企業戦士 外伝 拳 ―岡田― 第6話 鬼部長
いつも『企業戦士』をお読みいただき、ありがとうございます。
今回から新たな外伝、「拳 ―岡田―」をお届けします。
本編では豪快で頼れる営業部長として描かれている岡田ですが、その拳が何のために振るわれるようになったのか、そして東都建材(後の東都建設)に入社するまでの物語を描きます。
鬼の血を引く一人の男が、最強の武官として会社を背負うまでの軌跡。
本編では語られなかった岡田の過去を、ぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです。
東都建材。
朝礼。
営業部の社員たちが、落ち着かない様子で並んでいた。
前方には鷹名。
その隣に岡田。
鷹名は一枚の辞令を開く。
「本日付で人事異動を行う。」
社員たちが息をのむ。
「営業部長。」
「岡田。」
静寂。
数秒後。
営業部がざわめいた。
「岡田さんが部長?」
「営業できるのか?」
「聞こえてんぞ。」
岡田が睨む。
全員が一斉に口を閉じた。
岡田。
「社長。」
「俺は営業のことなんか分かりませんよ。」
鷹名。
「知っている。」
「書類も苦手だ。」
「知っている。」
「部下への言葉も荒い。」
「よく知っている。」
岡田。
「なら、なんで俺なんですか。」
鷹名は営業部を見渡す。
「会社が大きくなれば。」
「前線に立つだけでは守れないものが増える。」
「岡田。」
「今度は人を率いろ。」
岡田。
「俺にできると思いますか。」
鷹名。
「できるかどうかではない。」
「やれ。」
岡田は頭をかいた。
「社長も大概、無茶苦茶だな。」
その日から。
岡田は営業部長になった。
だが。
部長席に座って三十分。
机の上には書類の山。
契約書。
稟議書。
出張申請。
経費精算。
岡田は額に青筋を浮かべていた。
「敵より多いじゃねぇか。」
事務員。
「今日中にお願いします。」
「全部か?」
「全部です。」
岡田。
「殴って減らせねぇか。」
「増えます。」
岡田は深く息を吐いた。
その時。
若手社員が駆け込んでくる。
「部長!」
「北城商事の納品数を間違えました!」
岡田。
「何個だ。」
「百個のところを。」
「十個で発注しました。」
岡田の拳が机へ落ちる。
ドンッ!!
机にひびが入る。
若手社員の顔が青ざめた。
「す、すみません!」
岡田。
「謝れば資材が増えんのか。」
「増えません……。」
「なら走れ。」
「仕入先全部に電話しろ。」
「一社で足りなきゃ十社回れ。」
「今日中に百個集めろ。」
若手社員。
「はい!」
岡田。
「俺も行く。」
若手社員が顔を上げる。
「部長も?」
岡田。
「お前一人じゃ間に合わねぇ。」
「だが。」
岡田は若手社員の胸倉をつかむ。
「次に同じ失敗したら。」
「俺が殴る前に自分で辞表を書け。」
「はい!」
二人は会社を飛び出した。
仕入先。
倉庫。
工場。
岡田は頭を下げた。
「貸してくれ。」
断られる。
「無理です。」
もう一度頭を下げる。
「頼む。」
岡田が頭を下げる姿を。
若手社員は初めて見た。
地下格闘技王者。
東都建材最強の企業戦士。
誰にも屈しない鬼。
その男が。
部下の失敗を取り戻すために頭を下げていた。
夜。
ようやく百個が揃った。
納品車が北城商事へ向かう。
若手社員。
「部長。」
「俺、辞めた方がいいですか。」
岡田。
「辞めたいのか。」
「違います。」
「でも、会社に迷惑を……。」
岡田は若手社員の頭を拳で軽く小突いた。
「迷惑かけねぇ社員なんかいねぇ。」
「俺だって何度も社長に尻拭いさせてる。」
若手社員。
「でも……。」
岡田。
「失敗したなら覚えろ。」
「次は後輩を助けろ。」
「それで返せ。」
若手社員は唇をかみ。
深く頭を下げた。
「はい!」
翌日。
営業部。
岡田が扉を開ける。
「朝礼始めるぞ。」
社員たちが一斉に立つ。
岡田。
「昨日。」
「発注ミスがあった。」
若手社員が俯く。
「責任は。」
一拍。
「部長の俺にある。」
若手社員が顔を上げる。
岡田。
「確認できない仕組みを放置した。」
「今日から発注は二人で確認する。」
「失敗した奴を責める暇があるなら。」
「次に失敗しねぇ方法を考えろ。」
営業部。
静まり返る。
社員の一人が小さく呟く。
「怖いけど。」
別の社員が続ける。
「最後は守ってくれるんだな。」
その声は。
少しずつ営業部へ広がっていった。
厳しい。
声がでかい。
机を壊す。
容赦なく叱る。
だが。
部下の失敗は自分の責任として引き受ける。
敵が来れば。
誰よりも前に立つ。
いつしか。
社員たちは岡田をこう呼ぶようになった。
鬼部長。
その呼び名を聞いた岡田は。
眉をひそめた。
「部長だけでいいだろ。」
社員。
「似合ってますよ。」
岡田。
「仕事増やすぞ。」
「すみません!」
笑い声が上がる。
社長室。
鷹名は営業部の様子を窓越しに見ていた。
岡田。
「社長。」
「人を率いるって。」
「殴り合いより疲れますね。」
鷹名。
「そうだろう。」
「敵は倒せば終わる。」
「部下は育てなければならない。」
岡田。
「俺が人を育てるんですか。」
鷹名。
「ああ。」
「君の背中を見ている者がいる。」
「まだ会ってはいないが。」
「やがて。」
「君に憧れて、この会社へ来る者も現れる。」
岡田。
「物好きですね。」
鷹名。
「君がそうだったようにな。」
岡田は鼻で笑う。
「俺は社長に憧れたわけじゃない。」
鷹名。
「そういうことにしておこう。」
その頃。
東都建材の採用担当者は。
一人の学生と面談していた。
名前。
時任明。
学生は東都建材について調べた資料を握りしめていた。
その中には。
一枚の記事が挟まれている。
『東都建材、四社連合を撃破』
写真の中央。
拳を握る岡田。
時任明は。
その姿を見つめていた。
「この人が。」
「東都建材最強……。」
鬼の背中を追う若者は。
もうすぐ。
東都建材の門を叩く。
第7話 時任明。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
中田翔子編が「文官」の物語なら、岡田編は「武官」の物語です。
拳しか信じなかった男が、鷹名との出会いを通して「仲間を守る強さ」を知っていきます。
また、この外伝では若き日の東都建材や、本編へと続く岡田の成長、そして時任明との出会いまでを描いていく予定です。
本編では見せなかった岡田の人間らしい一面も少しずつ描いていきますので、温かく見守っていただければ幸いです。




