決行
時刻は夜の七時過ぎだった。アオイとメイは近くの、十階建てのマンションの一番高い所にいた。非常階段を昇って二人は、最上階まで昇った。なんとなく、エレベーターは避けた。
十階は一つ空き部屋があって、その辺りから飛び降りれば誰にも見られないはずだった。マンションの住人にははた迷惑な話だったが、アオイとメイが二人して決めた決行場所は、そこ以外考えられなかった。そこは二人の行動圏の中で人の入れる、一番高い建物だった。
今、二人は十階にいた。夏なのに風が吹いて、少し肌寒かった。二人はまるで抱き合うかのように寄り添っていた。
二人はまだ、若かった。だから、生の事をあまり知らなかった。そしてその為に、死ぬ事にもそんなにためらいを持っていないのだった。もっと生きていれば、生に執着が出てくる。二人にはそういう執着はなかった。
しかし、二人には一種の寂寥があった。二人の少女はそれを言語化できなかったが、その感情は感じていた。
二人の目線の先には、街の灯があった。昨日まで暮らしていた、彼女達の街。明日にはもう消えるであろう街。二人はお互いに手を握り合って、街を見ていた。
「寒くない?」
メイが言った。アオイは肯いた。アオイは……もっと、大切な事を言うべき気がした。自分達は死ぬ前に、もっと自分達に切実な、大人達には決してわからない、自分達二人にしかわからない最も大切な生命についての話を……そういう話をすべきだと感じた。そうだ、絶対にそうしなければならない。アオイはそんな気がした。しかし、アオイはそれを言葉にできなかった。彼女の頭は今、空っぽだった。それでただ
「うん」
と言っただけだった。
「いこっか」
メイは言った。アオイは肯いた。二人は、あらかじめ塀を乗り越える為の台を調達していた。それは簡素な台だったが、二人を支えるのに十分なものだった。折りたたみ式の、簡単に運べる台。二人はそれを二つ積み上げて、高さを増した。二人はその上に乗った。台は少し、ぐらぐらした。
アオイはメイの目を見た。メイは、微笑んでいた。アオイはメイの目の中に、涙が浮かんでいるような気がした。あるいはそれは錯覚だったのかもしれない。アオイもにっこりとして肯いた。
二人は手を携えて、塀を越えた。最初予定していたように、手を握り合って下に落ちる事はできなかった。意外に塀を越えるのが大変だったからだ。
メイが一瞬先に落ちた。アオイも間髪入れずに落ちた。アオイは落ちながら、色々な事が頭を巡るのを感じた。何かが間違っているような気がしたが、それが何かは分からなかった。
二人共、地面に激突した。




