企業戦士 外伝 業火 ―炎城レオ― 第4話 全焼許可
今回は帝央最高火力、炎城レオの物語。
本編では「最高火力」と言われながら、なかなか全力を出せない炎城ですが、彼が弱いわけではありません。
帝央本社。
社長室。
炎城レオは、いつものように仮面をつけたまま立っていた。
向かいには時任三郎。
その横には安間司。
机の上には、一冊の資料が置かれている。
三郎。
「仕事だ」
炎城。
「燃やせない仕事ですか」
三郎。
「今回は違う」
炎城の目が、仮面の奥でわずかに動いた。
三郎は資料を開く。
「帝央系列の製鉄所が占拠された」
「場所は郊外」
「現在は操業停止中」
「社員、作業員、周辺住民の退避は完了している」
炎城。
「つまり」
三郎。
「保護対象なし」
安間が続ける。
「製鉄所内に残っているのは、敵企業戦士のみです」
炎城は小さく笑った。
「それは」
「珍しく分かりやすいですね」
三郎。
「敵は、製鉄所を盾に交渉を要求している」
「設備を失えば損害は大きい」
「だが」
三郎は炎城を見る。
「奪われたままにする方が、帝央の信用を失う」
炎城。
「で、今回はどこまで燃やしていいんですか」
社長室が静かになる。
三郎は短く言った。
「全焼を許可する」
炎城は動かない。
安間も黙っている。
数秒後。
炎城が仮面に手を当てた。
「聞き間違いですか」
三郎。
「違う」
「敵企業戦士を全て排除しろ」
「製鉄所内の被害は問わない」
「ただし」
「炎を敷地外へ出すな」
炎城は安間を見る。
「出番ですね」
安間。
「私が外を守ります」
炎城。
「中は?」
安間。
「あなたの戦場です」
炎城は笑った。
「いいですね」
「やっと息ができる」
夜。
郊外製鉄所。
巨大な煙突。
錆びた鉄骨。
止まった高炉。
赤い警告灯だけが、暗闇の中で点滅していた。
敵企業戦士。
総勢三十二名。
製鉄所内に散らばり、迎撃態勢を取っている。
指揮官が笑う。
「帝央も手は出せない」
「ここを燃やせば大損害」
「壊せば信用問題」
「大企業は守るものが多すぎる」
その時。
入口の巨大な門が開いた。
炎城レオ。
黒い仮面。
その後ろに安間司。
敵指揮官。
「二人だけか」
炎城。
「十分だろ」
敵。
「ここが何か分かっているのか」
「帝央の製鉄所だぞ」
「燃やせば損をするのはお前たちだ」
炎城は仮面に触れる。
「そうだな」
「いつもならな」
安間が一歩下がる。
両手を広げる。
空間が静かに歪む。
製鉄所全体を囲むように、見えない壁が張られていく。
防衛領域。
炎の出口を封じるための壁。
安間。
「領域展開完了」
「敷地外への延焼経路、全て封鎖」
炎城。
「了解」
カチリ。
仮面の第一制限が外れる。
炎が揺れる。
カチリ。
第二制限。
空気が熱を帯びる。
敵企業戦士たちが身構える。
炎城はさらに手を動かした。
カチリ。
第三制限。
仮面の留め具が外れる。
黒い仮面が、炎城の手に落ちた。
炎城は久しぶりに、深く息を吸う。
「ようやく」
「本気で燃やせる」
敵指揮官。
「撃て!」
鉄弾。
氷槍。
水流。
土壁。
各能力者が一斉に攻撃する。
炎城は歩き出した。
避けない。
止まらない。
鉄弾は近づく前に赤く溶けた。
氷槍は蒸発した。
水流は白い蒸気に変わった。
土壁は焼け、崩れ、灰になった。
敵。
「なんだ、あの火力は……!」
炎城。
「帝央最高火力」
「知らなかったか?」
炎が広がる。
床を走り。
壁を登り。
鉄骨を舐める。
製鉄所が赤く染まっていく。
敵の一人が、耐熱装甲を展開する。
「俺の能力は熱を通さない!」
炎城は真正面から拳を振るう。
白い炎が拳に集まる。
一撃。
耐熱装甲が焼き抜かれた。
敵が崩れ落ちる。
別の敵が高炉を盾にする。
「この設備を壊せば、帝央は損をするぞ!」
炎城は笑った。
「今日は」
「壊していい日だ」
炎が高炉を飲み込む。
巨大な鉄の塊が、赤く光る。
敵は逃げる。
だが、逃げ場はない。
安間の防衛領域が、敷地外への出口を全て塞いでいる。
安間。
「敵の外部脱出を確認せず」
「炎の外部流出もなし」
通信越しに、三郎の声が入る。
「炎城」
炎城。
「はい」
三郎。
「結果を出せ」
炎城。
「了解」
炎が爆ぜた。
製鉄所中央。
炎城は両腕を広げる。
足元から、巨大な火柱が立ち上がった。
赤ではない。
橙でもない。
白。
中心は青白い。
熱が空間を歪ませる。
