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11:フロランタンで一人のお茶会

 お菓子パートです。私もこのお菓子好きです。

 三人用のソファーに先輩を座らせておやつの準備をする。今までは私一人だったから良いけれど先輩は帰宅部なんだからこれからもこの時間に帰ってくるだろう。

 お菓子はしっかり用意しなくては。私だけだったらコンビニの○ロルチョコとかで済むんだけど……。


(何を出せば良いんだろうか……!)


 当面の課題はこれだろうな。今日は林檎のお母様がくれたお菓子があるからそれを食べよう。本当は独り占めしたいけど。


 そういえば何のお菓子だか聞いてないな。今日はなんだろう? 林檎のお母様のお菓子は本当に美味しいんだよね。カフェとか始めれば良いのに。


 丁寧に梱包された袋を開けてみれば、中には私の大好物のお菓子が。


「はわわわわ! これは、フロランタンじゃない!」


 ドイツでフロレンティーナと呼ばれるフロランタンはフランスのお菓子。

いずれにせよ「フィレンツェの」という意味で、カトリーヌ・ド・メディシスがアンリ2世のもとへ嫁ぐ際にイタリアから伝えたって言われてる。でもパリの製菓職人フロランが考案した、イタリアとは何の関わりもない菓子という説もあるんだよね。


 クッキー生地にキャラメルでコーティングしたナッツ類(多くはアーモンドスライス)をのせて焼き上げてつくる糖菓。ドイツ、オーストリア方面で好まれ、土地のお菓子として定着した私の大好物のお菓子!


 ついつい頭のなかでフロランタンについての知識を広げてしまった。私がこんなにお菓子に詳しくなったのも林檎のお母様の作るお菓子を食べてからだ。


 美味しいものは人を変えるな~。折角こんなにもらったんだからこっそりタッパーに入れて隠れて食べよう! 貰ったの私だから別に良いよね!


 気分が良いから紅茶も入れますか~。勿論市販のティーバッグですが。


 お気に入りの豪奢なお皿にフロランタンを盛り付けて先輩の待つリビングへと向かう。


「先輩は甘いもの大丈夫ですか?」


「今更だね。大丈夫だよ」


 確かに今更か。用意してから聞くなんて、今日はいったいどうしたんだろ?


「莉沙何処へ行くの?」


「先輩の部屋の最終確認に行ってくるだけです。ここで待っていてくださいね」


 用意してすぐに立ち去ろうとした私に聞いてくる先輩は小悪魔に見えた。もしくは男性版のサキュバスか。なんとか平常心を保ってその場を後にする。しかしそれができたのも階段を上りきったところまでだった。


「あぅぅ……!」


 腰が砕けるとはこの事かっ! 壁に手をつきながらストンと廊下に座り込んでしまった。もうダメ。絶対に顔赤いよね。無事に下に降りれるかな。


 下から目線なんて本当にあざとい……! 意識して無いんだろうけど、もう少し顔が整ってるっていう自覚を持って欲しい……!先輩に純粋な目で見られるとは、こうもドキドキするものか。


 わざと雰囲気作るときもわざとじゃないときも困ることに変わりは無いからね。慣れないといけないんだろうけど。


「……早く戻らないと先輩が来ちゃうからね」


 自分を落ち着かせてから先輩に貸し出す予定の部屋のドアを開ける。


 掃除はいつもしているから汚れているところはないと思うんだけれど万が一の事があったら困るから。掃除もできないのかなんて思われたくないから。


 机やベッドを確認し、部屋の窓を開けてから退出する。


「ついでに他の部屋の窓も開けようかな」


 結局、私がリビングに戻ったのは上がってきてから五分後だった。



 ◇◇◇◇◇◇




 リビングを開けて真っ先に目に入ったのはフロランタンを頬張る先輩の姿だった。頬張ると言ってもリスみたいに詰め込んでいる訳ではなくて、食べ終わったらすぐに次へと手を伸ばしているのだ。


(先輩、私の分を残さない気なんじゃないかな……?)


 それだと困る。私の大好物なのに。


「先輩、そんなに急ぐと喉に詰まりますよ?」


「っ! 莉沙、いつ戻ってきたの……!?」


 少し驚いた様子で返事をする先輩はどうも気づかないほどフロランタンに夢中になっていたようだ。確かにあり得ないくらい美味しいからね。誰かが近づいても気づかないのは無理無いと思う。


「たった今戻ってきました。あと食べ過ぎですよ。私の分が無いじゃないですか」


 没収です。独り占め反対。


「さらっと案内するのでついてきてください」


「了解」


 あ、さらっともう一個食べたっ! そんなに気に入ったのかな? それなら今度また作ってもらおうか。頼んだりすればみんなで作ることになるだろうけど。


 林檎の家の台所は広いんだよなぁ。なんて関係ないことを考えながら先輩を伴って再び階段へと向かう。


 私の部屋と龍弥の部屋と先輩の部屋と立ち入り禁止の部屋。教えなければいけないのはこのくらいだったかな? 残りは空き部屋だし。


「分かった。それじゃあ早速……あ」


「どうしました?」


 何か伝え忘れたことでもあっただろうか。気になるところとか? それなら申し訳ないんだけど、やっぱり思い付かない。


「……着替えようと思ったんだけど何も持ってきて無かった」


「……。例えば歯ブラシとかもですか?」


 苦笑しながら首を縦に振る。


(そういえばそうだったね。おかしいよね先輩のものは何一つ無いんだから)


 このあとに部屋で休んでいてくださいなんて言わなくて良かったと本当に思う。


 取り敢えず必要なものだけ、ということで先輩は家に色々と取りに行った。その間に夕飯の準備でもしよう。少しだけお茶の時間にしてから。


 誰もいない家のなかで紅茶を用意しながら私はしばらく鼻唄を歌っていた。


 フロランタンおいしいですよね。

 因みに男性版のサキュバスってインキュバスと言うそうですよ。


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