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企業戦士戦線(コーポレート・ウォーフェア)  作者: 凡夫 成


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企業戦士 外伝 業火 ―炎城レオ― 第2話 仮面

今回は帝央最高火力、炎城レオの物語。

本編では「最高火力」と言われながら、なかなか全力を出せない炎城ですが、彼が弱いわけではありません。

企業戦争では、燃やしてはいけないものが多すぎる。

ならば、もし燃やしていい戦場だったらどうなるのか。

燃えすぎる男が、帝央という場所で自分の火の使い方を知っていく物語です。


帝央本社。


炎城レオは、初めてそのビルを見上げた。


高い。


ただ高いだけではない。


圧がある。


まるで街そのものを見下ろしているような建物だった。


受付を通り、エレベーターに乗る。


案内役の社員は、炎城から少し距離を取っていた。


無理もない。


昨日まで焼け跡にいた男だ。


帝央の社員から見ても、炎城レオは危険物だった。


最上階。


社長室。


時任三郎が待っていた。


「来たか」


「来ましたよ」


炎城はポケットに手を入れたまま答える。


三郎は机の上に一枚の資料を置いた。


「初仕事だ」


炎城は笑う。


「早いですね」


「帝央は待たない」


資料には、帝央系列の物流倉庫の写真があった。


「敵対企業の企業戦士が倉庫を占拠している」


「人質は?」


「いない」


「なら簡単だ」


炎城の指先に火が灯る。


三郎は静かに言った。


「ただし、倉庫内の商品は燃やすな」


火が消える。


「……はい?」


「商品、設備、契約書類、搬出経路。全て守れ」


炎城は笑った。


「俺を呼んだ意味あります?」


三郎。


「ある」


「敵だけを燃やせ」


炎城。


「無茶言いますね」


三郎。


「帝央では、それを仕事と呼ぶ」


その時。


社長室の扉が開いた。


一人の男が入ってくる。


黒いスーツ。


細い目。


落ち着いた声。


「保安部、安間司です」


炎城。


「あんたも行くのか」


安間。


「あなたが帝央を燃やさないように」


炎城は鼻で笑う。


「お目付け役か」


安間。


「防壁です」


炎城。


「俺の火を止められるのか?」


安間は表情を変えない。


「止めるのではありません」


「外へ出さないだけです」


炎城は少しだけ目を細めた。


「面白いですね」


三郎。


「行け」


「結果を持ち帰れ」


倉庫街。


夜。


帝央系列の大型倉庫は、敵企業戦士たちに占拠されていた。


敵は五人。


能力者ばかり。


一人は鉄板を盾にする。


一人は床を油で満たす。


一人は煙を操る。


一人は火災報知器を狂わせる。


最後の一人は、倉庫内の商品を人質のように積み上げていた。


敵のリーダーが笑う。


「帝央も焦ったな」


「火の能力者を連れてくるとは」


「ここで暴れれば、倉庫ごと終わりだぞ」


炎城は首を鳴らす。


「分かってる」


安間が一歩前に出る。


「炎城さん」


「忘れないでください」


「守る対象は、敵以外の全てです」


炎城。


「細かいな」


安間。


「細かいから守れるのです」


戦闘開始。


鉄板が飛ぶ。


炎城は拳を振るう。


炎が走る。


鉄板が赤く溶けた。


敵が驚く。


「なんだその火力!」


炎城は踏み込む。


床の油に火が移る。


一瞬で炎が広がる。


安間が手を上げる。


空間が歪む。


炎は壁の手前で止まった。


安間。


「広げすぎです」


炎城。


「止めたんだろ」


「問題ない」


煙が広がる。


炎城は炎で吹き飛ばす。


だが、その熱風で棚が揺れた。


商品が落ちる。


段ボールが焦げる。


書類ケースが燃えかける。


安間が領域を張る。


炎を外へ逃がさない。


商品へ届く前に止める。


だが。


その分、安間の額に汗が浮かぶ。


炎城は敵を見た。


敵だけを燃やす。


そのつもりだった。


だが、火は広がる。


炎は勝手に道を作る。


火力を上げれば上げるほど。


敵以外のものまで巻き込もうとする。


「チッ」


炎城は舌打ちした。


敵の一人が笑う。


「どうした!」


「帝央の火はその程度か!」


炎城の目が鋭くなる。


「安間」


「はい」


「少しだけ外す」


安間。


「許可できません」


炎城。


「一瞬だ」


安間。


「一瞬でも燃えます」


炎城。


「なら、全部守れ」


安間は炎城を見る。


炎城は笑っていた。


危険な笑み。


だが、逃げる笑みではなかった。


安間は小さく息を吐く。


「三秒だけです」


炎城。


「十分」


炎城の炎が膨れ上がる。


倉庫内の温度が一気に上がる。


