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企業戦士戦線(コーポレート・ウォーフェア)  作者: 凡夫 成


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企業戦士 外伝 業火 ―炎城レオ― 第5話 炎帝

今回は帝央最高火力、炎城レオの物語。

本編では「最高火力」と言われながら、なかなか全力を出せない炎城ですが、彼が弱いわけではありません。


帝央本社。


社長室。


時任三郎は一枚の海外案件資料を机に置いた。


「北方資源連合からの依頼だ」


炎城レオは仮面越しに資料を見る。


写真には、雪に覆われた港湾施設が写っていた。


凍結した海。


氷に閉ざされた倉庫。


停止した輸送船。


「寒そうですね」


三郎。


「敵企業が港を凍結させた」


「資源輸送が止まっている」


炎城。


「氷ですか」


「相性がよさそうで」


安間司が横から言う。


「相手も同じことを考えているでしょう」


炎城。


「俺が火だから、氷で止められると?」


安間。


「はい」


炎城は笑った。


「分かりやすくていい」


三郎。


「今回の目的は敵の排除」


「港湾機能の回復」


「輸送船の解放」


「ただし」


炎城。


「燃やすな、ですね」


三郎。


「港は燃やすな」


「敵は燃やせ」


炎城。


「また難しい仕事だ」


三郎。


「帝央では、それを仕事と呼ぶ」


北方港湾都市。


夜。


気温は氷点下。


海は凍り。


港には白い息が漂っていた。


帝央の海外輸送拠点は、氷に閉ざされていた。


倉庫も。


クレーンも。


輸送船も。


全てが分厚い氷で覆われている。


敵企業戦士。


北方資源連合の反対勢力。


氷結能力者ばかりを集めた部隊。


その指揮官が、凍った港の中央に立っていた。


名はヴィクトル。


能力。


《氷結支配》


港全体を凍らせ、相手の動きを奪う。


ヴィクトルは部下たちへ言う。


「帝央は火の企業戦士を送ってくる」


「炎城レオ」


「帝央最高火力」


部下が笑う。


「火なら氷を溶かせますね」


ヴィクトル。


「ああ」


「だから勝てる」


部下たちが首をかしげる。


ヴィクトルは凍った海を指差す。


「ここは港だ」


「氷を溶かせば、地面を失う」


「水蒸気が視界を奪う」


「船も設備も使えなくなる」


「火力が強いほど、自分の首を絞める」


その時。


凍った港の入口に、一人の男が現れた。


黒い仮面。


帝央のコート。


炎城レオ。


「寒いな」


指先に小さな火を灯す。


だが、風に揺れない。


まっすぐ燃えている。


ヴィクトル。


「来たか、帝央の火」


炎城。


「あんたが氷の親玉か」


ヴィクトル。


「ここでは火は使えない」


「港を壊すからな」


炎城は周囲を見る。


凍った船。


凍った倉庫。


凍ったクレーン。


そして。


氷の上に立つ敵企業戦士たち。


「たしかに」


「燃やすものを間違えると怒られそうだ」


ヴィクトルが手を上げる。


氷の槍が無数に生まれる。


「ならば、燃やす前に終わりだ」


氷槍が飛ぶ。


炎城は動かない。


仮面の側面に触れる。


カチリ。


第一制限解除。


炎が手のひらに広がる。


氷槍が近づく。


炎城は拳を軽く振った。


氷槍は溶けなかった。


蒸発した。


白い霧が広がる。


敵の一人が叫ぶ。


「視界が!」


ヴィクトル。


「慌てるな!」


「霧はこちらの味方だ!」


氷結能力者たちは、霧の中で動く。


氷の足場。


氷の刃。


氷の鎖。


全方位から炎城を狙う。


炎城は一歩踏み出す。


足元の氷が溶ける。


だが、水にはならない。


熱で一瞬だけ柔らかくなり、すぐに薄い膜のように固まる。


炎城は滑らない。


自分の足元だけを焼き。


自分の進む道だけを作る。


敵。


「なぜ落ちない!」


炎城。


「溶かす場所を選んでる」


「火は広げるだけじゃない」


「形を作るもんだ」


氷の鎖が腕へ絡む。


炎城は引きちぎらない。


鎖の中心だけを焼く。


接続部が砕ける。


氷の刃が背後から迫る。


炎城は振り返らず、熱風だけを置く。


刃は空中で消える。


敵が次々と後退する。


「なんだ」


「火力を抑えてるのに強いぞ」


ヴィクトルが眉をひそめる。


「抑えているからだ」


炎城は笑う。


「よく分かってるじゃないですか」


ヴィクトルは両手を広げた。


港全体の氷が軋む。


海面。


倉庫。


船体。


全ての氷が持ち上がる。


巨大な氷壁。


炎城を囲むように立ち上がった。


ヴィクトル。


「ならば、閉じ込める」


「火は酸素がなければ消える」


氷壁が狭まる。


空気が薄くなる。


炎城は仮面の奥で息を吐く。


「酸素ね」


仮面の第二制限を外す。


カチリ。


炎が白くなる。


だが、炎城は周囲を焼かない。


拳を地面へ向ける。


足元の一点。


凍った海面。


そこだけを焼く。


一瞬。


海水が蒸発した。


爆発的な水蒸気が、氷壁の内側に満ちる。


圧力。


熱。


逃げ場を失った白い蒸気が、氷壁を内側から押し広げる。


ヴィクトル。


「何を——」


ドォォォォォン!!


