企業戦士 外伝 秘書室 ―中田翔子― 第4話 鳩
今回から外伝として、中田翔子編を始めます。
本編ではすでに“象徴”として語られることの多い中田さんですが、彼女がどのように秘書室を作り、東都を支えていたのかを書いていきます。
企業戦士の戦いには、前線で戦う武官だけでなく、情報を読み、人を動かし、会社を守る文官もいる。
そんな裏側の企業戦争を楽しんでいただければ嬉しいです。
東都建設。
秘書室。
白鷹と出会ってから数週間。
大きな事件は起きていなかった。
だからこそ。
中田は気を緩めなかった。
静かな時ほど。
敵は動く。
その日。
鷹名から一本の連絡が入る。
「中田。」
「一人預ける。」
数分後。
秘書室の扉が開く。
若い社員。
まだ二十代前半。
緊張した表情。
「営業一課の鳩山です!」
深々と頭を下げる。
中田。
笑顔で迎える。
「いらっしゃい。」
鳩山。
困惑する。
「営業を辞めるんですか?」
中田。
首を横に振る。
「違うわ。」
「兼務よ。」
「今日から秘書室でも働いてもらう。」
鳩山。
「えぇ!?」
「でも……秘書室って何するんですか?」
中田。
資料を渡す。
「読んで。」
鳩山。
五分後。
頭を抱える。
「難しい……。」
株価。
契約。
情報管理。
役員対応。
企業防諜。
聞いたこともない言葉ばかり。
中田。
笑う。
「安心して。」
「最初はみんなそう。」
鳩山。
「室長は全部分かるんですか?」
中田。
少し考える。
「全部は分からない。」
「だから考えるの。」
「分からないままにしない。」
その言葉は。
鳩山の胸に残った。
数日後。
中田は鳩山を連れ。
営業フロアを歩いていた。
時任明。
営業資料を抱え。
廊下を走る。
鳩山。
「あっ、時任さん。」
時任。
「あれ?鳩山。」
「営業戻ってこいよ。」
鳩山。
苦笑する。
「秘書室に連れていかれました。」
時任。
驚く。
「お前すげぇな。」
鳩山。
「俺もよく分かってない。」
中田。
二人を見る。
時任。
誰よりも真っ直ぐ。
鳩山。
誰よりも人をよく見る。
中田。
心の中で呟く。
「面白い。」
「タイプは違う。」
「でも。」
「二人とも会社を守る人になる。」
その時だった。
一人の社員が走ってくる。
「室長!」
「契約書が一枚ありません!」
営業部。
騒然。
「社外秘だぞ!」
「どこいった!」
鳩山。
青ざめる。
「盗まれた……?」
中田。
即答する。
「違う。」
「まだ社内にある。」
全員。
「え?」
中田。
静かに歩き始める。
社員の机。
コピー機。
会議室。
ゴミ箱。
何も触らない。
ただ。
見るだけ。
そして。
コピー機の横で止まった。
中田。
一枚の紙を持ち上げる。
「これね。」
契約書。
社員たち。
「えぇ!?」
営業部長。
「なんで分かったんですか?」
中田。
微笑む。
「犯人を探してないから。」
「契約書を探しただけ。」
静まり返る。
鳩山だけが。
その意味を考えていた。
その夜。
秘書室。
鳩山。
「室長。」
「俺。」
「企業戦士にはなれません。」
中田。
コーヒーを飲みながら答える。
「なる必要もないわ。」
鳩山。
「え?」
中田。
笑う。
「あなたは戦う人じゃない。」
「守る人。」
「剣じゃない。」
「盾になりなさい。」
鳩山。
黙る。
中田。
続ける。
「会社には武官も必要。」
「でも。」
「文官がいなければ会社は勝てない。」
「あなたは。」
「文官になりなさい。」
その瞬間。
鳩山の中で。
何かが決まった。
その頃。
向かいのビル。
白鷹。
双眼鏡を覗く。
鳩山を見る。
そして。
小さく笑う。
「鳩か。」
「良い名前だ。」
部下。
「消しますか?」
白鷹。
首を横に振る。
「いや。」
「まだ飛べない。」
「飛べるようになってから狩る。」
企業戦争。
白鷹は。
次の獲物を静かに見定めていた。
中田翔子編、開幕です。
今回は秘書室の誕生と、白鷹との出会いまでの流れでした。
本編では名前だけでも重みのある中田さんですが、外伝では彼女の有能さや優しさ、そして東都に残したものを少しずつ描いていく予定です。
鳩山や時任明との関係も、本編につながる形で入れていきたいと思います。
引き続きよろしくお願いいたします。




