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企業戦士戦線(コーポレート・ウォーフェア)  作者: 凡夫 成


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企業戦士 外伝 業火 ―炎城レオ― 第3話 最高火力

今回は帝央最高火力、炎城レオの物語。

本編では「最高火力」と言われながら、なかなか全力を出せない炎城ですが、彼が弱いわけではありません。


帝央本社。


地下訓練施設。


そこは、普通の訓練場ではなかった。


耐熱壁。


防爆床。


自動消火装置。


酸素濃度調整機能。


そして、空間遮断用の緊急結界。


帝央が持つ技術を詰め込んだ、企業戦士専用の戦場だった。


その中央に、炎城レオは立っていた。


黒い仮面。


抑え込まれた呼吸。


狭い視界。


指先には、小さな火。


炎城は仮面に触れる。


「まだ慣れねぇな」


観覧室。


時任三郎がガラス越しに炎城を見ている。


隣には安間司。


三郎。


「今日の目的は制御ではない」


安間。


「では、解放ですか」


三郎。


「ああ」


「帝央は、炎城レオの最大火力を知る必要がある」


安間は訓練場を見る。


「危険です」


三郎。


「だから君を置いた」


安間。


「私で止められる保証はありません」


三郎。


「止めろ」


安間は少しだけ目を伏せる。


「承知しました」


訓練場。


スピーカーから三郎の声が響く。


「炎城」


炎城。


「はい」


「第一制限を解除しろ」


炎城は仮面の側面に触れた。


カチリ。


小さな音。


呼吸が少し軽くなる。


火が指先から手のひらへ広がる。


周囲の温度が上がる。


「対象を出せ」


床が開く。


訓練用の標的が現れる。


耐火装甲。


防御能力付きの疑似企業戦士。


特殊金属製の壁。


水冷式の装甲車両。


通常の企業戦士なら、一つ壊すだけでも時間がかかる。


炎城はそれらを見て、肩を回した。


「壊していいんですよね」


三郎。


「全て破壊しろ」


炎城。


「了解」


炎が走る。


まず一体目。


耐火装甲。


炎城の拳が触れた瞬間、装甲が赤くなる。


赤から白へ。


白から透明に近い光へ。


次の瞬間。


溶けた。


二体目。


防御能力を展開する疑似企業戦士。


炎の壁を張って防ごうとする。


炎城は笑う。


「火で俺を止めるな」


片手を振る。


相手の炎が飲み込まれる。


防御ごと焼き切られる。


三体目。


特殊金属の壁。


炎城は真正面から拳を打ち込む。


ドォォォォォン!!


