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ステラティア ~魔女狩りの剣士とエルフの神官と~  作者: 八月森


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20/23

回想2 流れ落ちる気配

「とーう、ちゃく! あたしの勝ちだね、ステラ!」



 旅を始めてしばらく経った頃。


 パルティール王国から隣国のルーナ王国へ辿り着き、とある小さな村に立ち寄った私は、一人の女の子に懐かれた。うなじくらいまでの短い茶髪の、十歳の女の子だった。



「リィナさんは足が速いですね。参りました」



 その女の子――リィナさんは、この村の冒険者の宿の一人娘。旅人に興味があるらしく、外から来た私に話をせがみ、そのうちに一緒に遊ぶようになっていた。今も村の外れにある花畑まで遊びに行き、こうして宿まで帰ってきたところだ。



「そんなこと言ってステラ、よろいとか脱いで本気出したら、もっとはやいんでしょ?」



 彼女の言う通り、私は胸当てと肩当て、それに左腰に黒剣を身につけたままだった。



「まぁ、少しは速くなるかもしれませんが、そんなには変わりませんよ。それに魔物が出る可能性も考えれば、脱ぐわけにはいきません」


「ぶー。つまんないの。この辺りは魔物なんて出ないから、大丈夫なのに。まぁいいや。おかーさーん、ただいまー!」



 リィナさんは文句を言いながらも、次には笑顔で宿の入り口に飛び込んでいた。コロコロ変わる表情が可愛い。



「おかえりなさい、リィナ。そこの桶に水を汲んであるから、ちゃんと手を洗うのよ」


「はーい」



 そう言ってリィナさんを迎えたのは、彼女と同じ茶髪を長く伸ばした、まだ若さの残る女性。母親のヨランダさんだ。彼女はここの冒険者の宿の店主でもある。旦那さんは近くの森で木こりをしており、宿の経営はヨランダさんに任せているのだとか。



「ステラさんもおかえりなさい。リィナの面倒を見てくれてありがとうね」


「いえ、そんな。私も楽しいので、お気になさらず」



 母さんたちの元での生活は基本的に修行と冒険ばかり――と言っても自分から望んだものだが――で、こうして子供と遊ぶ機会は皆無だった。初めての経験で楽しいし、自分が子供好きなことにも気づけた。ここに立ち寄って良かったと思っている。



「そう? 本当にありがたいわ。冒険者は基本忙しいし、あの子のことを構ってくれる人は少ないのよ」



 それはまぁ、しょうがないだろう。安全な街を出て、命懸けの旅をするのが冒険者だ。常に気を張っているし、すぐに次の目的地に向かう人も多い。立ち寄っただけの村でわざわざ子供の相手をする余裕は……それをしている私って、変わり者なんだろうか。まぁいいか。



「あ、そうそう。話は変わるけど、明日になったら一つ依頼を受けてくれないかしら。東の森で魔物の目撃報告があってね。それを調査して、可能なら討伐してもらいたいんだけど……頼める?」


「ええ、構いませんよ。私一人ですか?」


「いえ、念のため神官が一人と、斥候も一人つけるつもり。ちょうど手の空いてる人がいるから」


「了解しました。それでは明日、正式に依頼として引き受けますね」



 その日はリィナさんの家族や他の冒険者と共に宿の食堂で食事を取り、その後就寝した。


 旅は順調だった。大きなミスもなく、冒険者としての生活を送れていた。明日の魔物討伐も気をつければ問題ないだろう。そう思いつつも、私はベッドの上でわけも分からない言い知れぬ不安を抱いていた。


 いや、不安というより……気配? 何か、形容しがたい嫌な気配が、私の身に迫っているような、そんな感覚を覚えて……



(寝付けない……)



 この感覚は、実は村を訪れる前から感じているものでもあった。けれど今までのそれはほんのかすかなものでしかなく、気のせいだと思うことにしていた。だけど今夜は……



(……とにかく寝ましょう。明日の依頼に差し障ります)



 気配は依然迫ってくる。けれど無理やり私は眠りについた。



  ◆◇◆◇◆



「ぶー。今日もあそんでもらうつもりだったのに」



 ステラがおしごとで出かけちゃったので、あたしはごきげんななめ。しかたないので一人でいつもの花畑に向かうところだった。


 おかーさんは魔物が出るかもしれないから外にいっちゃダメって言ってたけど、今まであたしは魔物なんて見たことない。だから今日もだいじょーぶと思って、こっそりぬけだしてきた。だってずっと一人で家の中なんてつまんないもん。


 空は今日もいー天気。村の人もいつもどおりのんびりすごしている。ステラという旅人さんがやって来た以外は、いつもと変わらないへーわな毎日。今日もそれがくりかえされる……そう思っていた。


 けれどちがった。村の南にある小さな橋を渡って、花畑が見えてきたころ、足元に草がたくさん生えてきたあたりで……急にまわりがちょっとだけ明るくなったと思ったら、光の線が空を走っていったのだ。そして――


 ドォン!


