【08】 同じ住所(住居表示)って、存在するの?
丹沢「ほら時間になっちゃった。コンピュータのシステムも、もうすぐ落ちちゃいますよ」
爽香「でも遅くなれば残業代がもらえるんでしょ?」
丹沢「こんな窓口の対応が1時間ぐらい延びたからって、残業代は出ませんよ」
爽香「そうなんだ、市役所ってけちなのね」
丹沢「私達は、市民の皆様方の税金からお給料をいただいている訳ですから、あなたひとりの転入手続きのために、市民みなさんの税金を使う訳にはいかないのですよ」
爽香「へぇー、えらいのね」
丹沢「そもそも市役所の終業間際に来るのがどうかと思うんです。外国では時間と同時に、たとえ手続きの途中でも窓口を閉めちまいますよ」
爽香は丹沢の名札を見ながら、
爽香「でも、そこが日本人のいいところじゃない、ねぇ丹沢さん」
丹沢「ところで話をもとに戻して、共同住宅の名前は忘れたんですよねぇ」
爽香「じゃぁ聞きますけれど、あなた先週の今日、夜は何を食べました?」
丹沢「覚えていません」
爽香「ほら、忘れているでしょ。それでもあたしのことを責めるの?」
丹沢「別にあなたのことを責めていません、ただ聞いただけです」
爽香「あっ、そう」
丹沢「晩ご飯に何を食べようと住民登録には関係ありませんけれど、住民登録するときに方書はどうしても必要なんです」
爽香「へぇー、そうなんだ」
丹沢「現在は共同住宅が多くなりました。ですので、郵便物や宅配便の誤配を避けるために、また救急車や消防車が一分一秒でも早く正確に着くように転入受付の時、お客様に共同住宅の名前を確認しているのです」
爽香「救急車を呼ぶときに、番地だけ言うよりマンション名も言った方が良いということね」
丹沢「その通りです。『番地』と言いますか、『住居表示』だけでは同じ番号の建物がいくつかある場合もありますから」
爽香「えっ! 同じ番地の建物って、あるの?」
丹沢「はい、あります。ですので、方書がわからないと住民票を作ることができません」
爽香「じゃぁいいわ、どうしてもってあなたが言うのなら今、不動産屋さんに電話して建物の名前を聞くから」
丹沢「今日水曜日なので、市内の不動産屋さん、すべて休みです」
爽香「えっ!」
丹沢「もう、いいですよ。私の方で調べますから」
爽香「えっ! なら最初からそう言ってよ、まったく!!!」
丹沢「もう5時15分を過ぎて他のお客様がいませんので調べられますが、普段は他のお客様の迷惑になります」
爽香「そう、悪かったわね!」
丹沢「いえ、大丈夫です。あちらで座ってお待ちください」
丹沢は待合席の方を指さした。
爽香「まったく、こまかいのねぇ!」
爽香は丹沢に捨て台詞を吐いて
待合席へ向かった。
丹沢「まったく世話の焼ける人だ!」




