企業戦士 外伝 秘書室 ―中田翔子― 第1話 秘書室誕生
今回から外伝として、中田翔子編を始めます。
本編ではすでに“象徴”として語られることの多い中田さんですが、彼女がどのように秘書室を作り、東都を支えていたのかを書いていきます。
企業戦士の戦いには、前線で戦う武官だけでなく、情報を読み、人を動かし、会社を守る文官もいる。
そんな裏側の企業戦争を楽しんでいただければ嬉しいです。
東都建設株式会社。
朝。
本社最上階。
社長室。
東都建設社長。
鷹名。
窓の外を眺めていた。
東京。
無数の高層ビル。
その一つ一つが企業。
その一つ一つが敵でもあり、仲間でもある。
静かに呟く。
「企業戦争は変わる」
その言葉に反応したのは、一人の女性だった。
「変わる……ですか?」
中田翔子。
二十八歳。
秘書課主任。
社内では「完璧な秘書」と呼ばれていた。
鷹名は振り返る。
「これまでは企業戦士が前線で戦えば勝てた」
「だが、これからは違う」
机の上へ一冊の資料を置く。
《企業買収計画》
《株価操作》
《内部情報流出》
《産業スパイ》
中田は静かに資料を閉じた。
「戦う前に負ける時代……」
鷹名は頷く。
「そうだ」
「剣だけでは会社は守れない」
沈黙。
そして。
鷹名は一枚の辞令を差し出した。
中田。
ゆっくり受け取る。
そこには。
秘書室 室長 中田翔子
と書かれていた。
中田。
目を丸くする。
「秘書室……?」
鷹名。
静かに笑う。
「今日から新設だ」
「社長直属」
「情報管理」
「企業防諜」
「役員補佐」
「株主対応」
「危機管理」
「全部任せる」
中田。
少し困ったように笑う。
「随分と欲張りですね」
「社長」
鷹名。
真顔で答える。
「全部できる人間が、お前しかいない」
沈黙。
中田。
深呼吸する。
「……承知しました」
「全力を尽くします」
その日の午後。
社内放送。
『本日付で社長直属組織「秘書室」を新設します』
社員たちはざわつく。
「秘書室?」
「総務と何が違う?」
「また社長の思いつきか?」
その中。
若い男性社員が首を傾げていた。
鳩山。
まだ入社二年目。
「秘書室……何する部署なんだ?」
その声を聞いた中田。
足を止める。
振り返る。
優しく笑った。
「会社を守る部署よ」
鳩山。
「営業じゃなくてですか?」
中田。
首を横に振る。
「営業は利益を作る」
「秘書室は利益を守る」
鳩山は意味が分からず首を傾げる。
中田は笑う。
「そのうち分かるわ」
「企業には前線だけじゃなく、後方も必要なの」
その笑顔を。
鳩山は忘れることがなかった。
その頃。
東都建設本社。
向かいのビル。
双眼鏡を覗く男がいた。
白いスーツ。
白いネクタイ。
白い手袋。
男は小さく笑う。
「秘書室、か」
「面白い」
携帯電話を取り出す。
「こちら白鷹」
「東都が新しい駒を作った」
『排除しますか?』
男は窓の向こうで社員たちに頭を下げる中田翔子を見つめる。
そして静かに答えた。
「いや」
「もう少し育てよう」
「潰すのは、それからだ」
電話が切れる。
男は笑った。
「ようこそ」
「企業戦争へ」
その日。
誰も知らなかった。
東都建設に生まれた小さな部署が。
やがて企業の未来を左右する組織になることを。
そして。
一人の女性が。
企業戦士たちを陰から支える"文官"と呼ばれることを。
中田翔子編、開幕です。
今回は秘書室の誕生と、白鷹との出会いまでの流れでした。
本編では名前だけでも重みのある中田さんですが、外伝では彼女の有能さや優しさ、そして東都に残したものを少しずつ描いていく予定です。
鳩山や時任明との関係も、本編につながる形で入れていきたいと思います。
引き続きよろしくお願いいたします。




