第17話「王立魔法学院」
結局、同じ部屋に寝泊まりした。いくら家族とは言え、男と女が同じ部屋で寝泊まるのは貞操感的にどうなのだろうか。いや、案外普通なのか?
ということを目覚めて隣のベッドでまだ眠っているケインを見て考えた。あの後食事を取って眠ったのだが、自分で思っていた以上に疲れていたらしく、一瞬で眠っていたらしい。
幸せそうなに表情を緩ませて眠っている兄を叩き起こし、魔法学院に一緒に向かう。
「では、ようこそ王立魔法学院へ。初めて見た感想はどうだい?」
その建物は王国が運営しているだけあって入口からして豪華なものだった。頑丈そうな正面の門を潜り抜けると、そこには満開の花が咲き乱れている庭園。5mくらいはありそうな巨大な噴水。そして、少し近づくだけで全貌が見えなくなるほどの古風な雰囲気の巨大な校舎。校舎だけでもうちの屋敷の敷地が埋まるのではないかと思うほどの規模だ。
「正面に見えているのが魔法学院の誇る校舎だ。教室はもちろん、国内でも上位に入る程の蔵書を誇る図書館、様々な分野に対応した研究室、皆の憩いの場である中庭に屋上庭園まである。学習の為には揃ってない物を探す方が大変なくらいの環境が揃っている」
「……大きすぎて迷いそうですね」
「ご名答。あまりにも大きすぎて、1年過ごしても自分に関係のない場所を聞かれたら答えられない人がたくさんいることでも有名だね」
「何故こんなにも大きいのですか?」
「第一に王国の運営だから。半端な規模だと王立の名前に負けしてしまう。もう一つが歴史ある建物だから。最初期はもう少し小さかったんだけど、時代が進むにつれて増築、改築が繰り返されてるんだ。昨年で150年経ったんだよ」
「で、その結果がこの大きさと。逆に不便じゃありません?」
「不便だねー。だけど、校舎が分かれているよりはいいかな。天候に関係なくどこにでも行けるからね。後は、ここからじゃ見えないけど校舎の裏にも土地が広がっていて、魔法訓練専用の建物とか、騎士課程に使う練武場とかまだまだ沢山あるよ。そこらへんは使う事になればそのうちどこにあるのか覚えると思うよ」
会話はしているが、校舎の大きさにずっと圧倒されている。高さだけなら魔王城よりも低いが、全体で考えると城よりも大きいだろう。見たことはないが、この国の王城よりも大きいんじゃないか?
「それじゃ、手続きしに行こうか。事情は様々だけど、中途試験を受ける人は毎年いるんだ。それでも、合格できるのは両手で足りる程度だけど」
「それくらい難しいということですか?」
「単純に受ける人が少ないというのもあるんだけど、難しいのは間違いないね。希望の学部によるけど、どちらかというと実技の方に重きが置かれてるって噂だ。フィオラの場合は総合魔法学科だから、魔法の実技試験は大変だと思うよ」
手続きの為に校舎に入り、受付に行く道中で学科の説明をしてくる。
総合魔法学科というのは、主に魔法を学びつつ、教養や他の技能も受けられる一番課程の幅が広い学科の事だ。そのまま魔法の課程ばかり受けてもいいし、必須課程だけ受けて他学科の課程を取ってもいい。ケインの場合は総合騎士学科で、大体同じような構造だ。
他には専門学科や、芸術学科、研究学科など様々だが、やはり魔法学科が一番人気とのこと。
学院は4年制で、全体で約2000人程の生徒が通っている。名前の通り全体の6割ほどが魔法系統の学科に所属している。残り2割が騎士系統学科で、残りがその他。
勇者に選ばれたブルーノは総合騎士学科で、聖女は専門魔法学科らしい。
「詳細は入学した際に説明されるけど、こんなところだ。それじゃぁ、手続きをしておいで」
窓口で試験の手続きをする。試験は一日で終わるそうだが、結果が出るのは3日後という。名前、出身、希望学科、歳、魔力覚醒の年齢、属性。試験を受けるために申請書類を提出しているが、ここでも書かされるのは本人確認の意味も込めているらしい。
