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ステラティア ~魔女狩りの剣士とエルフの神官と~  作者: 八月森


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6話 報告と説得

 宿に帰ったあたしたちは、不安そうな顔のユーニさん(かなり心配をかけていたようで申し訳ない)に出迎えられ、何があったかを説明することになった。


 おとぎ話の魔女が現れた――なんて話、すぐには信じられないと思ったけど、あちこちボロボロのあたしたち(というか主にステラ)の姿に、何事かただならぬ出来事があったのは理解してくれたようだった。ひとまずこの報告と、ついでに食事だけ取って、今夜は解散。


 ステラは宿に置いていた荷物――よく考えたらこれを取りに一度は宿に戻る必要があったわけだ――を手に、与えられた部屋に向かった。あたしも、普段寝泊まりしている自身の部屋の扉を潜る。疲労のためすぐにベッドに入ったが、今夜起きた一件が鮮烈すぎてなかなか寝付けなかった。


 翌朝。



「――貴女たちの話の裏が取れたわ」



 カウンター席に座るあたしとステラに向けて、少し疲れた様子のユーニさんが口を開く。



「裏取りって……昨夜一晩で?」


「ええ。手の空いていた冒険者に調査を頼んだの」



 そう語るユーニさんの眼の下には、うっすらとクマが浮かんでいた。もしかして寝てないんだろうか。



「貴女たちが嘘を言ってるとは思わなかったけど、内容が内容だからね。しっかり確かめる必要があった。で、その報告をさっき受け取ったところ。ノルト大森林の一角は流れ星の衝突跡を中心に薙ぎ倒されていたし、戦闘の痕跡や血の跡も残っていたそうよ」



 ユーニさんは小さく息を吐く。



「魔女、か……実は、冒険者ギルドでも少し噂になっていたのよね」


「え、そうなの?」



 各地の冒険者の宿の多くは、お互いを助ける……えーと、なんて言ったっけ……そう、『ごじょそしき』っていうのに入ってて、それを、冒険者ギルドと呼ぶらしい。


 それで、ギルドに加入している各宿には横の繋がりがあって、互いに情報も交換し合っているんだとかなんとか。あたしもユーニさんに聞いただけなので、詳しくは知らないんだけど。



「そうなのよ。でも、こことは離れた場所の話だったし、噂も曖昧なものだったから、全然実感なくてね。それこそおとぎ話と大差ないと思ってたんだけど……まさか、本当にいるなんて」


「ええ、魔女は現実に存在します。そして悪意をもって人々を脅かす」



 鋭い表情で断言するステラに、ユーニさんが視線を向ける。



「魔物や魔族と同じで、他の生物に明確な敵意を持っている?」


「はい。それを本能に刻まれています。話し合いは意味を持ちません。むしろ下手に言葉を交わせば、彼女らの悪意に絡め取られてしまうでしょう」


「会話はできても、争いは避けられないというわけね?」


「その通りです。彼女らの命を奪う以外の対処方法を、私は知りません」


「そして、そんな危険な魔女が、今もどこかで野放しになっている……。……ねえ、ステラさん、っていったわね。貴女はこれから、その魔女を追うつもり、なのよね?」


「ええ。一晩休ませていただきましたし、ティアさんの治癒のおかげで傷も問題ありません。すぐにでもここを()とうと思います」


「だったら――」


「それ!」



 それまで黙っていたあたしは、ユーニさんの台詞を遮って大声を出す。



「それ、あたしも連れていってよ――ステラ」


「……ティアさん? ですが……」


「危険だ、って言うんでしょ? 分かってる。覚悟の上だよ。冒険者は、危険を冒す者なんだから」


「……本当に、分かっていますか? 魔女は邪悪で狡猾であり、今言った通り争いは避けられません。通常の冒険より大きな危険を伴います。それこそ昨夜のように、一歩間違えれば命を落とす可能性だって――」



 本当に心配してくれているのだろう。彼女のその言葉に胸が温かくなる。そんな彼女だからこそあたしも協力したいし、それは同時に、あたしの目的に適うことでもあるのだ。彼女の言葉を遮り、静かに指摘する。



「でも――……昨日のあたし、結構役に立ててたよね?」


「う……」



 ステラが言葉に詰まる。


 昨夜はどちらが欠けてもあの魔女を撃退できなかったという確信がある。お互いに命を助け合ったのだ。彼女もその事実を無視はできないはず。たたみかけるようにあたしはグイグイ迫っていく。



「それに旅をするなら、神官がいたほうが何かと都合がいいよね? 傷の治療も穢れの浄化もできるもんね?」


「それは……。……確かに、同行してもらえれば助かる部分は大きいです。ですが……これでは私が助けられてばかりで、ティアさんになんの得もないじゃないですか。どうして、そこまで……」