敵企業戦士たちの能力が崩れていく。
氷は意味を失う。
水は届かない。
鉄は形を保てない。
煙は熱に巻かれて消える。
防御壁は焼け落ちる。
敵指揮官が叫ぶ。
「散れ!」
「一か所に固まるな!」
だが。
炎はすでに、製鉄所全体を支配していた。
通路。
階段。
足場。
搬入口。
退路。
全てが炎の道に変わっている。
炎城。
「遅い」
炎の線が走る。
敵の足元だけを焼き切る。
動きを止める。
次に武器を焼く。
次に能力の起点を焼く。
最後に、意識を刈る。
倒す。
倒す。
倒す。
一人。
二人。
五人。
十人。
敵企業戦士が次々と倒れていく。
圧倒的。
それは戦闘ではなく。
処理だった。
敵指揮官は後退する。
「化け物め……!」
炎城が歩いてくる。
「違う」
「火だ」
敵指揮官。
「同じだ!」
巨大な鉄骨が炎城へ落とされる。
炎城は見上げる。
片手を上げる。
鉄骨は空中で溶けた。
赤い鉄の雨が降る。
炎城はその中を歩く。
一滴も避けない。
熱など。
炎城には意味がない。
敵指揮官の顔が引きつる。
「なぜだ」
「なぜそこまで燃やせる」
炎城。
「いつもは燃やせないからだ」
拳に炎が集まる。
「企業戦争では」
「燃やしちゃいけないものが多すぎる」
一歩。
「人」
一歩。
「商品」
一歩。
「契約」
一歩。
「信用」
炎城の炎が白く輝く。
「だが今日は」
「お前らだけだ」
拳。
一撃。
敵指揮官が吹き飛ぶ。
製鉄所の壁へ叩きつけられる。
意識が落ちる。
戦闘終了。
敵企業戦士。
全員撃破。
製鉄所内部。
全焼。
高炉は赤く歪み。
鉄骨は溶け。
床は黒く焦げている。
だが。
敷地外には。
火の粉一つ出ていなかった。
安間が防衛領域を解除する。
額には汗。
呼吸も少し荒い。
炎城は仮面を拾い、顔につける。
「外は?」
安間。
「無傷です」
炎城。
「さすが防壁」
安間。
「中は壊滅です」
炎城。
「全焼許可ですよ」
安間。
「そうでしたね」
二人は焼け落ちた製鉄所を見上げる。
帝央の損害は大きい。
だが。
帝央は奪われた製鉄所を取り戻した。
敵企業は、帝央に手を出せば何が起きるかを知った。
翌日。
帝央本社。
社長室。
三郎は報告書を読んでいた。
敵企業戦士三十二名撃破。
製鉄所奪還。
周辺被害なし。
社員被害なし。
外部延焼なし。
製鉄所内部損害、甚大。
炎城。
「燃やしすぎましたか」
三郎。
「命令通りだ」
炎城。
「なら勝ちですね」
三郎。
「ああ」
「完全勝利だ」
炎城は仮面の奥で笑う。
「いい響きですね」
三郎。
「だが、勘違いするな」
炎城。
「分かってますよ」
「いつもこれができるわけじゃない」
三郎。
「そうだ」
「全焼許可は、滅多に出ない」
炎城。
「だから価値がある」
安間が静かに言う。
「私としては、頻繁に出されると困ります」
炎城。
「また頼みますよ」
安間。
「できれば遠慮したいです」
三郎は資料を閉じる。
「炎城」
「はい」
「帝央の火は、恐れられる」
「だが、忘れるな」
「本当に強い火は、燃やす時を選ぶ」
炎城。
「了解」
その日以降。
帝央の敵対企業の間で、一つの噂が広がった。
帝央には、普段は仮面で火を抑えている男がいる。
市街地では目立たない。
商談では決め手を譲ることもある。
だが。
ひとたび全焼を許可されれば。
何も残らない。
帝央最高火力。
炎城レオ。
その名は、業界に深く刻まれた。
炎城は一人、屋上で缶コーヒーを飲む。
仮面を少しだけ外し、夜風を吸う。
遠くに、街の灯りが見える。
燃やしてはいけないものばかりの街。
だからこそ。
自分の火は帝央に必要なのだと、少しだけ分かった。
炎城。
「次はどこを燃やせばいいんですかね」
背後から安間の声。
「できれば、どこも燃やさないでください」
炎城は笑う。
「つまらないですね」
安間。
「平和とは、そういうものです」
炎城は仮面をつけ直す。
黒い枷。
帝央を燃やさないための仮面。
そして。
全焼許可の日まで火を残すための器。
帝央の業火は。
また静かに燃え始めた。
第5話 炎帝。
お読みいただきありがとうございます。
炎城レオは、帝央の中でもかなり派手な能力を持つ人物です。
ただ、会社を守る戦いでは、強すぎる火力は時に扱いづらい武器でもあります。
今回はその始まりとして、炎城が時任三郎と出会い、帝央へ入るまでを書きました。




