【06】 『転居』と『転入』どう違うの?
事務室内で、
春菜「『頭がぬるい丹沢さん』って、どういう意味?」
若石「さぁ? わからないな?」
稔江「まさか、彼女、いきなり丹沢さんのおでこに手を当てたりしないでしょうね?」
戸部「まさか! 頭で考えていることが人に対して温かくなく、冷たいことばかり言ってるから皮肉を言ってるだけだよ」
稔江「『ぬるま湯につかっている』ようにのんきに考えている、ってことね。丹沢さんって、何を考えているのかよくわからないのよね。まさか、いきなり相手を温泉に誘ったりしないでしょうね」
若石「ははははは」
春菜「ありえるかも?」
戸部「そんなばかな!」
カウンターで、
丹沢「では、このカウンターで『異動届』を書いてください。もうこんな時間ですから、他にお客様も居ませんし、ここで書いてもいいですよ」
爽香「それはどうも」
丹沢「どういたしまして」
爽香「で、この『異動届』が『転居届』になるのね」
丹沢「いえ、この『異動届』は『転入届』になります」
爽香「えっ! 『転居届』ではないの?」
丹沢「いえ、お客様は『転居』ではなく、『転入』ということになります」
爽香「『転居』と『転入』と、どう違うの?」
丹沢「『転居』とは美浦市から美浦市など、同じ市内で引っ越す場合を言います。一方、『転入』は他の市から美浦市へ引っ越す場合を言います。ついでに申し上げれば、美浦市から他の市へ引っ越す場合は『転出届』となります」
爽香「偉そうに、何よ、それ!! じゃぁ聞くけれど、引っ越し業者に電話するとき『転入します』とか、『転居します』とか、『転出します』とか、みんな使い分けているの?」
丹沢「……」
爽香「嘘よ! みんな『転居』って言ってるわよ!」
丹沢「引っ越し業者がどうかは知りませんが、役所では『転居』『転入』『転出』と三つを使い分けています。日本中どこの役所でも同じだと思いますよ」
爽香「それが『お役所仕事』だって言うのよ。それはあなた方、お役所の人間だけが勝手に作った用語でしょ。それをこちらに押しつけられても困るわ」
丹沢「わかりました。『転居』『転入』『転出』、この三つの言葉をあなたに正確に説明しようとした私が間違っていました。相手を考えて話すべきでした」
爽香「何よ、それ! あたしがおバカさんだって言いたいの?」
丹沢「はい、それにつきましては……」
爽香「『はい』なの?」
丹沢「いいえ、その……」
爽香「とにかくいいわ、あたしがおバカさんでも、なんでもいいから次に進みましょう。時間のムダだから」




