企業戦士 外伝 業火 ―炎城レオ― 第8話 最後の火
今回は帝央最高火力、炎城レオの物語。
本編では「最高火力」と言われながら、なかなか全力を出せない炎城ですが、彼が弱いわけではありません。
帝央本社。
夜。
非常灯だけが、廊下を赤く照らしていた。
海外投資連合。
黒曜ファンド。
彼らは帝央の株価を落とすため、同時多発的に拠点を襲撃した。
物流。
資材。
情報。
生産。
そして本社。
帝央の動脈を、同時に止める作戦だった。
大会議室。
時任三郎は資料を見ていた。
安間司が静かに報告する。
「本社防衛は私が引き受けます」
「ですが、外部拠点は各部長を出す必要があります」
三郎。
「炎城は」
安間。
「中央資材基地へ向かっています」
三郎は頷く。
「敵はそこを本命にしたか」
安間。
「はい」
「炎城さんを消せば、帝央の突破力は落ちると判断したようです」
三郎。
「正しい判断だ」
「だが」
「甘い判断だ」
中央資材基地。
夜。
炎城レオは、黒い仮面をつけたまま立っていた。
周囲には敵企業戦士。
数は多い。
能力も厄介だった。
冷却。
酸素遮断。
煙幕。
防火装甲。
熱吸収。
完全に、炎城レオを潰すための部隊。
敵指揮官が笑う。
「帝央最高火力」
「お前さえ消せば、帝央は止まる」
炎城は首を鳴らす。
「俺の評価、高いですね」
敵。
「火は酸素を奪えば消える」
「熱は吸えば弱まる」
「炎は水で押し流せる」
「お前は研究済みだ」
炎城。
「研究熱心で何より」
敵が一斉に動く。
冷気が走る。
煙が視界を塞ぐ。
酸素が薄くなる。
熱が奪われる。
炎城の指先の火が、小さく揺れた。
敵が笑う。
「消えろ」
炎城。
「消えねぇよ」
炎城は踏み込む。
火力は出ない。
いつものような白炎もない。
だが、拳はある。
肩でぶつかる。
肘で崩す。
足で払う。
火を使えない戦場でも、炎城は止まらない。
一人倒す。
二人倒す。
三人倒す。
だが、敵は減らない。
炎城の仮面に傷が入る。
コートが裂ける。
腕から血が流れる。
通信が鳴る。
水瀬。
「炎城、無理をするな」
炎城。
「してない」
土岐。
「声がもう無理してる」
風見。
「風を送るよ」
雷堂。
「待ってろ。俺が行く」
炎城。
「来るな」
雷堂。
「あ?」
炎城。
「お前らは別の拠点を守れ」
「ここは俺が燃え残る」
通信の向こうで、少しだけ沈黙があった。
雷堂。
「死ぬ気かよ」
炎城。
「死ぬ気なら仮面はつけねぇ」
安間の声が入る。
「炎城さん」
「中央資材基地が落ちれば、全拠点の補給が止まります」
炎城。
「分かってます」
安間。
「三十分です」
「三十分、基地を落とさないでください」
炎城。
「短いですね」
安間。
「長い方です」
炎城は仮面の奥で笑った。
「了解」
戦いは続く。
炎は出せない。
出しても吸われる。
広げても消される。
白炎を出せば、一瞬は勝てる。
だが、それでは最後まで保たない。
だから炎城は燃やさない。
小さな火だけを残す。
仮面の奥。
胸の内。
本当に必要な瞬間まで。
敵指揮官が叫ぶ。
「なぜ全力を出さない!」
「出せば勝てるだろう!」
炎城。
「出したら終わるだろ」
敵。
「お前がか?」
炎城。
「戦場がだ」
炎城は敵の拳を受ける。
膝が沈む。
だが倒れない。
燃え残る。
それが今日の仕事だった。
十分。
十五分。
二十分。
基地の各所で爆発が起きる。
敵は資材倉庫へ火を放とうとする。
炎城が走る。
敵の手元だけを焼く。
炎ではなく、火花程度の熱。
起爆装置が落ちる。
別の敵が搬送路を壊そうとする。
炎城が体ごと止める。
背中へ刃が入る。
それでも止める。
敵指揮官の顔から余裕が消え始めた。
「化け物か」
炎城。
「火だって言ってるだろ」
二十五分。
水瀬の部隊が東側拠点を奪還。
土岐が南側搬送路を固定。
風見が煙幕を流し、視界を開く。
雷堂が西側の防衛装置を破壊。
帝央の反撃が始まった。
安間。
「炎城さん」
「あと三分」
炎城。
「遅いですね」
安間。
「よく保ちました」
炎城。
「まだ終わってませんよ」
敵指揮官が最後の命令を出す。
「総攻撃だ!」
「炎城レオをここで潰せ!」
敵企業戦士が一斉に迫る。
冷気。
煙。
酸素遮断。
熱吸収。
防火装甲。
全てが炎城へ向かう。
炎城は仮面に手を当てた。
カチリ。
第一制限解除。
火が灯る。
敵。
「今さら火を出しても遅い!」
カチリ。
第二制限解除。
炎が白くなる。
敵の熱吸収能力が炎を奪う。
白炎が小さくなる。
敵指揮官が笑う。
「終わりだ!」
炎城は動かない。
ただ、待つ。
通信。
雷堂。
「炎城!」
「道、開いたぞ!」
風見。
「風、通すよ」
水瀬。
「余熱は俺が受ける」
土岐。
「足場は固めた」
安間。
「領域外に保護対象なし」
最後に。
