企業戦士 外伝 秘書室 ―中田翔子― 第3話 白鷹
中田翔子編、開幕です。
今回は秘書室の誕生と、白鷹との出会いまでの流れでした。
本編では名前だけでも重みのある中田さんですが、外伝では彼女の有能さや優しさ、そして東都に残したものを少しずつ描いていく予定です。
鳩山や時任明との関係も、本編につながる形で入れていきたいと思います。
引き続きよろしくお願いいたします。
東都建設本社。
秘書室。
発足から三か月。
社内では少しずつ存在が知られ始めていた。
「秘書室が動くと何か起きる。」
そんな噂まで流れていた。
しかし。
中田翔子は気にしない。
いつも通り資料を読んでいた。
その時。
一本の封筒が届く。
差出人なし。
宛名。
秘書室室長 中田翔子様
事務員。
「気持ち悪いですね。」
中田。
静かに封を開ける。
中には。
白い紙。
たった一文。
『あなたは優秀だ。』
それだけ。
事務員。
「嫌がらせですか?」
中田。
首を横に振る。
「違う。」
「これは挨拶。」
事務員。
「誰の?」
中田。
少し考える。
「同業者。」
その日の夜。
向かいの高層ビル。
白いスーツの男。
白鷹。
窓から東都本社を見下ろしていた。
部下。
「宣戦布告ですか?」
白鷹。
笑う。
「違う。」
「名刺交換だ。」
部下。
「企業戦士みたいですね。」
白鷹。
「私は文官だからね。」
静かにコーヒーを飲む。
「武官とは戦い方が違う。」
翌日。
東都建設。
営業部。
一本の電話。
「○○建設ですが、先日の契約は白紙でお願いします。」
営業社員。
「え?」
同じ頃。
資材部。
「予定していた資材が届きません。」
人事部。
「内定者が三名辞退しました。」
経理部。
「銀行の融資審査が止まっています。」
一日で。
異常が四件。
役員会。
混乱。
「何が起きている!」
「偶然か?」
「いや、多すぎる!」
鷹名。
静かに言う。
「中田。」
中田。
資料を閉じる。
「偶然ではありません。」
役員たち。
静まり返る。
「誰かが。」
「会社そのものではなく。」
「会社を取り巻く人間関係を壊しています。」
役員。
「そんなことができるのか?」
中田。
即答。
「できます。」
「信頼は積み上げるのに時間がかかります。」
「壊すのは、一瞬です。」
その日の夜。
秘書室。
中田。
一枚の紙を机に置く。
そこには。
物流会社。
銀行。
広告代理店。
人材会社。
全て一本の赤線で繋がっていた。
事務員。
「全部関係あるんですか?」
中田。
頷く。
「一人。」
「一社。」
「全部同じ人が動かしている。」
事務員。
息をのむ。
「そんな人が……。」
中田。
窓の外を見る。
「いる。」
「そして。」
「私に会いたがっている。」
その瞬間。
窓ガラスに。
一瞬だけ。
白いスーツ姿が映る。
振り返る。
誰もいない。
翌朝。
東都本社一階。
社員たちが行き交うロビー。
一人の男が受付で来客票を書いていた。
白いスーツ。
白いネクタイ。
白い革靴。
受付。
「ご用件をお伺いします。」
男は穏やかに笑う。
「秘書室です。」
「中田翔子さんに。」
受付が内線を取ろうとした瞬間。
男は小さく付け加えた。
「初めてお会いするので。」
「名刺を一枚。」
その頃。
エレベーター前。
中田は理由もなく足を止めた。
胸騒ぎ。
経験したことのない感覚。
扉が開く。
そこに。
白いスーツの男が立っていた。
男は穏やかに微笑み。
名刺を差し出す。
「初めまして。」
「私、白鷹と申します。」
中田は名刺を受け取る。
肩書きは書かれていない。
名前だけ。
その瞬間。
二人は理解した。
目の前にいる相手が。
自分と同じ世界の人間だと。
企業戦士には。
武官がいる。
そして。
文官もいる。
企業戦争。
第二幕が。
静かに始まった。
今回から外伝として、中田翔子編を始めます。
本編ではすでに“象徴”として語られることの多い中田さんですが、彼女がどのように秘書室を作り、東都を支えていたのかを書いていきます。
企業戦士の戦いには、前線で戦う武官だけでなく、情報を読み、人を動かし、会社を守る文官もいる。
そんな裏側の企業戦争を楽しんでいただければ嬉しいです。




