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企業戦士戦線(コーポレート・ウォーフェア)  作者: 凡夫 成


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企業戦士 外伝 業火 ―炎城レオ― 第6話 燃え残るもの

今回は帝央最高火力、炎城レオの物語。

本編では「最高火力」と言われながら、なかなか全力を出せない炎城ですが、彼が弱いわけではありません。


帝央本社。


社長室。


時任三郎は一冊の資料を机へ置いた。


「次の案件だ」


炎城レオは仮面越しに資料を見る。


写真。


地方都市の複合施設。


商業棟。


事務所棟。


倉庫。


社員寮。


人の気配が多い場所だった。


炎城。


「燃やせなさそうですね」


三郎。


「ああ」


「今回は一切燃やすな」


炎城の指が止まる。


「一切?」


安間司が補足する。


「敵対企業が施設を占拠しています」


「中には一般社員、家族、取引先関係者が残されています」


炎城。


「人質か」


三郎。


「そうだ」


資料の次のページ。


敵企業戦士の情報。


能力。


《人質連結》


人質と自分たちの受けるダメージを一部共有する能力。


炎城は資料を閉じた。


「最悪ですね」


安間。


「炎を使えば、周囲へ被害が出ます」


「直接攻撃しても、人質へ影響が出ます」


炎城。


「つまり」


「燃やしても駄目」


「殴っても駄目」


「敵を倒しても駄目」


三郎。


「だから君に行かせる」


炎城。


「俺ですか」


三郎。


「君は燃やせば勝てる」


「だからこそ」


「燃やさずに勝つ必要がある」


炎城は仮面に触れる。


黒い枷。


いつもなら火を抑えるためのもの。


だが今回は。


火そのものが許されない。


炎城。


「帝央の火に、火を使うなと」


三郎。


「仕事だ」


炎城。


「便利な言葉ですね」


三郎。


「結果を持ち帰れ」


炎城は資料を持ち上げる。


「了解」


「燃やさずに勝ってきます」


夜。


地方都市。


複合施設は暗闇の中に沈んでいた。


窓の内側には人影。


怯える社員。


家族。


取引先の担当者。


そして。


それを盾にする敵企業戦士たち。


敵の指揮官が館内放送で笑う。


「帝央は手を出せない」


「火の男を呼んでも無駄だ」


「燃やせば人質ごと終わる」


施設の入口に。


炎城レオが現れる。


黒い仮面。


帝央のコート。


その後ろに安間司。


敵指揮官。


「来たか」


「帝央最高火力」


炎城。


「ああ」


「今日は燃やさないけどな」


敵指揮官は笑う。


「それで何ができる」


炎城は答えない。


ただ歩く。


施設内。


敵企業戦士が待ち構えていた。


一人目。


刃物を持つ企業戦士。


背後には縛られた社員。


炎城は指先に火を灯しかける。


だが。


すぐに消した。


敵が笑う。


「どうした?」


「火が怖いか?」


炎城は踏み込む。


火を使わず。


拳だけ。


敵の刃が腕をかすめる。


血が流れる。


炎城は構わず懐へ入る。


腹へ一撃。


敵が膝をつく。


だが。


同時に。


背後の社員が苦しそうにうめいた。


ダメージ共有。


炎城は舌打ちする。


「面倒くせぇ能力だ」


安間の声が通信に入る。


「敵への直接攻撃は最小限に」


炎城。


「分かってる」


敵が立ち上がる。


炎城は殴らない。


代わりに。


足元を払う。


腕を極める。


意識を落とさず、動きだけを止める。


拘束。


一人目。


無力化。


社員を解放する。


社員。


「ありがとうございます……」


炎城。


「走れ」


「安間が出口を作ってる」


社員が逃げる。


炎城は次へ向かう。


二階。


廊下。


敵が三人。


人質が五人。


