企業戦士 外伝 秘書室 ―中田翔子― 第5話 鳩は飛ぶ
今回から外伝として、中田翔子編を始めます。
本編ではすでに“象徴”として語られることの多い中田さんですが、彼女がどのように秘書室を作り、東都を支えていたのかを書いていきます。
企業戦士の戦いには、前線で戦う武官だけでなく、情報を読み、人を動かし、会社を守る文官もいる。
そんな裏側の企業戦争を楽しんでいただければ嬉しいです。
東都建設。
秘書室。
朝。
中田翔子は一枚の封筒を見つめていた。
差出人。
なし。
封を開ける。
中には。
白い紙。
一文だけ。
『鳩は、飛ぶ頃が一番狩りやすい。』
中田。
静かに笑う。
「見ているのね。」
その頃。
鳩山は初めて一人で外回りを任されていた。
取引先。
証券会社。
銀行。
物流会社。
秘書室の仕事は営業とは違う。
契約を取るのではない。
信頼を積み重ねる仕事だった。
銀行を出た時。
一人の男が声を掛ける。
「鳩山さんですよね?」
振り向く。
営業マン風の男。
柔らかい笑顔。
名刺を差し出す。
「東亜コンサルティングの李です。」
鳩山。
名刺交換。
「よろしくお願いします。」
李。
「東都さんとは今後ぜひお付き合いを。」
数分。
世間話。
会社の話。
何気ない会話。
別れ際。
李は笑顔で言った。
「中田室長はお元気ですか?」
鳩山。
一瞬だけ止まる。
「……え?」
李。
「優秀な方だと聞いています。」
鳩山。
「どうして知ってるんです?」
李。
笑顔のまま。
「業界では有名ですよ。」
そう言って去っていく。
その夜。
秘書室。
鳩山。
今日の出来事を話す。
中田。
表情が変わる。
「名刺。」
鳩山。
渡す。
中田。
一目見る。
そして。
引き出しから別の名刺を出す。
並べる。
社員たち。
「同じ……?」
中田。
首を振る。
「違う。」
「紙質が違う。」
「印刷会社も違う。」
「肩書きも存在しない。」
鳩山。
「偽物……?」
中田。
頷く。
「名刺は本物。」
「会社は偽物。」
「つまり。」
「企業スパイ。」
静寂。
鳩山。
「俺……話しちゃいました。」
中田。
優しく笑う。
「いいの。」
「相手はあなたを試しただけ。」
鳩山。
悔しそうに俯く。
「俺は向いてません。」
中田。
少しだけ厳しい表情になる。
「鳩山くん。」
「失敗した人は二種類いる。」
「失敗を隠す人。」
「失敗を持ち帰る人。」
鳩山。
顔を上げる。
「あなたは?」
「ちゃんと持ち帰った。」
「それだけで十分よ。」
その言葉に。
鳩山は少しだけ肩の力が抜けた。
翌日。
向かいのビル。
白鷹。
ソファに座る。
目の前には李。
「どうでした?」
李。
苦笑する。
「中田翔子。」
「やはり厄介です。」
白鷹。
「鳩山は?」
李。
「正直です。」
「隠し事ができない。」
白鷹。
静かに笑う。
「だから育つ。」
李。
「消さないんですか?」
白鷹。
首を横に振る。
「まだ。」
「鳩は高く飛ぶほど価値がある。」
「狩るのは、その時だ。」
李。
笑う。
「相変わらず趣味が悪いですね。」
白鷹。
窓の外を見る。
東都建設本社。
最上階。
秘書室。
その窓際には。
中田翔子が立っていた。
まるで。
こちらを見返すように。
白鷹。
小さく笑う。
「気付いたか。」
中田。
窓越しに東京の街を眺めながら呟く。
「あなたは。」
「人を駒として見る。」
「私は。」
「人を仲間として見る。」
「だから。」
「あなたには負けない。」
企業戦争。
武器は拳だけではない。
情報。
信頼。
そして。
人。
その戦いは。
静かに熱を帯び始めていた。
中田翔子編、開幕です。
今回は秘書室の誕生と、白鷹との出会いまでの流れでした。
本編では名前だけでも重みのある中田さんですが、外伝では彼女の有能さや優しさ、そして東都に残したものを少しずつ描いていく予定です。
鳩山や時任明との関係も、本編につながる形で入れていきたいと思います。
引き続きよろしくお願いいたします。




