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ステラティア ~魔女狩りの剣士とエルフの神官と~  作者: 八月森


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回想3 ありがとう

「あのね、この花、アルプがなにもないとこから出してくれてね――」



 あたしはそう言いながら、アルプからもらった花をおかーさんにさしだした。あのときのドキドキをいっしょうけんめい伝えようとした。そのとき――



「――グアルル!」



 あたしが持っていた花がいきなりふくらんで、形がかわって、大きなけものみたいになってうなりながら……おかーさんにかみついた。



「……え?」



 大きな口。大きな牙。それが、すごいいきおいでおかーさんの肩にかみついていた。牙が突きささったところからまっかな血がながれて、おかーさんがたおれて……



「え……え……? おかー、さん……?」



 あたしはなにが起こってるのか分からなくて、手の中を見た。アルプからもらったはずの花は、どこにもなかった。あたりまえだ。花はけものに変わって、今はおかーさんを……あたしが持ってきた花が……



(あたしの、せい……?)



 あたしが花なんて持ってきたせいで……? あたしが、おかーさんをこんな目に……?


 からだから力がぬけて、いつの間にかひざをついていた。涙が目のはしからこぼれて、だんだん、あふれていって……



「きゃあああ!?」



 誰かがさけぶ声が聞こえた。振り返って見れば、アルプがまたなにもないところから花を出して……それが、つぎつぎにけものに変わって、まわりにいた村の人たちをおそっているところだった。みんな逃げようとしたり、なんとかたたかおうとしたり、おおさわぎになっている。


 ――アルプは、あたしを見て笑っていた。心からうれしそうに、楽しさをからだぜんたいで受け止めてるみたいに。



「あぁ、あぁ……君は、本当にいい顔を見せてくれるね。期待通り……いや、期待以上だよ。本当に、本当に、堪らない……」



 その笑顔を、はじめて怖いと思った。気持ちわるいと思った。そして、わけが分からないと思った。



「なん、で……? ひくっ……なんで、こんなことするの……? ひくっ……アルプは、いいまじょじゃ、なかったの……?」


「ふふ、あはは! あぁ、リィナくんはいい子だ。本当にいい子だね。信じてくれてありがとう。――騙されてくれて、ありがとう」


「だま、されて……」


「そうさ。そもそも魔女に良いも悪いもないんだよ。()()()()()()()()()()()()


「――!」



 涙が止まらない。あとからあとからあふれてくる。口からはずっとしゃっくりみたいな音が出つづけてる。でもどうじに、お腹のおくのほうからあついのが――すごく怒ったときみたいなあつさが、わきあがってきて……あたしは泣きながら、アルプをにらみつけた。



「あぁ……その怒りに満ちた顔もとてもいい……いつまでも見ていたいな。次は、君自身を傷つけるのはどうかな。そうなったら、どんな顔を見せてくれるのかな」



 アルプの言葉を聞いたからか、おかーさんをおそっていたけものが振り返り、今度はあたしのほうを向いた。



「グルルル……」



 けものの口から見える大きな牙には、おかーさんの血がべっとりついていた。……怖い。くやしい。ゆるせない。ごめんなさい、おかーさん。あたしのせいで……色んな気持ちでぐちゃぐちゃになったあたしに、けものはじりじり近づいてきて……



  ◆◇◆◇◆



「――ふぅ。これで、この辺りの魔物は全て討伐できたでしょうか」



 村の東にある森の中で、私は共に依頼を受けていた斥候のウーゴさん、神官のイレーネさんに確認を取る。



「ああ。付近にいたのはこれで全部のようだ」


「お疲れさま、ステラちゃん。今回の旅が初めての冒険って言ってたけど、全然そんな感じしなくて頼もしかったわ」


「ありがとうございます。ですが、私なんてまだまだですよ」



 実際、レニ母さんやリュー母さん、師匠のイフさんなどは、私よりずっと強い。慢心している暇はない。


 ヨランダさんから依頼された魔物の調査・討伐任務は無事終わり、あとは目の前の魔物の死体処理を残すのみとなった。放置しておけば死体から放たれる穢れが周辺の土地や空気を汚染し、毒素を広げてしまう。なので私たちはそれを一か所にまとめた。あとはイレーネさんが法術の《火の章》で浄化すれば完了――というところで……



「……?」



 空が、ほんの少し明るくなったような気がした。それから間もなく――


 ドォン!


 と、どこかに何かが衝突したような轟音と衝撃、そして地面の揺れ。



「え、な、何!? 揺れてる!?」


「地震か!? いや、もう治まった、か……?」



 イレーネさん、ウーゴさんが驚きに声を上げる。けれど私はそれどころじゃなかった。なぜなら……



(この、気配……昨夜より、ずっと強い……!)



 今までほんのかすかにしか感じられなかった嫌な気配。朧気だったそれが急速に膨れ上がり、ハッキリと存在を主張していたからだ。しかもそれは、より具体的に力の大きさや方向を報せてきた。てっきり私に迫っているものとばかり思っていたその気配は、今は村の南のほうから漂っている。南……南には……先日リィナさんと遊んだ、花畑が……



(まさか……いや、でも、リィナさんは、今日は家から出ないように言われて……)



 あの元気な彼女が、素直に言うことを聞いて家にじっと閉じこもっているだろうか――?



「……」



 その疑念にさらなる嫌な予感を覚える。もし、この嫌な気配に、リィナさんが遭遇していたとしたら――


 私の内心の動揺を知ってか知らずか、イレーネさんは急いで祈りを捧げ、法術を唱える。



「《火の章、第二節。葬炎――クリメイション》」



 死体の山に法術の白い炎が灯り、彼らを燃やしていく。それが終わるのを待たないうちに――



「魔物がこんな村の近くに来てたことといい、何か異変が起きてるのかも。急いで戻りましょう」


「おう!」



 イレーネさんの言葉に力強く返答するウーゴさん。私も黙って頷く。種類は違うかもしれないが、彼女たちもなんらかの不安を感じていたのかもしれない。それに内心で感謝しつつ、私は村への道を急いだ。

 この気配の正体を確かめるために。そしてリィナさんが家にいることを、一刻も早く確認するために――



  ***



 村に辿り着いた時、そこにあったのは……血と肉、そして悲鳴が広がる、凄惨な光景だった。



「魔物……!?」



 村人たちを襲うのは、獅子の姿をした巨大な四足獣の魔物。牛に近い大きさを持つそれが、逃げ惑う人々を追い、引き裂き、喰らっている。すでに幾人かは助かりようのない傷を負っていた。



「こんなやつら、どこから……!」



 村には周囲を警戒する物見(やぐら)がある。こんな目立つ魔物が群れを成して迫っていたのなら、誰かが気づいていておかしくない。なのに……



「……!」



 この魔物たちからも私がずっと感じていた嫌な気配がするが、それと同種、かつ、それ以上に大きな気配が、この先――宿のほうから発されている。私は爆発しそうな焦燥感を抑え込みながら駆け出し、途中にいた魔物の一匹を抜き打ちで斬り捨て、全力で宿に向かう。


 果たしてそこに、気配の主はいた。この小さな村には似つかわしくない、サーカスの道化のような格好をした少女。彼女は周囲の魔物を従えるようにこの場に立ち、喜悦を抑え切れないというように笑みを浮かべている。そして、彼女の視線の先には……



「リィナさん!!」

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