企業戦士 外伝 秘書室 ―中田翔子― 第2話 情報という武器
今回から外伝として、中田翔子編を始めます。
本編ではすでに“象徴”として語られることの多い中田さんですが、彼女がどのように秘書室を作り、東都を支えていたのかを書いていきます。
企業戦士の戦いには、前線で戦う武官だけでなく、情報を読み、人を動かし、会社を守る文官もいる。
そんな裏側の企業戦争を楽しんでいただければ嬉しいです。
秘書室発足から一か月。
東都建設本社。
社長直属組織。
秘書室。
社員はまだ三人。
室長・中田翔子。
そして事務担当二名。
小さな部署。
だが。
全国の情報は全てここへ集まる。
契約書。
株価。
取引先。
海外企業。
銀行。
証券会社。
行政。
一日に届く書類は数百件。
若い事務員が驚く。
「室長、本当に全部読むんですか?」
中田は微笑む。
「もちろん。」
「情報は嘘をつかない。」
「嘘をつくのは人だから。」
その時。
一本の電話。
「はい、秘書室です。」
証券会社だった。
『東都建設株が急に売られ始めています。』
中田。
「材料は?」
『ありません。』
「決算?」
『違います。』
「事故?」
『ありません。』
「不祥事?」
『確認されていません。』
電話を切る。
中田は静かに資料を並べ始めた。
「何かある。」
翌日。
株価はさらに下落。
役員会も混乱していた。
営業部。
「原因が分からない!」
経理部。
「説明できません!」
その夜。
秘書室。
中田だけが残っていた。
新聞。
物流。
港湾。
海外ニュース。
全部広げる。
そして。
一枚の記事で手が止まる。
『北関東物流、大型港湾契約締結』
中田。
「これね。」
翌朝。
社長室。
鷹名。
「原因は?」
中田は資料を差し出す。
「物流です。」
役員たちが首をかしげる。
中田は説明を始める。
「物流が押さえられる。」
「資材が遅れる。」
「工期が遅れる。」
「利益予測が下がる。」
「市場はそれを先に読んだ。」
役員室が静まり返る。
鷹名だけが笑った。
「なるほど。」
「市場は現場ではなく、その先を見ていたか。」
その日のうちに。
東都建設は代替物流会社との契約を発表。
翌日。
株価は反発した。
秘書室。
事務員が拍手する。
「すごいです室長!」
中田は首を振る。
「私は情報を整理しただけ。」
「会社を動かしたのは現場よ。」
その日の夜。
秘書室。
帰ろうとした中田の視線が、一階の営業フロアで止まる。
まだ電気が点いていた。
こんな時間まで残っている社員は少ない。
一人。
机に向かい。
何度も契約書を読み返している若い社員がいた。
事務員が覗き込む。
「あっ、営業一課の時任さんですね。」
「毎日最後まで残ってます。」
中田。
「時任……明。」
資料を閉じる若い社員。
失敗した契約書を何度も書き直し。
先輩が帰ったあとも、一人で勉強を続けている。
事務員。
「要領悪いですよね。」
中田は小さく笑う。
「違う。」
「要領が悪い人は、あんな目をしない。」
「会社を良くしたい。」
「誰かの役に立ちたい。」
「そう思って仕事をしている人の目。」
少しだけ目を細める。
「……伸びるわね。」
その言葉を。
時任明が知ることはなかった。
その頃。
向かいのビル。
白いスーツの男。
白鷹。
双眼鏡を下ろす。
「株価操作だけでは崩れないか。」
部下。
「次はどうします?」
白鷹。
静かに笑う。
「会社は人で動く。」
「なら、人を狙う。」
双眼鏡の先には。
秘書室の灯り。
そして。
窓際に立つ中田翔子。
白鷹は小さく呟いた。
「ようやく会えそうだ。」
企業戦争。
その舞台は。
静かに。
裏側へ移り始めていた。
中田翔子編、開幕です。
今回は秘書室の誕生と、白鷹との出会いまでの流れでした。
本編では名前だけでも重みのある中田さんですが、外伝では彼女の有能さや優しさ、そして東都に残したものを少しずつ描いていく予定です。
鳩山や時任明との関係も、本編につながる形で入れていきたいと思います。
引き続きよろしくお願いいたします。