炎は使えない。


拳も使いにくい。


炎城は壁を蹴り、天井の配管へ手をかける。


熱ではなく。


力だけで配管を引き剥がす。


水が噴き出す。


床が濡れる。


敵の足が滑る。


その隙に人質を押し出す。


敵が叫ぶ。


「火を使わない炎城など怖くない!」


炎城は笑う。


「そうか」


一歩。


踏み込む。


拳ではなく。


肩。


体当たり。


敵を壁へ押し付ける。


呼吸を奪う。


関節を極める。


骨を折らない。


意識を飛ばさない。


ただ動けなくする。


炎城の体に傷が増える。


頬。


腕。


腹。


敵の攻撃を受けながら。


人質を一人ずつ外へ逃がす。


安間の防衛領域が、施設の外周を包む。


逃げた人質を安全圏へ誘導する。


安間。


「一階東側、避難完了」


「二階西側、残り三名」


「三階中央に家族連れが残っています」


炎城。


「了解」


三階。


中央ホール。


そこには子どもがいた。


母親にしがみつき、震えている。


敵指揮官がその横に立つ。


「遅かったな」


炎城。


「子どもを盾にするのは趣味が悪いですね」


敵指揮官。


「企業戦争だ」


「勝てばいい」


炎城。


「そうか」


敵指揮官。


「火を出してみろ」


「この施設ごと終わる」


炎城は仮面に触れた。


出せない。


出せば終わる。


燃やせば勝てる。


だが。


燃やせば負ける。


炎城は手を下ろした。


敵指揮官。


「帝央最高火力が聞いて呆れる」


敵の拳が炎城の腹に入る。


炎城は避けない。


さらに一撃。


もう一撃。


炎城の体が揺れる。


それでも倒れない。


敵指揮官。


「なぜ反撃しない!」


炎城。


「今やったら」


「巻き込むだろ」


敵指揮官。


「甘いな」


炎城。


「仕事なんで」


敵の能力が強まる。


人質連結。


炎城が敵を傷つければ、人質にも負担が行く。


だから炎城は攻撃しない。


ただ受ける。


殴られ。


蹴られ。


壁へ叩きつけられる。


仮面にひびが入る。


母親が叫ぶ。


「もうやめてください!」


炎城はゆっくり立ち上がる。


「大丈夫ですよ」


「俺は燃え残るのが得意なんで」


その時。


安間の声。


「三階南側、避難経路を確保」


「炎城さん」


「あと十秒、耐えてください」


炎城。


「十秒か」


敵指揮官。


「何をする気だ!」


炎城は笑う。


「仕事だよ」


敵の攻撃。


一発。


二発。


三発。


炎城は受け続ける。


その間に。


床下の防衛領域が広がる。


安間が空間を区切る。


母親と子ども。


敵指揮官。


炎城。


それぞれの位置を分ける。


見えない壁が、人質と敵を切り離す。


安間。


「人質連結、遮断」


「保護対象、全員領域内に収容」


「炎城さん」


一拍。


「領域外に保護対象なし」


炎城の目が変わる。


敵指揮官の顔が青ざめる。


「まさか」


炎城は仮面に手をかける。


カチリ。


第一制限解除。


カチリ。


第二制限解除。


ひび割れた仮面の奥で。


炎が白く光る。


炎城。


「よくもまあ」


「ここまで燃やせない状況を作ったな」


敵指揮官が後退する。


炎城。


「でも」


「もう終わりだ」


三郎の声が通信に入る。


「炎城」


「燃やせ」


炎城。


「了解」


仮面が外れる。


炎が爆ぜた。


ただし。


広がらない。


安間の防衛領域が、炎の行き先を決める。


人質のいない空間。


敵だけが残された場所。


そこだけを炎が満たす。


敵指揮官。


「やめろ!」


炎城。


「さっきまで」


「勝てばいいって言ってたろ」


炎の拳。


一撃。


敵の能力が焼き切れる。


二撃。


敵の装備が灰になる。


三撃。


敵指揮官が床へ崩れ落ちる。


燃えたのは。


人ではない。


敵の戦意。


