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企業戦士戦線(コーポレート・ウォーフェア)  作者: 凡夫 成


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企業戦士 外伝 拳 ―岡田― 第5話 会社の夢

いつも『企業戦士』をお読みいただき、ありがとうございます。

今回から新たな外伝、「拳 ―岡田―」をお届けします。

本編では豪快で頼れる営業部長として描かれている岡田ですが、その拳が何のために振るわれるようになったのか、そして東都建材(後の東都建設)に入社するまでの物語を描きます。

鬼の血を引く一人の男が、最強の武官として会社を背負うまでの軌跡。

本編では語られなかった岡田の過去を、ぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです。


四社連合との戦いから数か月。


東都建材。


会社は大きく変わり始めていた。


契約件数。


過去最高。


売上。


過去最高。


取引先も増え、営業部には毎日のように新しい案件が舞い込んでいた。


電話が鳴る。


社員が走る。


書類が積み上がる。


以前なら考えられなかった忙しさだった。


営業社員が岡田へ声を掛ける。


「岡田さん!」


「また大型契約が決まりました!」


岡田。


「そうか。」


「よくやった。」


社員は一瞬、動きを止めた。


「……岡田さんが褒めた。」


「珍しいですね。」


岡田。


「うるせぇ。」


笑い声が上がる。


かつての岡田なら。


勝利は自分一人のものだった。


地下格闘技では。


相手を倒し。


賞金を受け取れば終わり。


だが。


会社は違う。


営業が契約を取る。


資材部が商品を用意する。


経理が金を動かす。


現場が納品する。


一人が欠ければ。


会社は勝てない。


岡田はようやく。


鷹名が言っていた意味を理解し始めていた。


夕方。


鷹名が営業部へ現れる。


「岡田。」


「少し付き合え。」


岡田。


「戦いですか。」


鷹名。


「違う。」


「今日は未来の話だ。」


二人は本社の屋上へ上がった。


東京。


夕焼け。


無数のビル。


遠くでは。


巨大なクレーンが高層ビルを組み上げていた。


鷹名。


「あれをどう思う。」


岡田。


「でけぇな。」


鷹名。


「東都建材は何を売る会社だ。」


岡田。


「建材です。」


「鉄。」


「セメント。」


「木材。」


「建物を造るための材料全部。」


鷹名。


「ああ。」


「私たちは材料を届ける。」


「だが。」


鷹名は遠くの建設現場を見る。


「街を造っているのは、別の会社だ。」


岡田。


「帝央みたいな大手ですか。」


鷹名。


「そうだ。」


「私たちは、彼らへ材料を渡す。」


「完成した建物には。」


「東都の名前は残らない。」


岡田。


「金になればいいんじゃないですか。」


鷹名。


「今はな。」


鷹名は静かに続ける。


「だが、私は材料だけで終わるつもりはない。」


「いつか。」


「東都自身の手で街を造る。」


岡田。


鷹名を見る。


「建材屋が?」


鷹名。


「建設会社になる。」


沈黙。


風が吹く。


岡田。


「無茶じゃないですか。」


「人も。」


「金も。」


「技術も足りない。」


鷹名。


「その通りだ。」


「だから今から集める。」


「十年かかるかもしれない。」


「二十年かかるかもしれない。」


「私が社長でいる間には、届かないかもしれない。」


岡田。


「それでもやるんですか。」


鷹名。


「ああ。」


「会社には。」


「今日の利益を守る人間と。」


「明日の利益を作る人間。」


「そして。」


「十年後の夢を信じる人間が必要だ。」


岡田は遠くの建設現場を見つめる。


地下格闘技では。


十年後など考えなかった。


次の試合。


次の賞金。


明日の飯。


それだけだった。


会社は違う。


自分がいなくなった後の未来まで。


誰かが考えている。


岡田。


「社長。」


「俺に十年後のことは分からねぇ。」


鷹名。


「知っている。」


