企業戦士 外伝 拳 ―岡田― 第7話 時任明
いつも『企業戦士』をお読みいただき、ありがとうございます。
今回から新たな外伝、「拳 ―岡田―」をお届けします。
本編では豪快で頼れる営業部長として描かれている岡田ですが、その拳が何のために振るわれるようになったのか、そして東都建材(後の東都建設)に入社するまでの物語を描きます。
鬼の血を引く一人の男が、最強の武官として会社を背負うまでの軌跡。
本編では語られなかった岡田の過去を、ぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです。
いつも『企業戦士』をお読みいただき、ありがとうございます。
今回から新たな外伝、「拳 ―岡田―」をお届けします。
本編では豪快で頼れる営業部長として描かれている岡田ですが、その拳が何のために振るわれるようになったのか、そして東都建材(後の東都建設)に入社するまでの物語を描きます。
鬼の血を引く一人の男が、最強の武官として会社を背負うまでの軌跡。
本編では語られなかった岡田の過去を、ぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです。
春。
東都建材。
入社式。
真新しいスーツを着た新入社員たちが、会議室に並んでいた。
緊張。
期待。
不安。
その中で。
一人の青年だけが、何度も入口へ視線を向けていた。
時任明。
東都建材の会社案内を握りしめている。
ページの間には。
古い新聞記事。
『東都建材、四社連合を撃破』
写真の中央。
拳を握る岡田。
明は学生時代から。
その記事を何度も読んでいた。
壇上。
鷹名が新入社員たちを見渡す。
「入社おめでとう。」
「今日から君たちは。」
「東都建材の社員だ。」
「会社は、一人では成り立たない。」
「自分の仕事だけを見るな。」
「隣にいる者を見ろ。」
「その者の後ろにいる家族を見ろ。」
「取引先を見ろ。」
「社会を見ろ。」
「その全てを背負う覚悟を持った者を。」
一拍。
「企業戦士と呼ぶ。」
明の目が輝く。
その時。
会議室の後方。
扉が開いた。
巨大な男が入ってくる。
岡田。
腕を組み。
新入社員たちを見渡す。
それだけで。
会議室の空気が重くなる。
「営業部長の岡田だ。」
「俺から言うことは一つ。」
新入社員たちが息をのむ。
岡田。
「会社を辞めたくなったら。」
「勝手に消えるな。」
「俺に言え。」
「話はそれからだ。」
短い挨拶。
岡田は背を向ける。
その瞬間。
明が手を挙げた。
「質問いいですか!」
岡田。
振り返る。
「何だ。」
明。
立ち上がる。
「岡田部長に憧れて、この会社に入りました!」
会議室。
静まり返る。
同期たちが明を見る。
岡田。
眉をひそめる。
「俺に?」
「はい!」
「四社連合との戦いの記事を読みました!」
「一人で十二人を倒して!」
「東都建材を守った!」
「俺も岡田部長みたいな企業戦士になりたいです!」
岡田。
「やめとけ。」
明。
「え?」
岡田。
「俺みたいになったら。」
「書類が読めなくなる。」
新入社員たちから笑いが起きる。
岡田。
「それとな。」
「記事は間違ってる。」
明。
「どこがですか。」
「一人で勝ったんじゃねぇ。」
「社長と。」
「社員全員で勝った。」
明。
黙る。
岡田。
「憧れるなら。」
「写真だけ見て憧れるな。」
「その後ろにいる奴らまで見ろ。」
明。
深く頭を下げる。
「はい!」
岡田は背を向けた。
だが。
その口元は。
わずかに緩んでいた。
入社から一か月。
明は営業部へ配属された。
教育担当。
岡田。
明。
「よろしくお願いします!」
岡田。
「声がでけぇ。」
「すみません!」
「謝る声もでけぇ。」
明は毎朝。
誰よりも早く出社した。
机を拭き。
資料を並べ。
先輩たちの仕事を手伝う。
だが。
仕事は遅かった。
見積書。
計算間違い。
契約書。
誤字。
電話対応。
噛む。
岡田。
「時任。」
「はい!」
「この見積書。」
「数字が一桁違う。」
明。
「すみません!」
「声じゃなく数字を直せ。」
「はい!」
明は何度失敗しても。
次の日には。
また誰よりも早く来た。
先輩社員。
「時任。」
「そんなに早く来なくてもいいぞ。」
明。
「でも。」
「岡田部長は、もっと早く来ています。」
先輩社員。
「部長は机で寝てるだけだ。」
明。
「え?」
奥の部長席。
腕を組み。
椅子に座ったまま眠る岡田。
明。
「修行ですか。」
