【07】 『肩書き』と『方書(かたがき)』の違いは?
丹沢「ではこの異動届に『新しい住所』と『今までの住所』を書いていただけますか?」
爽香は異動届の
『新しい住所』欄を指さし
爽香「ここね」
丹沢「はい」
爽香が『美浦市美女来9―8―7』と
記入した。
丹沢「方書はありますか?」
爽香「あたしが社長とか、部長とか、課長ってこと? そんなものないわよ。だいたい会社員じゃないし」
丹沢「いえ、その肩書きではなくて」
爽香「『その肩書き』でなくて、じゃぁ、どの肩書きよ?」
丹沢は手元のメモ用紙に
「方書」と書きながら、
丹沢「『○○マンション』とか『○○ハイツ』とか」
爽香「あぁ共同住宅の名称ね。それならそうと最初っからそう言ってよ。『かたがき』なんて言うからわからないのよ」
丹沢「物わかりの良い方で」
爽香「『共同住宅の名称』なんて忘れたわ」
丹沢「物忘れの良い方で」
爽香「あなたいちいちトゲのある言い方をするわね。マンション名なんか聞いたって、誰だってすぐ忘れるでしょ!」
丹沢「そうですか?」
受付に座っている丹沢が、
立っている爽香を
上目使いで睨みつけた。
爽香「だってそんなの忘れたって生きていけるでしょ。忘れたからってまさか命まで取られる訳じゃあるまいし」
丹沢「まぁ生きていけますが、住民登録には必要なのです」
爽香「それってすべてあなたの立場でしゃべっているんじゃない?」
丹沢「えっ?」
爽香「あなたが早く仕事を終わらせて、早く帰りたいからそう言ってるのよ。あなた5時15分の定時で帰りたいんでしょ?」
丹沢「そうですよ、悪いですか? それと、もうひとつ、私は常にスピーディーな仕事をするように心がけていますから」
爽香「それは間違いよ。お客様の立場になって話をしたら、普通そんな言葉は出ないはずよ?」
丹沢「わかりました、わかりました。あなたのペースと、あなたのレベルに合わせて話せばいいんですね」
そのときちょうど、
5時15分の終業のチャイムが鳴った。
♪キンコーンカンコーン、
キンコーンカンコーン