敵の能力。


敵の逃げ道。


それだけだった。


戦闘終了。


人質。


全員救出。


施設被害。


軽微。


敵企業戦士。


全員拘束。


炎城は仮面を拾う。


ひびが入っている。


安間が歩いてくる。


「無茶をしましたね」


炎城。


「火を使うなって言われたんで」


安間。


「殴られろとは言っていません」


炎城。


「結果は出しましたよ」


安間は少しだけ息を吐く。


「ええ」


「完全勝利です」


炎城は笑う。


「ならいい」


その場にいた子どもが、母親の手を離れて炎城へ近づく。


「おじさん」


炎城。


「お兄さんな」


子どもは小さく頭を下げた。


「助けてくれてありがとう」


炎城は黙る。


火を使えなかった。


燃やせなかった。


最高火力らしい戦いではなかった。


だが。


その言葉だけで。


今日の戦いは悪くなかったと思えた。


炎城。


「帰れ」


「もう怖くない」


子どもは頷き、母親の元へ走っていった。


帝央本社。


翌日。


社長室。


三郎は報告書を読んでいた。


人質全員救出。


敵企業戦士全員拘束。


施設被害、軽微。


炎城レオ。


負傷多数。


仮面破損。


三郎。


「よく勝った」


炎城。


「燃やせませんでしたけどね」


三郎。


「だから勝った」


炎城は黙る。


三郎。


「燃やせば勝てる戦場で燃やすのは当然だ」


「燃やせない戦場で」


「それでも勝つ」


「それが帝央の火だ」


炎城。


「俺は最高火力ですよ」


「火を使わないなら、俺じゃなくてもいい」


三郎。


「違う」


「全てを燃やせる君が、燃やさないと決めた」


「そこに意味がある」


安間が静かに続ける。


「炎城さんが耐えたから、人質は助かりました」


「炎城さんが燃やさなかったから、施設は残りました」


「炎城さんが最後まで燃え残ったから、勝てました」


炎城は割れた仮面を見る。


「燃え残るもの、か」


三郎。


「ああ」


「火は燃やすだけではない」


「最後まで消えずに残る火もある」


炎城は新しい仮面を受け取る。


黒い。


以前よりも少し重い。


三郎。


「改良型だ」


炎城。


「また枷が重くなりましたね」


三郎。


「守るものが増えた」


炎城は仮面をつける。


呼吸が重くなる。


視界が狭くなる。


だが。


もう嫌ではなかった。


この息苦しさは。


燃やしてはいけないものを守るためのもの。


帝央を燃やさないためのもの。


そして。


必要な時にだけ、業火を放つためのもの。


炎城。


「次は」


「もう少し綺麗に勝ちますよ」


安間。


「できれば、最初からそうしてください」


炎城。


「善処します」


三郎。


「炎城」


「はい」


「君は帝央の火だ」


「燃やすだけの火ではない」


「照らし」


「守り」


「最後に敵を焼く火だ」


炎城は仮面の奥で笑った。


「悪くないですね」


「帝央の火」


その日から。


炎城レオの戦い方は変わった。


ただ燃やすだけではない。


ただ火力で押し切るだけではない。


燃やすべきもの。


燃やしてはいけないもの。


その境界線を見極めるようになった。


それでも。


敵対企業は忘れてはいけない。


炎城レオは、優しくなったわけではない。


弱くなったわけでもない。


燃やさずに勝てるようになっただけだ。


そして。


本当に燃やすべき時。


帝央最高火力は。


迷わず全てを焼き尽くす。


第7話 帝央の炎。

お読みいただきありがとうございます。

炎城レオは、帝央の中でもかなり派手な能力を持つ人物です。

ただ、会社を守る戦いでは、強すぎる火力は時に扱いづらい武器でもあります。

今回はその始まりとして、炎城が時任三郎と出会い、帝央へ入るまでを書きました。

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