「君は今だけを見ていればいい。」


「未来は私が考える。」


岡田。


拳を握る。


「だったら。」


「社長が考えた未来まで。」


「俺が道を開きます。」


鷹名。


わずかに笑う。


「頼もしいな。」


岡田。


「その代わり。」


「給料は上げてください。」


鷹名。


「検討する。」


岡田。


「最適解を出してくださいよ。」


鷹名。


「今は据え置きだ。」


岡田。


「ケチだな。」


二人は笑った。


その夜。


岡田は古いアパートへ帰った。


狭い一室。


脱ぎ捨てられた上着。


転がった空き缶。


乱れたままのシーツ。


いつもなら一人で眠るだけの部屋。


だが。


その日は。


甘い花の香りが残っていた。


浴室から水音がする。


やがて。


若い女が出てくる。


長い髪。


細い指。


大学の講義帰りらしい服が、椅子の背へ掛けられている。


女は岡田の顔を見る。


「遅かったじゃん。」


岡田。


「社長に捕まった。」


女。


「また会社の話?」


岡田。


「ああ。」


「建材屋を建設会社にするんだと。」


女は冷蔵庫から勝手に缶ビールを取り出す。


「へぇ。」


「面白そう。」


岡田。


「無茶だろ。」


女。


「植物だって。」


「種から森になるまで時間がかかるよ。」


岡田。


「会社と草を一緒にすんな。」


女。


小さく笑う。


「同じじゃない?」


「育てる人が諦めたら、そこで終わり。」


岡田は何も答えない。


女は缶ビールを一口飲み。


窓辺を見る。


そこには。


岡田が以前、取引先から押し付けられた小さな鉢植え。


まだ一度も花を咲かせていないバラが置かれていた。


女。


「これ、枯らす気?」


岡田。


「水はやってる。」


「たまに。」


女。


「それじゃ足りない。」


女はバラへ指を伸ばす。


葉がわずかに揺れた。


岡田。


「何した。」


女。


「別に。」


女は笑う。


どこか。


人間より植物に近い笑い方だった。


翌朝。


岡田が目を覚ますと。


女の姿はなかった。


乱れたシーツ。


床に落ちた長い髪。


飲みかけの缶ビール。


玄関には。


小さな紙が一枚。


名前はない。


ただ。


短く書かれていた。


『夢を見るなら、途中で負けないで。』


岡田。


紙を見る。


「勝手なこと言いやがって。」


窓辺へ目を向ける。


そして。


動きを止めた。


昨日まで。


一つの蕾もなかったバラ。


それが。


一夜にして。


真っ赤な花を咲かせていた。


一本。


二本。


三本。


鉢から溢れるほど。


狂ったように咲き誇っている。


部屋中。


甘い香り。


岡田はしばらくバラを見つめる。


そして。


鼻で笑った。


「相変わらず。」


「派手な置き土産だ。」


その女の名前は。


まだ語られない。


ただ。


数年後。


東都建材に現れる一人の企業戦士を見た時。


岡田は。


この夜と。


狂い咲いたバラを思い出すことになる。


翌朝。


東都建材。


社長室。


鷹名は一枚の事業計画書を書いていた。


その表紙には。


まだ誰にも見せていない言葉。


『東都建設構想』


夢は。


まだ紙の上にしかない。


だが。


鷹名が未来を描き。


岡田が今を守る。


そして。


名も語られぬ一人の女が。


その未来へ根を伸ばし始めていた。


東都建材は。


まだ小さい。


それでも。


会社の夢は。


確かに芽吹いていた。


第6話 鬼部長。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

中田翔子編が「文官」の物語なら、岡田編は「武官」の物語です。

拳しか信じなかった男が、鷹名との出会いを通して「仲間を守る強さ」を知っていきます。

また、この外伝では若き日の東都建材や、本編へと続く岡田の成長、そして時任明との出会いまでを描いていく予定です。

本編では見せなかった岡田の人間らしい一面も少しずつ描いていきますので、温かく見守っていただければ幸いです。

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