「確認致しました。フィオラ・ルーデン様ですね。試験は1時間後に始まりますので、お先に済ませる事があれば忘れずお願いします。試験が始まると長時間動けなくなりますので」
「わかりました。時間までに会場に居れば?」
「はい。遅れずにお越しください。時間を過ぎますと、その時点で試験を受けられなくなりますので」
ここまで来て事前に済ませる事なんて、トイレか小腹を満たすくらいしかできることはないだろうが。
「さて、僕は会場には入れない。終わったころにまた迎えに来るよ。気負わず頑張ってね」
「合格しますよ。任せてください」
健康に影響しないギリギリまで詰め込んだが、勉強は十分とは言えない。何度か用意してくれた兄自作のテストも何度も落ちた。だが、今の私は根拠のない自信しかない。
「では、行って参ります」
励ましてはいるが、不安そうなのはケインの方だ。そんな顔をされると不安が移りそうなのでやめてくれと言いたいところだが、それでも笑って会場に向かう。
受付に言われた通り事前に済ませられる事を済ませて少し早いが会場に入る。
会場にはすでに30人程度の人が入っている。魔法学院は身分ではなく、実力でしか判断されないという。例外は王族のみ。貴族であっても試験を受け、実力が認められなければ入れない。馬鹿で不相応な者であれば簡単に落ちる。だが、相応に秀才であれば平民でも通えるのが王立魔法学院だ。
会場に居る人の出で立ちを見れば、ほとんどが平民か位の低い貴族ばかりなのだろう。自分のように高位貴族らしき人物は見受けられない。
会場は何とも言い難い雰囲気に包まれている。試験だから適度な緊張感は大事だろうが、それにしても重苦しい。今回の試験にかける思いの違いだろうか。
「そろそろ時間となる。指定されている席につきたまえ」
試験監督と思われる男性が入ってくる。重苦しい空気がさらに厳粛性を増し、息を飲む人もいる。
「1科目毎の時間は120分。1科目終わるごとに、30分の休憩が設けられている。試験中は、余分な物は持ち込めない。休憩時間中の行動に関しては制限は設けていないが、校舎はあまり出歩かない方がいいだろう。迷って開始前に戻ってこれなかった者が毎年いるのでな。
それでは、これより答案用紙を配る………………行き渡ったな。それでは、始め!」
便宜上1科目となっているが、試験内容は色々な教科の内容が交じっている。本試験はきちんと分かれているらしいが、中途試験の場合は大問で分かれている。問題自体も難しい物になっているので、そのせいで中途での合格者は毎年少ないのだろう。すでに授業は進んでいるので、それに追いつける程度の知識は必要ということだ。
午前に2科目、午後に1科目の試験。その後は魔法の実技試験。中々に忙しい日程だが、そこまでするほど合格者を絞り込む必要はあるのかと文句も言いたくなってくる。
だが、今の私は寛容だ。今回の試験なんて多分全部完璧に答えられるくらい頑張ってきたし、自信もある。勝った。
かくして、長い試験が始まった。
「……そこまで! 筆記の試験はここまでだ。それでは、1時間の休憩の後に魔法試験が行われるので、それまでに休息を取って受けるように」
3科目が終えて、筆記の試験は終わった。周りの反応は様々で、頭を抱える者や一先ず終わったことを喜ぶ者もいる。自信のある者はいないようだ。
かくいう私も、意気消沈気味だ。受ける前は謎の自信に満ち溢れていたのだが、問題を重ねる事に自信は砕かれた。受かっている気がしない。
「兄さん、私はもう駄目かもしれない……。ごめん」
思わず天を仰ぐ。今は無駄に綺麗な照明すら憎くなってくる。
なんとかして気持ちを切り替えたい。この後は魔法試験も残っている。




