企業戦士 外伝 秘書室 ―中田翔子― 最終話 受け継ぐ者
今回から外伝として、中田翔子編を始めます。
本編ではすでに“象徴”として語られることの多い中田さんですが、彼女がどのように秘書室を作り、東都を支えていたのかを書いていきます。
企業戦士の戦いには、前線で戦う武官だけでなく、情報を読み、人を動かし、会社を守る文官もいる。
そんな裏側の企業戦争を楽しんでいただければ嬉しいです。
東都建設本社。
深夜。
秘書室。
誰もいない室内で、中田翔子は最後の報告書に目を通していた。
机の上。
差出人のない封筒が一つ。
静かに封を開ける。
中には、一枚の書類。
そこに書かれていたのは。
対象 中田翔子
その下には。
実行承認済み
短い文字だけ。
中田はしばらくその書類を見つめる。
やがて小さく微笑んだ。
「……そう。」
「私なのね。」
驚きはなかった。
怒りもない。
文官として白鷹に勝った。
だから次は、自分が消される。
それだけのことだった。
書類を封筒へ戻す。
そして何事もなかったように席を立った。
翌朝。
東都建設。
秘書室。
鳩山。
「室長、おはようございます!」
機島。
「社内ネットワーク、異常ありません。」
吉原。
「今日の役員会資料です。」
南野。
「来客予定をまとめました。」
黒沢。
「株価も安定しています。」
白石。
「各部署への通達も完了しました。」
アヤ。
「今日も忙しくなりそうですね。」
中田は全員を見渡す。
そして穏やかに笑う。
「みんな。」
「ありがとう。」
それだけだった。
昼。
社長室。
鷹名と中田。
二人だけ。
机の上には一枚の辞令。
庶務二課 新設
鷹名が静かに口を開く。
「鳩山を異動させる。」
中田は辞令を見る。
そして微笑む。
「いい人選です。」
「人を信じられる人ですから。」
鷹名。
「お前が育てた。」
中田は首を横に振る。
「違います。」
「会社が育てたんです。」
夕方。
秘書室。
中田は鳩山を呼ぶ。
机の引き出しから一冊のノートを取り出す。
「鳩山君。」
「これを預かって。」
鳩山。
「室長?」
中田。
「正解は書いてないわ。」
「私が失敗したことだけ書いてある。」
「その方が役に立つから。」
鳩山は笑った。
「室長らしいですね。」
中田も笑う。
「そうかしら。」
それが。
二人の最後の会話だった。
翌朝。
東都建設は騒然となる。
新聞。
テレビ。
ネットニュース。
『東都建設社員・中田翔子、死亡』
事故。
そう報じられた。
真実を知る者はいない。
秘書室。
静まり返る部屋。
鳩山は言葉を失う。
機島は拳を握る。
吉原は俯く。
南野は涙を堪える。
黒沢も。
白石も。
アヤも。
誰も動けなかった。
そこへ。
鷹名が入ってくる。
静かに全員を見渡す。
「秘書室は終わらない。」
誰も顔を上げない。
鷹名は続ける。
「機島。」
「はい。」
「防衛課へ異動。」
「会社を守れ。」
「承知しました。」
「鳩山。」
辞令を渡す。
庶務二課 課長
鳩山はゆっくり受け取る。
「会社の外を守れ。」
「中田が守ったものを。」
鳩山は強く頷く。
「……はい。」
「吉原。」
「南野。」
「黒沢。」
「白石。」
「アヤ。」
「秘書室を頼む。」
全員。
「はい。」
数日後。
東京。
高層ビル。
白鷹は新聞を静かに閉じた。
部下が尋ねる。
「これで終わりですか。」
白鷹は窓の外にある東都建設を見つめる。
「終わらない。」
「中田翔子は。」
「文官として私の勝ちを奪った。」
少しだけ笑う。
「見事だった。」
部下。
「次は。」
白鷹の視線の先。
東都建設の一室に、新しい看板が掛けられる。
庶務二課
白鷹は静かに呟いた。
「鳩は飛び立ったか。」
「なら。」
「次は君と戦おう。」
東都建設。
秘書室。
庶務二課。
中田翔子の想いは。
人から人へ。
静かに受け継がれていく。
そして数年後。
鳩山は。
恩師・中田翔子が命を懸けて守った東都建設を背負い、
宿敵・白鷹との最後の決着へ向かう。
企業戦士 外伝 秘書室 ―中田翔子― 完
中田翔子編、開幕です。
今回は秘書室の誕生と、白鷹との出会いまでの流れでした。
本編では名前だけでも重みのある中田さんですが、外伝では彼女の有能さや優しさ、そして東都に残したものを少しずつ描いていく予定です。
鳩山や時任明との関係も、本編につながる形で入れていきたいと思います。
引き続きよろしくお願いいたします。