敵が後ずさる。


「お、おい……」


炎城の拳に火が集まる。


広げない。


散らさない。


一点に集める。


赤ではない。


白に近い炎。


一閃。


炎の線が走った。


敵の足元だけが焼き切られる。


床が溶ける。


敵五人が体勢を崩す。


その瞬間。


炎城が踏み込む。


拳。


一撃。


二撃。


三撃。


敵企業戦士たちが次々に倒れる。


最後の敵が叫ぶ。


「化け物が!」


炎城。


「よく言われる」


最後の一発。


敵リーダーが吹き飛ぶ。


戦闘終了。


帝央勝利。


だが。


倉庫の一角は黒く焦げていた。


商品も一部が焼損。


床も溶けた。


書類ケースも半分が灰になっていた。


安間が損害を確認する。


「戦闘には勝ちました」


「ですが、損害が出ています」


炎城は何も言わない。


翌日。


帝央本社。


社長室。


三郎は報告書を読んでいた。


「敵企業戦士五名を撃破」


「倉庫の占拠は解除」


「契約は維持」


炎城。


「なら勝ちでしょう」


三郎はページをめくる。


「商品損害」


「設備損害」


「書類焼失」


「復旧費用」


一拍。


「戦闘は勝利」


「商談としては敗北だ」


炎城の表情が変わる。


「敵は倒しました」


三郎。


「帝央は敵を倒すためだけに戦っているのではない」


「利益を守る」


「信用を守る」


「社員を守る」


「商品を守る」


「その上で敵を倒す」


炎城。


「俺に弱くなれってことですか」


三郎。


「違う」


「必要な分だけ強くなれ」


炎城は黙る。


三郎は机の引き出しから、黒い仮面を取り出した。


「これを使え」


炎城。


「……仮面?」


三郎。


「耐熱素材と制御機構を組み込んである」


「呼吸」


「視界」


「熱の放出」


「全てを制限する」


炎城。


「つまり、枷ですね」


三郎。


「ああ」


炎城。


「俺に首輪をつける気ですか」


三郎。


「火に形を与える」


炎城は仮面を手に取った。


黒い。


重い。


内側には、帝央の技術部が作った制御装置が組み込まれている。


炎城。


「格好悪いですね」


安間が横から言う。


「かなり目立つと思います」


炎城。


「褒めてないだろ」


安間。


「はい」


炎城は仮面を見つめる。


これをつければ、火力は落ちる。


呼吸も制限される。


視界も狭くなる。


全力は出せない。


だが。


燃やしてはいけないものを、燃やさずに済む。


炎城は仮面を顔に当てた。


留め具が閉まる。


視界が狭くなる。


呼吸が重くなる。


指先に火を灯す。


炎は小さい。


だが。


揺れない。


まっすぐだった。


三郎。


「どうだ」


炎城。


「息苦しい」


三郎。


「それが仕事だ」


数日後。


再び任務。


小規模な襲撃。


場所は帝央の取引先ビル。


燃やせないものばかり。


書類。


人。


設備。


信用。


以前の炎城なら、火力で押し切っていた。


だが。


仮面の中。


炎城は呼吸を整える。


敵が突っ込む。


炎城は指先から細い火を伸ばす。


広げない。


焼き尽くさない。


必要な場所だけを焼く。


敵の武器。


敵の足元。


敵の退路。


炎は線になり、壁になり、檻になった。


敵は誰一人、逃げられない。


そして。


周囲の設備は。


何一つ燃えていなかった。


戦闘終了。


安間が確認する。


「損害なし」


炎城は仮面の下で笑った。


「息苦しい戦いだ」


安間。


「ですが、勝ちました」


炎城。


「派手じゃない」


安間。


「帝央らしい勝利です」


炎城は仮面に触れる。


全力ではない。


だが、弱くなったわけではない。


火は広がるだけではない。


道を塞ぐこともできる。


出口を奪うこともできる。


仲間を守る壁にもなる。


炎城は初めて知った。


火力を抑えることは、敗北ではない。


火に形を与えること。


それもまた、強さだった。


その日から。


炎城レオは仮面をつけた。


格好つけではない。


弱さを隠すためでもない。


帝央最高火力が。


帝央を燃やさないための枷。


そして。


いつか全てを燃やしていい戦場で。


本当の業火を解き放つための鍵。


帝央の火は。


仮面の奥で静かに燃え始めた。


第3話 最高火力。

お読みいただきありがとうございます。

炎城レオは、帝央の中でもかなり派手な能力を持つ人物です。

ただ、会社を守る戦いでは、強すぎる火力は時に扱いづらい武器でもあります。

今回はその始まりとして、炎城が時任三郎と出会い、帝央へ入るまでを書きました。

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