【03】 「書類も書かずに番号札を取ったんですか?」
そんなとき、住民課のカウンターから
大きな声が聞こえてきた。
なにやら窓口職員の
丹沢純也(たんざわ・じゅんや・30歳)と、
客の速水爽香(はやみ・さやか・20歳)が
揉めている。
丹沢「番号札548番でお待ちの方」
丹沢が受付カウンターから
ロビーに居る客に向かって
呼びかけた。
爽香「はい」
爽香は右手にテニスボールを
持ったままカウンターへと向かった。
爽香は、握力をつけるために、
常にテニスボールを
持ち歩いていた。
丹沢「お客様、番号札はありますか?」
爽香「はい」
爽香は受付カウンターで立ち止まり、
548番の番号札を差し出した。
丹沢「届書は、ありますか?」
爽香「届書って?」
丹沢「ここに書いてあるでしょ」
丹沢が発券機の隣に貼ってある
注意書きを指さした。
注意書きには
『番号札は、届書または申請書を記入してからお取りください』
と書かれてあった。
爽香は、初めてその注意書きに
目をやった。
爽香「目立たない注意書きね」
丹沢「よく居るんですよ、他人より早く受付して欲しいからって、届書を書かないで番号札を取る方が」
爽香「そんな言い方をしなくてもいいでしょ! しかも、あたしはそんな急いでいる訳じゃないし」
丹沢「じゃぁどんな理由で、書類も書かずに番号札を取ったんですか!?」
爽香「いえ、ただ何も考えずに番号札を取っただけよ。注意書きなんて気づかなかったわ。先に注意書きが目に入っていれば届書を書いたわよ」
丹沢「じゃぁ私どもの書いた注意書きに問題があるとでも?」
丹沢が顔を爽香に近づけ、
にらみつけた。
爽香「そうよ。それに、これってそんなに怒ることなの!?」
爽香も負けずと丹沢の顔を
にらみ返し、顔を近づけた。
二人の顔が20cmの距離になった。
一触即発の雰囲気である。
事務室内で、
春菜「カウンターの丹沢さん、随分もめているわね」
若石「二人の顔、近すぎじゃね?」
稔江「もめているうちに顔を近づけて、あの二人まさかキスしちゃうんじゃないでしょうねぇ?」
春菜「ははははは」
若石「ははははは」
戸部「まさか。もめているだけだろう?」
稔江「丹沢さんって、何を考えているのかよくわからないから、いきなりブチューなんて?」
春菜「ありえるかもよ?」
若石「ははははは」
戸部「そんなばかな!」