三郎の声。
「炎城」
「燃やせ」
炎城の目が、仮面の奥で光った。
「了解」
第三制限。
解除。
仮面が外れる。
その瞬間。
残していた火が、爆ぜた。
大きな炎ではない。
細い炎。
一本の線。
だが、その線は白く。
まっすぐだった。
敵指揮官は叫ぶ。
「そんな小さな火で何ができる!」
炎城。
「十分だ」
炎の線が走る。
敵の能力の起点。
酸素遮断装置。
冷却の核。
熱吸収の媒体。
煙幕の発生源。
全てを一本の火が貫く。
燃やすのは敵ではない。
戦場の仕組み。
炎城を消すために作られた網そのもの。
白い線が走った後。
敵の能力が一斉に崩れた。
空気が戻る。
熱が戻る。
視界が開く。
そして。
帝央の部長たちが動く。
水瀬の水が敵の退路を塞ぐ。
土岐の土が足場を奪う。
風見の風が炎を敵側へ押し流す。
雷堂が稲妻のように駆け抜ける。
「遅ぇ!」
敵が次々と倒れる。
炎城は最後に一歩踏み込む。
敵指揮官が後退する。
「なぜだ」
「なぜ最後まで火を残せた」
炎城。
「燃やす時を選べって言われてるんでね」
拳に最後の火が宿る。
「これが」
「帝央の火だ」
一撃。
白炎の拳。
敵指揮官は吹き飛び、地面へ倒れた。
戦闘終了。
中央資材基地。
防衛成功。
黒曜ファンドの同時襲撃は、帝央の各部長によって鎮圧された。
帝央勝利。
朝。
中央資材基地。
炎城は瓦礫の上に座っていた。
仮面は割れている。
体中に傷。
コートも焦げている。
それでも、炎城の指先には小さな火が残っていた。
雷堂が近づく。
「ボロボロじゃねぇか」
炎城。
「お前もな」
雷堂。
「俺は速いから当たってねぇ」
土岐。
「嘘。肩、血出てる」
雷堂。
「かすっただけだ」
水瀬が炎城を見る。
「最後まで火を残したのは正解だった」
風見。
「綺麗な火だったよ」
炎城。
「褒め方が気持ち悪いですね」
風見。
「ひどい」
安間が歩いてくる。
「施設被害はありますが、機能は維持しています」
「社員被害は軽微」
「資材も大半が無事です」
炎城。
「なら勝ちですね」
安間。
「はい」
「完全勝利です」
炎城は空を見る。
朝日が昇る。
燃やしてはいけないものばかりの街が、少しずつ明るくなっていく。
三郎が通信越しに言う。
「炎城」
炎城。
「はい」
三郎。
「よく燃え残った」
炎城は少しだけ笑う。
「最高火力なのに」
「ずいぶん地味な褒め方ですね」
三郎。
「最高火力だからだ」
「最初に燃え尽きる火はいらない」
「最後まで残り、最後に結果を出す火が帝央には必要だ」
炎城は割れた仮面を見つめる。
枷。
器。
境界線。
帝央を燃やさないためのもの。
そして。
自分が燃え尽きないためのもの。
炎城。
「次の仮面は、もう少し軽くしてください」
三郎。
「検討する」
安間。
「おそらく重くなります」
炎城。
「でしょうね」
部長たちが笑う。
帝央最高火力。
炎城レオ。
彼は無双の火でありながら。
いつも勝利の中心にいるわけではない。
燃やしてはいけないものがある。
守らなければならないものがある。
仲間が進む道を残さなければならない。
だから炎城は、最初から全てを燃やさない。
最後の火を残す。
決めるべき瞬間まで。
仮面の奥で、静かに燃やし続ける。
やがて。
帝央はさらに大きな戦場へ向かう。
東都建材。
時任明。
岡田。
鷹名。
強敵たちが現れる。
その戦いの中で、炎城レオは何度も火を抑えることになる。
時には勝ちを譲り。
時には決定打を逃し。
時には仲間の道を照らすだけで終わる。
それでも。
帝央の誰も、炎城を弱いとは思わない。
なぜなら知っているからだ。
黒い仮面の奥に。
帝央最高火力が残っていることを。
燃やすべき時を待つ。
最後の火が。
まだ消えていないことを。
炎城レオは立ち上がる。
割れた仮面を顔へ当てる。
息苦しい。
視界も狭い。
だが。
その重さは、もう嫌いではなかった。
炎城。
「さて」
「次はどこを燃やしますか」
安間。
「まずは報告書です」
炎城。
「それが一番燃やしたいですね」
安間。
「燃やさないでください」
雷堂。
「俺の分も頼むわ」
水瀬。
「自分で書け」
土岐。
「雷堂、字が雑すぎるのよ」
風見。
「風で飛ばしていい?」
安間。
「誰も報告書から逃げないでください」
炎城は仮面の奥で笑った。
帝央の炎は。
今日も静かに燃えている。
燃やしてはいけないものを守るために。
燃やすべき瞬間を逃さないために。
企業戦士 外伝
業火 ―炎城レオ―
完。
お読みいただきありがとうございます。
炎城レオは、帝央の中でもかなり派手な能力を持つ人物です。
ただ、会社を守る戦いでは、強すぎる火力は時に扱いづらい武器でもあります。
今回はその始まりとして、炎城が時任三郎と出会い、帝央へ入るまでを書きました。




