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ステラティア ~魔女狩りの剣士とエルフの神官と~  作者: 八月森


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回想1 『私』が私になった日

 まばゆく輝く星の光――生命の炎。それを呑み込もうと迫る夜空の闇――邪悪なる穢れ。


 空で繰り返される光と闇の争い。その結果の一つとして、とある名もなき星が闇に呑まれた。闇は収束し、形を成していき、意識を手に入れたことで『私』は生まれた。


 まだ固まり切らない身体から星の光が漏れる。構わずに『私』はひと際美しい星の一つへ――〈白の女神〉アスタリアとその被造物たちが住まう地上への降下を開始した。


 かの星は強固な金属の幕によって護られているが、〈黒の邪神〉アスティマがあの地へ侵入する際、その幕を一部破壊している。『私』たちは皆そこから流れ落ちて地上を侵略する。


 朧気に生まれた魔女としての意識。そこに刻まれていたのは、自分が『無秩序』を司る魔女として、悪神の加護を受けた存在であること。そして、アスタリアの眷属たちへの強い悪意を植え付けられていること。彼らを騙し、傷つけ、奪い、犯し、殺し、その秩序を破壊した後に蹂躙するのが、『私』の欲求にして喜び。


『私』はかの星への侵入を果たし、地上に降り立つと共に肉体を構成し、いよいよ魔女として行動を開始する……はずだった。


 バヂィ――!



「ギ……!?」



『私』の身体は透明な何かに絡め取られ、そのまま空中で静止させられる。同時に強く反発する力がこの身の闇を――穢れを剥ぎ取っていく。


 それは、アスタリアが眠るパルティールの地を中心に張り巡らされた結界。人間たちが『パルティール大結界』と呼ぶもの。この時の『私』は、不運にもこの結界に向かって落ちてしまったのだ。


 穢れが強いほど反発される特性を持つその結界は、『私』という魔女の穢れを焼き尽くそうと光り輝き、夜空を照らす。



「ア、ア、ア、アアアアアァァァ!?」



 夜空に悲鳴が響き渡る。その間にも『私』を構成する穢れは()ぎ取られ、浄化されていく。このままでは何もできぬまま消えてしまう。――『私』が消えてしまう!


 その恐怖と苦痛から逃れようともがいた結果――自分でも何をどうしたか全く分からないまま――、『私』の身体を構成する光と闇が、〝反転〟した。


 内に呑まれようとしていた星の光が外側に引きずり出され、瞬時に肉体を構築。入れ替わるようにしてその内側に闇は身を隠した。生まれた時とは真逆に、光が闇を呑み込んだ。


 星の光という生命の炎が取った形は、()しくもこの地の人間と似たものだった。魔女の力と意識は奥底で眠っている。


 そうして、『私』は私になった。


 穢れの大半を失ったことで、私は結界から排除される対象ではなくなった。恐怖と苦痛から解放され安堵したところで、私は地面に落下し始め……そこで、意識を失った。



  ***



 次に目が覚めた時、私は建物の一室でベッドに寝かされていた。そこはパルティール王国の王都グランディールの下層にある、一軒の冒険者の宿だった。


 部屋には複数の人影があった。一人は剣士のレニ母さん。もう一人は神官のリュー母さん。後に私を引き取って養子に迎えてくれることになる、二人の母さんだった。


 あの日、『私』という流れ星が落ち、『私』が私になった時。私は運よく木々の枝葉がクッションになって一命を取り留めた。そこへ、たまたま付近で野営していた母さんたちが、流れ星が近くに落ちるのを見て足を運び、倒れていた私を発見。街まで運んでくれたらしい。


 目を覚ました私は、ベッドの上で上体を起こす。


 私はこの時、記憶が混乱していて自分が何者なのかも思い出せなかった。しかし、母さんたち以外に部屋にいた人物、赤黒いドレスを纏った少女が、少女らしからぬ口調で母さんたちにこう言った。



「なぜ、()()()()()を連れ込んでいる? ――そやつは、魔女だぞ」



 その言葉で私は、結界に衝突する前後の記憶を思い出す。私は『私』で、人々に災厄をもたらす魔女なのだと……


 同時に、気づいたこともある。


 あの夜、『私』という魔女の光と闇、聖と邪が反転したことにより生まれた私。その反動によるものなのか、今の私には、魔女としての悪意は欠片も湧いてこないことに。


 母さんたち――特に神官のリュー母さんは、それに気づいてくれたのかどうか、私の面倒を見ると言ってくれた。


 後で知ったことだが、剣士のレニ母さんも人ではなく、半魔という特殊な存在で、リュー母さんはそれを知ったうえでレニ母さんと交際していたらしい。だから私のことも放っておけないのだと。


 もっとも、レニ母さんのほうは私の魔女としての側面に警戒も示しており、もし何かあった場合には自分が〝斬る〟と釘を刺していたが。それは彼女が現実的な考えをする冒険者であり、また彼女自身が己という特異な存在の危険性を理解しているからこそ、自分自身にも課した責任の取り方でもあったのだけど。


 紛糾(ふんきゅう)はしたものの、結果として私は二人の母さんに養子として迎え入れられた。それから二年間、私はパルティールの地で一般常識を学びながら、母さんたちと共に冒険者の宿からの依頼をこなし、冒険者としての技術、心構えを叩き込まれた。


 同時に、剣術や体術の基礎や、『気』の扱い方も教わった。魔女である私に、アスタリアの生命力を操作する『気』の技術が扱えるか疑問だったが、星の光で身体が構築されたこの身は問題なく『気』の技法を修得し、使用することができた。


 基礎を覚えたならば、次は応用――自分に合った戦い方を選ぶことになるが……レニ母さんは逆手で剣を持つ特殊な構え、リュー母さんは法術と格闘術を組み合わせたこれまた特殊な戦い方で、私はどちらも適性がなかった。仕方なく、ご近所のイフさんという、剣と魔術を修めた男性にそれらを教わることになる。レニ母さんはちょっと不満そうだった。もう少し自分の剣を教えたかったみたいだ。


 けれど私は、誰に剣を教わるかより、早く一人前の冒険者になることのほうを優先した。だってそうじゃないと、二人にずっと負担をかけてしまうことになる。それは嫌だった。


 そうして手に入れたのが、基本に忠実な剣術と風の魔術を組み合わせた剣術流派、〈ローク風刃一刀流〉。剣筋も魔術適正も私に向いたものだったため、思ったよりはすんなり修得することができた。


 ちなみに魔女であるためか魔力量は多い私だが、詠唱せずに魔術を扱うことはできなかった。光と闇が反転した際、身体の組成が魔女より人間に近くなっていたからだろう。しかしこれは人間社会での生活において、魔女や魔族と疑われる要素が一つ消えたという意味では、むしろありがたかった。


 師匠からは修めた証として、流派の名の由来となった黒剣〈ローク〉を譲り渡された。これは剣であり、『魔術を制御・先鋭化させる』能力を持つ魔具でもある。まだ未熟な私の助けになるから、と。


 それからすぐに、私は旅に出た。私一人でも母さんたちの負担にならず生きていけることを証明し、それをもって胸を張って二人の娘だと言えるように、と。


 そうして各地を旅した一年間で、私は――……私以外の魔女と、出会うことになる。

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