壁がへこむ。


次の瞬間。


へこんだ部分から溶解が広がり、壁全体が崩れ落ちた。


装甲車両。


水冷式。


大量の水が噴き出す。


炎を抑え込もうとする。


炎城は一歩踏み込む。


「足りねぇよ」


炎が膨れ上がる。


水は蒸発した。


白い蒸気が訓練場を覆う。


警報が鳴る。


酸素濃度、変動。


温度、危険域。


床材、融解開始。


観覧室の職員が慌てる。


「社長!」


「第一制限でこれです!」


三郎は動かない。


「第二制限」


安間が三郎を見る。


「本気ですか」


三郎。


「ここで測れなければ、実戦では使えない」


安間。


「承知しました」


訓練場。


炎城は仮面の反対側に触れる。


カチリ。


第二制限解除。


呼吸がさらに軽くなる。


同時に。


炎の色が変わった。


赤ではない。


橙でもない。


白。


中心部は青白く輝いている。


炎城の周囲の空気が歪む。


スピーカーから三郎の声。


「次の対象だ」


訓練場の奥。


巨大な防御壁がせり上がる。


厚さ二メートル。


特殊合金。


耐熱加工。


能力遮断膜。


帝央技術部が作った、対企業戦士用の防壁。


技術者が観覧室でつぶやく。


「あれは壊せません」


「現存する火力では、表面を焼くのが限界です」


炎城は防壁を見上げる。


「へぇ」


仮面の奥で笑う。


「帝央って、いい会社ですね」


一歩。


踏み込む。


炎が拳に集まる。


広げない。


散らさない。


一点へ。


凝縮。


訓練場の照明が揺れる。


職員が叫ぶ。


「熱量、計測不能!」


「防壁内部温度、上昇!」


「まずい、溶解します!」


炎城。


「燃えろ」


拳。


防壁へ叩き込む。


音はなかった。


衝撃も遅れて来た。


一瞬。


防壁の中心に、白い穴が空く。


次の瞬間。


巨大な防壁が内側から崩れた。


溶けたのではない。


焼き抜かれた。


観覧室。


職員たちは言葉を失う。


三郎だけが静かに頷いた。


「最高火力」


「名乗るだけのことはある」


だが。


訓練場では異常が起きていた。


床が赤くなっている。


壁の耐熱材が剥がれている。


消火装置が作動しない。


炎城の火が、空間そのものを熱していた。


炎城は仮面に触れる。


「第三制限も試しますか」


安間が一歩前へ出る。


「不要です」


炎城。


「まだ出せますよ」


安間。


「だからです」


炎城の足元から炎が広がる。


訓練場の端へ向かう。


安間が手を上げた。


空間が区切られる。


炎の進行が止まる。


透明な壁にぶつかったように、火が押し返された。


炎城は安間を見る。


「へぇ」


「本当に止めた」


安間。


「止めてはいません」


「帝央の外へ出さないだけです」


炎城。


「同じだろ」


安間。


「違います」


「あなたの火は、私の領域内でまだ燃えています」


安間の額に汗が浮かぶ。


炎は消えていない。


閉じ込められている。


閉じ込められた火は、逃げ場を失い、さらに熱を増す。


安間の防衛領域が軋む。


観覧室の職員が叫ぶ。


「安間さんの領域、負荷上昇!」


「限界値に近づいています!」


炎城は安間を見た。


黒い仮面の奥。


目が笑っている。


「やっぱり面白いですね」


「俺の火を閉じ込める奴がいるとは」


安間。


「私としては、あまり面白くありません」


炎城。


「どれくらい保ちます?」


安間。


「あなたがやめるまで」


炎城。


「俺がやめなかったら?」


安間。


「帝央が燃えます」


炎城。


「正直ですね」


炎城は手を下ろした。


炎が小さくなる。


白から赤へ。


赤から火花へ。


やがて消える。


安間の領域も解除される。


訓練場に、熱だけが残った。


炎城は仮面を外さないまま、安間へ歩み寄る。


「安間司」


安間。


「はい」


炎城。


「俺の火を止めた奴は、あんたが初めてだ」


安間。


「止めていません」


炎城。


「しつこいですね」


安間。


「事実です」


炎城は笑った。


「なら、こう言います」


「俺の火から帝央を守った奴は、あんたが初めてだ」


安間は少しだけ黙る。


「それなら、受け取ります」


炎城。


「いつか本気で燃やしていい戦場があったら」


「その時は、頼みますよ」


安間。


「何をですか」


炎城。


「俺以外を守ることです」


安間。


「あなたは?」


炎城は仮面に触れる。


「俺は燃える側なので」


安間は表情を変えない。


「では、燃え尽きないようにしてください」


炎城。


「それは保証できませんね」


その日の夜。


帝央本社。


社長室。


三郎は報告書を読んでいた。


炎城レオ。


第一制限解除。


標的全壊。


第二制限解除。


特殊防壁破壊。


第三制限。


未測定。


安間司の防衛領域により、施設外への被害なし。


三郎は報告書の最後に一文を書き加える。


『帝央最高火力として認定』


炎城。


「最高火力ですか」


三郎。


「不満か」


炎城。


「いえ」


「分かりやすくていい」


三郎。


「ただし、最高火力は最強ではない」


炎城。


「分かってますよ」


三郎。


「分かっていない顔だ」


炎城は笑う。


「最高火力って響きが気に入っただけです」


三郎。


「その火は、簡単には使わせない」


炎城。


「でしょうね」


三郎。


「燃やせるから燃やすのは二流だ」


「燃やすべき時まで、燃やさずにいる」


「それが帝央の火だ」


炎城は仮面を持ち上げる。


黒い枷。


火力を抑える道具。


帝央を燃やさないための装置。


そして。


全力を出せる日まで、火を残しておくための器。


炎城。


「社長」


三郎。


「何だ」


炎城。


「全焼許可ってのは、出る日があるんですか」


三郎は少しだけ笑った。


「ある」


炎城の目が細くなる。


三郎。


「その時まで、燃え残れ」


炎城。


「了解」


数日後。


帝央の社内では、噂が広がっていた。


地下訓練施設の防壁を焼き抜いた男。


安間司の防衛領域に閉じ込められてなお、消えなかった炎。


帝央に入った危険物。


帝央が手にした最大火力。


誰かが言った。


「炎城レオは、帝央の業火だ」


別の誰かが言った。


「いや」


「最高火力だ」


炎城はその噂を聞き、仮面の奥で笑った。


悪くない。


だが、まだ足りない。


燃やしていい戦場。


全力を許される命令。


その日を待ちながら。


帝央最高火力は。


仮面の奥で、静かに燃え続けた。


第4話 全焼許可。

お読みいただきありがとうございます。

炎城レオは、帝央の中でもかなり派手な能力を持つ人物です。

ただ、会社を守る戦いでは、強すぎる火力は時に扱いづらい武器でもあります。

今回はその始まりとして、炎城が時任三郎と出会い、帝央へ入るまでを書きました。

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