【09】 『お役所仕事』って、どういう意味?
爽香は住民課の前にある
待合席に腰掛けた。
そしてぶつぶつ呟いた。
爽香「まったく『転入』『転居』『転出』だのってお役所仕事なんだから。全部『転居』で何が悪いのよ。充分伝わるでしょうに! 公務員っておバカの巨大組織よね。そうだ、待っていても暇だからスマホで『お役所仕事』の意味を調べてみようっと」
爽香はスマホで『お役所仕事』と
入力して検索し始めた。
爽香「なになに、『形式主義に流れ、不親切で非能率的な役所の仕事振りを非難して言う言葉』」
爽香はスマホを膝の上に置き拍手した。
『パチパチパチパチ』
カウンターで丹沢が、
丹沢「なんだ、あいつ? 待合席から私を応援しているのか?」
爽香は待合席で、
スマホ画面を見ながら、
爽香「ははははは、お見事! まさにその通り。『不親切で非能率的』か。丹沢とやら、まったくこの言葉通りのお役所職員だわ。はははははっ」
更に大きな音を立てて拍手した。
カウンターで丹沢、
丹沢「あいつ、絶対に頭おかしいぞ!」
丹沢は、事務室の奥で
「方書一覧表」というリストから
美女来地区の共同住宅名を探していた。
そこに、先輩の戸部考一がやってきた。
戸部は室内で戸籍の仕事をしているが、
なにかと丹沢の面倒を見てくれた。
戸部「あの女、待合席で急に拍手して笑い出したけれど、頭大丈夫か?」
丹沢「大丈夫じゃないですよね。完全にイカれてます」
戸部「やっぱり。今日は、最後に悪いのに当たったね」
丹沢「いつものことです」
戸部「もう時間外だ、なにか手伝うことがあったらなんでも言ってくれ」
丹沢「ありがとうございます。いつも悪いですね」
戸部「なぁに、お互い様さ」
管理職とごく一部の職員は、
すでに職場を去っていた。
ロビーの待合席で。
爽香「『かたがきは?』って言われれば誰だって『社長』とか『課長』とかって思うじゃないねぇ、『かたがき』の『かた』が体の『肩』でなく、『方角』の『ほう』なんて言葉、誰が知っているって、馬っ鹿じゃないの丹沢さん。そうだ、時間があるからスマホで『かたがき』っていうひらがなを漢字変換してみようっと」
爽香はスマホで「かたがき」と入力し、
変換候補を見た。
爽香「あれっ? 体の『肩』の『肩書き』しか変換できないじゃない。『方書』なんて、ないわ。やっぱし。ふふふふふ」
爽香はスマホを膝の上に置き
手を叩いて笑い始めた。
拍手「パチパチパチパチ」
爽香「ぐははははは」
爽香は誇らしげに腹から笑った。
その拍手の音と笑い声を聞き、
丹沢と戸部が住民課の事務室内から
爽香を見た。
丹沢「完全にイカれてる!」
戸部「まったく同感だな!」
爽香「しっかし、遅いわねぇ。もっと簡単に手続きが終わらないの? あいつが『ようこそ美浦市へ。はい、これで手続きは終わりです』って、言えばいいのよ! なぜ、こんなに時間がかかるのよ! まったく『不親切で非能率的』なんだから!」
丹沢「速水爽香かぁ、なんできちんと書類を書いてこないのかなぁ、正確に記入してあれば書類を提出して数分で終わるのに。まったくいい加減な女だよ!」
爽香「あの受付の丹沢って男、もてないだろうなぁ。独身か? それともバツイチか? いずれにしても嫌な男ね!」
丹沢「まったく気の強い女だ。あれじゃもらい手がいないだろうな。絶対結婚したくないタイプの女だ!」
戸部「まぁまぁまぁ」