 と大きな音がして地面がゆれて、それからすぐ後にすごい風がふいて、あたしのからだをふきとばした。



「わー!?」



 あたしは地面を後ろ向きに一回、二回と転がって、ぺたんとお尻をつく。地面にたくさん生えた草のおかげか、ケガはなかった。草まみれになっちゃったけど。それより……


 さっきの光は、花畑の向こうがわ、木が並んだ林の中に落ちていったように見えた。なにが起こったのか、なにが落ちてきたのか。それをたしかめたくて、あたしは立ち上がって走り出した。「遊んでいいのは花畑まで」っておかーさんに言われてたけど、今のあたしはそんなこと忘れていた。ちょっとワクワクしていた。


 林の中に入ると、すぐにたくさんの木が倒れてるのが見えた。その奥は大きなお皿みたいに穴があいていて……その穴のまんなかに、ステラと同い年くらいの女の子が立って、ぼーっとまわりを見ていた。あたしには気づいてないみたい。



(わー……かわいい)



 その女の子は、昔ちょっとだけ見たサーカスのピエロさんみたいな、変わったかっこうをしていた。ふたまたの帽子の後ろからはむらさき色の短い髪が見えている。顔にはなにもぬってないのできれいな顔が見えたけど、左目の下に涙みたいな模様だけがポツンとあった。


 光が落ちた先にいたかわいい女の子。あたしはワクワクをおさえきれずにその子に近づいた。



「ねえ」



 あたしの声に、その女の子ははじめて気づいたみたいにおどろいてみせた。



「……? きみ、は……?」


「あたし、リィナ! あっちにある村に住んでるの。あなたは?」


「ぼく……? ぼく……僕は……。……ふふ」



 そこで女の子は、はじめて笑った。



「僕は、アルプ。魔女だよ」


「まじょ……? まじょって、わるい子をしかるために流れ星にのってやって来るっていう……?」



 じゃあ、さっきの光は流れ星? それが落ちたから、こんな大きな穴が……? ううん、それより……



「ってことは、あたしがわるい子だからここに来たの……? こっそりおうちぬけだしてきちゃったから……?」



 そう怖がりながら聞くと、女の子――アルプは笑いながら、そうじゃないと手をふる。



「あぁ、違う違う。君を叱るためなんかじゃないよ。むしろ逆――一緒に遊ぶために来たのさ。僕は()()()()()()()()からね。――ほら」



 そう言って差し出されたアルプの手。なにも持ってなかったはずのそこに、いきなりきれーな花があらわれた。



「わ! すごい!」


「まだまだ。ほら、ほら」



 次はなにもない空中に、次はあたしの手の中に、ポン、ポン、と花が咲いていく。



「すごいすごい! どうやってるの!?」


「ふふ、それは秘密だよ。手品のタネを明かしちゃったらつまらないからね」


「そっか! そうだね! わー……これ、おかーさんにも見せてあげたいなぁ」



 あたしがそうつぶやくと、アルプの目がきらりと光った気がした。



「おかーさん……お母さんか。ああ、それはいい考えだね。それじゃ、今から一緒に見せに行ってあげようよ」


「え、ついてきてくれるの?」


「もちろん。でも普通に歩くんじゃつまらないから……僕の手を、握ってくれる?」


「えっと、こう?」



 あたしが自分からアルプの手をにぎると、彼女は空いているもう片方の手の指をパチンと鳴らす。すると、ふわりと彼女のからだが浮き上がり……それにおどろくひまもないうちに、あたしのからだも地面からはなれていく。



「わわっ? ういてる……とんでる!? あたし、とんでる!」



 すごいすごい!



「ふふ、これで君のお母さんのところまであっという間だよ。案内してくれるかな?」


「うん! こっちだよ!」



 あたしが村のほうに指をさすと、そのとおりにあたしたちはとんでいく。今まで橋をわたらないととおれなかった小川もひとっとび! 鳥さんになったみたいな気分だ。びっくりしたけど、すごく楽しい!


 村にはすぐに帰れた。空をとんできたあたしたちを、大人たちがざわざわとなにか言いながらちょっと怖い目で見つめている。その中にはおかーさんのすがたもあった。外に出てたってことは、あたしをさがしてたのかもしれない。



「おかーさん!」


「リィナ! 今日は外に出ちゃダメって言ったでしょ!」


「こめんなさい……でも、見て、おかーさん! この花!」


「花……? また花畑に行って採ってきたの?」


「そうだけど、そうじゃないの! あのね――」



 あたしはアルプからもらった花を、おかーさんにさしだした。

リィナ視点は子供らしく見えるように意図的に漢字を減らしてあります。もっと減らしてもよかった気と、これ以上は読みにくいかなの気持ちでバランスを取って、最終的に今ぐらいになりました。

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