先輩社員。
「寝不足だ。」
ある日。
資材倉庫。
東都建材が確保した鋼材を狙い。
競合企業の企業戦士が現れた。
能力。
《加速納品》
触れた物体を。
通常の数倍の速度で動かす。
鋼材。
資材。
台車。
倉庫中の物が、凶器となって飛び交う。
営業社員たちが逃げる。
明も物陰へ身を隠した。
岡田。
一人。
前へ出る。
「新人は下がってろ。」
敵企業戦士。
「東都の鬼か。」
「お前を倒せば、この案件はうちのものだ!」
鉄骨が加速する。
岡田。
拳で叩き落とす。
二本。
三本。
四本。
しかし。
背後。
巨大な資材棚が倒れる。
その下には。
逃げ遅れた営業社員。
明。
「危ない!」
明が飛び出す。
岡田。
「時任!」
資材棚が落ちる。
その瞬間。
明の視界から。
音が消えた。
世界が。
遅くなる。
落下する棚。
飛び散るボルト。
怯える社員の顔。
全てが。
止まっているように見えた。
明。
「……何だ、これ。」
考える時間がある。
一秒が。
何十秒にも感じられる。
明は社員へ走る。
肩をつかみ。
棚の下から押し出した。
次の瞬間。
時間が戻る。
轟音。
資材棚が床へ激突した。
明も巻き込まれる。
だが。
寸前。
岡田が明の襟首をつかみ。
後方へ投げた。
岡田。
「馬鹿野郎!」
明。
「す、すみません!」
岡田。
「謝るのは後だ!」
敵企業戦士が次の鋼材を加速させる。
岡田。
正面から受け止める。
両足が床へ沈む。
敵。
「力だけで、いつまで耐えられる!」
岡田。
笑う。
「もう終わりだ。」
敵。
「何?」
岡田の後方。
明が救い出した営業社員。
その手には。
倉庫の緊急停止装置。
社員がボタンを押す。
固定装置。
作動。
倉庫内の資材が一斉に固定される。
敵の能力。
無力化。
岡田。
「時任が助けた社員が。」
「お前の逃げ道を潰した。」
敵。
「しまっ……!」
岡田。
踏み込む。
鬼の拳。
一撃。
ドォォォォォン!!
敵企業戦士。
撃破。
戦いの後。
岡田は明の頭を殴った。
ゴンッ!
明。
「痛っ!」
岡田。
「新人が勝手に前へ出るな。」
明。
「でも。」
「あの人が潰されると思って……。」
岡田。
「助けたことは間違ってねぇ。」
「死に方が間違ってる。」
明。
「死に方……。」
岡田。
「自分が死んだら。」
「次に助けられる奴を助けられねぇ。」
「守るなら。」
「生きて帰れ。」
明。
拳を握る。
「はい。」
岡田。
「それと。」
「さっきの動きは何だ。」
明。
「分かりません。」
「急に。」
「周りが遅く見えて。」
岡田。
明を見る。
明。
「俺。」
「岡田部長みたいな力はありません。」
岡田。
「当たり前だ。」
「俺になる必要はねぇ。」
「お前には。」
「お前の戦い方がある。」
明。
「俺の戦い方……。」
岡田。
「見つけろ。」
「その力を。」
「誰かを守るために使えるようになれ。」
夕方。
社長室。
鷹名は戦闘記録を見ていた。
映像。
落下する資材棚。
飛び出す明。
一瞬だけ。
映像の中の明が消える。
そして。
離れた場所へ現れる。
岡田。
「どう見ます。」
鷹名。
「速くなったのではない。」
「彼を基準に。」
「周囲の時間が遅くなった。」
岡田。
「時間を操る能力ですか。」
鷹名。
「まだ本人も理解していない。」
「だが。」
「彼は強くなる。」
岡田。
「でしょうね。」
鷹名。
「嬉しそうだな。」
岡田。
「別に。」
鷹名。
「君に憧れて入った青年だ。」
「少しは面倒を見てやれ。」
岡田。
「憧れなんか。」
「すぐに消えますよ。」
鷹名。
「それでも。」
「背中を見せる者は必要だ。」
窓の外。
明が一人。
倉庫の前で走り込みをしている。
転ぶ。
立つ。
また走る。
岡田。
その姿を見下ろす。
「追いつけるもんなら。」
小さく笑う。
「追いついてみろ。」
鬼の拳を追う青年。
時任明。
東都建材の未来は。
静かに。
動き始めていた。
第8話 鬼の背中。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
中田翔子編が「文官」の物語なら、岡田編は「武官」の物語です。
拳しか信じなかった男が、鷹名との出会いを通して「仲間を守る強さ」を知っていきます。
また、この外伝では若き日の東都建材や、本編へと続く岡田の成長、そして時任明との出会いまでを描いていく予定です。
本編では見せなかった岡田の人間らしい一面も少しずつ描いていきますので、温かく見守っていただければ幸いです。