氷壁が内側から砕けた。


霧が港を覆う。


敵企業戦士たちは体勢を崩す。


炎城は霧の中を歩く。


熱を頼りに。


敵の位置を読む。


「一人目」


拳。


敵が倒れる。


「二人目」


炎の線が足元を焼き、動きを止める。


「三人目」


氷の盾ごと叩き割る。


次々と敵が沈む。


港の設備には触れない。


船も燃えない。


倉庫も焼けない。


だが。


敵だけが倒れていく。


ヴィクトルは後退する。


「馬鹿な」


「炎で港を守りながら戦っているのか」


炎城。


「難しいだろ」


「これが仕事だ」


ヴィクトルは最後の能力を使う。


凍結範囲を広げる。


港だけではない。


沖に停泊した輸送船。


船員が残る避難区画。


そこまで氷が伸びる。


炎城の目が細くなる。


「それは駄目だ」


仮面に手をかける。


第三制限。


外すか。


一瞬迷う。


外せば勝てる。


だが、港も船も巻き込む。


炎城は手を止めた。


「今日は全焼許可じゃない」


炎を小さくする。


白い炎を、細い線へ。


その線を港中に走らせる。


氷を割るのではなく。


ひびを入れる。


船へ伸びる氷だけを切る。


避難区画を囲む氷だけを溶かす。


港の排水溝へ熱を流し。


水の逃げ道を作る。


炎は道になった。


港を燃やす火ではない。


港を救う火。


ヴィクトル。


「そんな使い方を……!」


炎城が踏み込む。


「俺も最近覚えたんですよ」


拳。


白炎。


ヴィクトルの氷鎧が蒸発する。


だが、肉体までは焼かない。


意識だけを刈る一撃。


ヴィクトルが倒れる。


戦闘終了。


氷結部隊。


全滅。


港湾施設。


損害軽微。


輸送船。


解放。


倉庫。


無事。


敵が倒れると、港に張り付いていた氷が少しずつ崩れ始めた。


朝日が昇る。


白い港に光が差す。


現地の社員たちが歓声を上げる。


「帝央が勝った!」


「港が戻ったぞ!」


「火の男が氷を消した!」


その中で、誰かが叫んだ。


「炎帝だ!」


炎城が振り返る。


「今、なんて?」


現地社員。


「炎の皇帝!」


「炎帝!」


炎城。


「……やめろ」


「中二病みたいだ」


現地社員たちは聞いていない。


「炎帝!」


「炎帝!」


歓声が広がる。


炎城は仮面に手を当てる。


「仮面つけてる奴にそれ言うなよ」


通信機から安間の声が聞こえる。


「似合っていると思います」


炎城。


「安間さん」


「今の絶対笑ってますよね」


安間。


「いいえ」


「記録には残しておきます」


炎城。


「残さなくていい」


帝央本社。


社長室。


数日後。


三郎は海外報告書を読んでいた。


北方港湾施設、奪還。


輸送再開。


設備損害、軽微。


敵企業戦士十二名撃破。


現地での炎城レオの呼称。


炎帝。


三郎は少しだけ目を細める。


炎城。


「消してください、その項目」


三郎。


「なぜだ」


炎城。


「恥ずかしいでしょう」


三郎。


「仮面をつけている男が言うことではない」


炎城。


「これは仕事用です」


三郎。


「炎帝も仕事の評価だ」


炎城は黙る。


三郎。


「炎城」


「今回、君は港を燃やさなかった」


「敵だけを焼いた」


炎城。


「命令でしたから」


三郎。


「違う」


「君は燃やすべきものを選んだ」


「最高火力が、初めて火力以外で勝った」


炎城は仮面に触れる。


「火力以外で勝つなら」


「俺じゃなくてもいいんじゃないですか」


三郎。


「君だから意味がある」


炎城。


「どういうことです」


三郎。


「全てを燃やせる者が、燃やさずに勝つ」


「それは抑制ではない」


「支配だ」


炎城は黙った。


燃える。


焼く。


壊す。


そのためだけの力だと思っていた。


だが、違った。


火は照らす。


道を作る。


凍ったものを動かす。


守るべきものを守りながら、敵だけを焼くこともできる。


炎城。


「俺の火も」


「少しは帝央っぽくなりましたか」


三郎。


「ああ」


「だが、まだだ」


炎城。


「まだ?」


三郎。


「次は」


「燃やせば勝てるのに、燃やせない戦場だ」


炎城の目が少しだけ鋭くなる。


三郎。


「そこで勝てて初めて」


「君は帝央の炎になる」


炎城は仮面をつけ直す。


黒い枷。


全てを燃やさないための器。


そして。


燃やすべきものを見極めるための目。


炎城。


「了解」


「燃やせない戦場で」


「勝ってみせます」


帝央最高火力。


炎城レオ。


北方の港で、彼は炎帝と呼ばれた。


だが本人は。


その名を気に入っていない。


なぜなら。


彼にとって本当に欲しい称号は。


皇帝ではなく。


帝央の火。


ただそれだけだった。


第6話 燃え残るもの。

お読みいただきありがとうございます。

炎城レオは、帝央の中でもかなり派手な能力を持つ人物です。

ただ、会社を守る戦いでは、強すぎる火力は時に扱いづらい武器でもあります。

今回はその始まりとして、炎城が時任三郎と出会い、帝央へ入るまでを書きました。

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