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【12】 爽香「(ちほう公務員って)痴呆症の公務員?」

事務所内でその二人の

やりとりを聞いていた職員たちが、


早苗「あの二人、聞いていると夫婦漫才ね」


若石「でも『転出証明書』が無いのは、致命的だなぁ」


稔江「丹沢さんも、もうちょっと優しくしてあげればいいのにね」


春菜「無理よ。正義感が強いと言うか、自分が正しいと思ったら、引かないのよね」


稔江「それって、いいの、悪いの?」


早苗「さぁ、どっちなんでしょ?」


戸部「歳をとれば、いずれわかるさ」


爽香「『転出証明書』って、そんなに大事なことが書いてあるの?」


丹沢「『転出証明書』に書いてあるのは、『今まで住んでいた住所』と『引っ越し先の住所』と『本籍地』と『国民健康保険』のことと『国民年金』のことなどです」


爽香「わかった! あなたは、あたしの『国民健康保険』と『国民年金』に興味があるんでしょう」


丹沢「興味ないです!」


爽香「そんな冷たい言い方しなくてもいいでしょ!」


丹沢「失礼しました、あまりにもくだらない質問だったので」


爽香「悪かったわね! くだらない質問で」


丹沢「なんで私があなたの保険と年金に興味を示さなければいけないんですか?」


爽香「だってほら、今、他人の保険や年金を狙う人って居るでしょ。あなたって、なにか人の物を盗みそうな顔をしてるわよ」


丹沢「私は犯罪者ではありません。これでも一応は地方公務員です」


爽香「痴呆症の公務員? どうりで話がおかしいと思った!」


丹沢「その『ちほう』ではありません」


爽香「からかっただけよ」


丹沢「私をいじらないでください」


爽香「あなたなら、いじりがいがありそうね」


丹沢「そんなことより、なぜ『転出証明書』が必要かというと」


爽香「はい? また、自慢が始まるのね」


丹沢「自慢じゃないですよ。必要だから言うんです」


爽香「わかったわ、わかったわ。くだらない講釈を聞いてあげるから、言って御覧なさい」


爽香は、最高に嫌な顔を作ってみせた。


それにもめげず、丹沢は話し始めた。


丹沢「住民票で一番怖いのは、2カ所に作られることなんです」


爽香「2カ所?」


丹沢「つまり、このままあなたの住民票を『埼玉県美浦市美女来』に作った場合、あなたは『福島県東白川郡棚加羅町』にも住民票があり、両方に住んでいることになります」


爽香「ふむ、ふむ」


爽香が神妙に頷いた。


丹沢「『住民票』は、第三者に対して、例えば速水爽香様が『ここに居住して、寝泊まりしてますよ』っていう証明書なのです。公の機関がそれを証明するわけです」


爽香「居場所の証明書ね」


丹沢「そうです、素晴らしい! 『居場所の証明書』です。それをもとに、大人の方なら『住んでいる所の選挙区で投票をしてください』とか、お子様なら『住んでいる所の学区の学校へ通ってください』となるわけです」


爽香「なるほど」


丹沢「それが、二カ所も三カ所も住民票があったら、あちこちで投票ができちゃうし、学校も好きな学校へ通えちゃいます」


爽香「選挙が不正になっちゃう訳ね」


丹沢「そのとおりです、素晴らしい!! ですから、『福島県東白川郡棚加羅町』の住民票を先に消して、それから『埼玉県美浦市美女来』に住民票を作ります」


爽香「順番があるってことね」


丹沢「素晴らしい!!! 『転出証明書』は『当地の住民票を抹消しました』という証明になるわけです」


爽香「よくわかったわ。わかったから、今回だけは『転出証明書』無しで、美浦市に住民票を作ってくれる? いいでしょう?」


丹沢「ダメです!」


爽香「あんなに褒めてくれたのに。このケチ! バカ真面目! 融通が利かない! つまらない男ね」


丹沢「ははははは。もういいですか?」


爽香「これだけ言っても怒らないの?」


丹沢「何を言われても怒らないと言う研修や講座を受けましたから」


爽香「そんな研修があるの?」


丹沢「『レジリエンス研修』『ストレスマネジメント講座』『アサーティブネス講座』とかですかね」


爽香「わかんない。意味不明」


丹沢「さて、あなたに住民票のことをご理解していただいた上ですが……」


爽香「はい、なんでしょう?」


丹沢「これからあなたが『福島県東白川郡棚加羅町』へ行くのも大変ですから、『棚加羅町』まで行かないで『転出証明書』を取る方法が2通りあります」


爽香「えっ、行かなくてもいいの? 良かった! あたし仕事で旅に出ることが多いから、なかなか実家の方へ戻れないのよ」


丹沢「えっ? 旅に出るのなら、福島県にも行くでしょうに?」


爽香「ここから北へは行かないわ。行ってもせいぜい群馬までね」


丹沢「そうですか、なんだかよくわからないですけれど」


爽香「本当に『棚加羅町』に戻らなくていいのね?」


丹沢「はい」


爽香「わかった! あなたが『棚加羅町』へ電話して『住民票の抹消』を依頼するんだ」


丹沢「おバカさんですね」


爽香「おバカさんとは何よ!プン!」


丹沢「電話では、取り寄せが出来ません。なりすましの電話かもしれませんし『棚加羅町役場』としては、本人の意志で引っ越すんだという証拠書類を残す必要があります。最近は他人の住民票を勝手に動かすという犯罪が多くなっておりますから」


爽香「悪いヤツがいるのね。あなたもたまにやるの?」


丹沢「やりませんよ! なぜ私がやらなくてはいけないんですか?」


爽香「なんかやりそうな気がしたのよ。ふふふふふ。ちょっといじっただけよ」


丹沢「私をいじらないでください!」


爽香「あなたって、いじりがいがあるのよね」


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