治でした。私もこれ好き。最後食べられなかったのが奇跡だなぁって思ってた。
「なんか文句あんのか」
「これユニークですよね。発想が自由で」
やっぱりこの人は即座に切り返してきて私も食い気味に話を返してしまった。相手のペースに乗せられたぜ……。
ちらりと顔色を伺うと犬耳と犬尻尾が見える。いや狼耳と狼尻尾か? 兎に角滅茶苦茶に振り回されている尻尾と直立不動な耳が見える。
……頭撫でたい欲求に駆られた私は悪くないよね、しないけど。なんとなーく続きを求められている気がするのは気のせいだと思いたい。
「えっと、餌と捕食者が逆転してるっていうのが面白いなって思って。猫は人間に下に見られているけどこの話を読むと人間はただの愚か者にしか見えなくなってくるところとか……面白い、なぁって……」
これでどうだ、なんて思いながらまた顔色を伺った。目が滅茶苦茶キラキラしてるのは気のせいかな!?
「俺とおんなじこと考えるやつなんて初めてだ! 人間はすごく小さな生き物ってことを改めて教えられてすごくびっくりしたんだ! いつ自分達が餌になるか分からないのはどんな時代も同じだろ!? 意図してなのか意図せずなのかは分かんねぇけどすげぇよな!」
「……きみは犬か」
つい本音がぽろっとしたのは見逃してほしい。だって見た目と中身が全然違うんだもの。人は見かけによらない。最初はちょっと怖かったのにだんだん可愛く思えてきた。
思春期の男子を可愛いとか私の頭は大丈夫なのかな。
しかし私自身この人には興味がある。喋るの楽しそうだし。私は手にしていた日記を広げて言ってみた。
「……この日記見てみる?」