 当然の疑問だ。理由が分からなければ納得もさせられない。だからあたしはステラの目を見つめ、問いに真剣に答える。



「得ならあるよ。あたし、どうしても会いたい人がいるんだ。でも、その人が今どこにいるのかは分からない。だから、捜すために旅をしたい。そのために里の家族から出された条件が、『この村で信頼できる仲間を見つけられたら』だったの」


「……私が、その信頼できる仲間だと? 昨夜の一件だけで?」


「うん。あたしの直感にピンときたんだ。この子なら――ステラなら、信じられる、って」



 流れ星から始まった出会いの鮮烈さ。微笑みの眩しさ。あたしにとって彼女は、夜空で一等輝く星の光のようだった。その光が心まで焼いてしまったから、彼女を信じたくなったのかもしれない。そんなあたしの発言を受けたステラは――



「……それ、なんの根拠も、ないじゃないですか」



 そう言って、困ったようにクスクスと笑ってくれたのだった。


 この感触ならいけるのでは、と期待を膨らませたあたしは、次にユーニさんに顔を向ける。



「ねえ! ステラならいいでしょ、ユーニさん! 信頼できるよ!」


「そうね。ティアの直感はよく当たるし、前みたいに焦ってるわけでもなさそうだしね。ステラさんさえ良ければ、連れて行ってあげてくれないかしら」


「……貴女はいいのですか? 心配なのでは?」


「それはもちろん心配よ。妹みたいなものだもの。でも……昨夜話を聞いた時から、こうなる気はしてたから」


「……もしかして、そのために――ティアさんのために、夜通し働いて準備を……?」


「え?」



 思わずあたしはユーニさんに顔を向ける。彼女は静かに微笑みながら、ステラに言葉を返す。



「ティアのご両親に頼まれてうちで預かるようになって一年くらい。この子はその間、大人しく外からの旅人を待ち続けていたの。じっとしてるのは苦手なのに、律儀に約束を守ってね。だから、その気持ちと努力には報いてあげたいのよ」


「ユーニさん……」



 やばい、あたし泣きそう……そんな風に想ってくれてたなんて……


 あたしの視線にユーニさんは少し照れ臭そうに顔を背け、コホンと咳ばらいをしつつ話題を変える。



「えーと……それでね、ステラさん。ほんとはこっちを先に頼むつもりだったんだけど……貴女が追っているデュエッサという魔女。その討伐を、うちの店から正式に依頼させてくれないかしら」


「依頼……報酬が出るということですか?」


「ええ。前金と成功報酬をね。危険が予想されるし、多めに見積もるつもり。旅を続けるなら何かと入り用だし、あって困るものじゃないでしょ?」


「それはもちろんありがたいですが……。……けれど魔女を狩るのは、あくまで私の都合で……」


「そんなことないわ。昨夜の騒ぎで、『本物の魔女が出た』ってもう噂になってる。狭い村だからね。噂が広まるのも早いのよ。同時に、不安も広がってる。だから貴女が本当に魔女を討伐してくれるなら、その不安を解消してあげられるってわけ。うちの評判も上がるしね」


「なるほど……ですが、討伐したという証明はどのように? 死体を持ち帰りますか?」



 さらっと怖いこと言ってる。



「いえ、それは結構。そのために、ティアを同行させるの」


「……つまり、彼女は私が魔女の討伐に成功したかどうかを判断する見届け人であると?」


「そういうこと。何せ、アスタリア神官は虚偽を嫌うからね。こういう時にはうってつけでしょ?」


「はい、はい! あたし嘘なんてつかないし、ちゃんと報告するよ!」


「ね? 本人もこう言ってるし。――あぁ、そうそう。成功報酬は、()()()()()()()()()()()()()()渡すことになるから、くれぐれもよろしくね」



 その言葉に、ステラはわずかに沈黙してから、ぽつりと呟く。



「……大事にされていますね」



 ユーニさんは彼女の台詞には答えず、小さく笑みを浮かべる。あたしはなんのことかよく分からず一人で「ん?」という顔をしていた。



「それで、どうかしら。今言った条件で、引き受けてくれる?」


「……」



 ステラはわずかに顔を伏せ、考える様子を見せる。あたしは固唾を飲んでそれを見つめていた。


 どのくらい経っただろうか。やがて開かれたその口から告げられた答えは……

1話にも登場したユーニさんは、過去作『勇者の旅の裏側で』にも登場した人物です。3章で前面に出てきますが、1章(原作小説1巻)にもちょっとだけ出番があります。その頃はユーニ「ちゃん」でした。

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