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困惑する者達が居たそうです。

 防衛都市ホードリア 領館


 日が落ちてようやく執務を終える、森の氾濫の後の慌ただしさも現場の方は落ち着きを取り戻し、これで一安心だと思っていた所に守備隊から報告が入る。


 「森林側物見より報告、大森林奥地で大規模な火災が発生している模様、との事です。」


 補佐官からの報せに急いで支度を整え、報告のあった物見台へと急ぐ、森林の火災は油断ならない、浅いところならまだいい、いや良くはないがまだ対処できる、だが深部での発生になると後々になって問題が起こりかねないのだ。

 物見台から火災が発生しているという森林奥地を見やる、なるほど、大分奥地では在るが確かに広い範囲で夜空を赤く染め上げているのがはっきりと解る、ここから見てもかなりの広さだ。


 「確かに火災のようだな、だが彼処まで奥地になると未だ未踏区域ではないか?」


 大森林は魔力が濃い、故に魔物が多く徘徊し、深部に近付くに連れて魔物も強くなる、加えて我々普人族では魔力の扱いに長けた者かそれなりの魔道具を用意できる者でなければ長期の森林行軍は難しい、魔道具は高価な上に魔力を上手く扱えるのは魔術士を筆頭とした術士達や森林探索に慣れたベテランの傭兵達位だ、その彼等達でさえ中層域の魔力の中では時々魔力を抜かないと身体に異常をきたし、手遅れになると急激な魔力酔いで行動不能に陥る。

 亜人種の中には魔力に強い抵抗力や適応力を持つ者達も居るが、それでも普人種より活動時間が長くなるというだけだ、濃い魔力と強い魔物に対処できる者達だけが森の深部へと辿り着けるが未だそこまで至ったという報告はない。

 火災の現場である深部の調査が出来ないなら中層までの調査をさせよう、火災に追われて深部の魔物が這い出してきたらまたも氾濫の危険性が在る。


 「傭兵組合のモッド組合長に連絡を、深層部の火災に伴った森林中層までの魔物の動向の調査依頼だ、とりあえずは明日から十日間、火災が続くようなら延長もあり得る、数班の入れ替わりでいいから情報の持ち帰りを最優先、必要なら予備の吸魔筒を領軍から貸し出せ、その分は報酬から引いて使用する魔石位は各自で負担させろ、それと組合を通じて今回の火災の情報を集めるよう手配してくれ、我が国だけでなく他からもだ。」


 ようやく氾濫の処理が一段落した所にこの火災、しかもあの範囲は私も見たこともない規模の物だ、各地のギルドにも情報は上がってくるだろう。

 森林に関係するこういう時の情報収集は国の機関より各国に支部と連絡網を持つ傭兵組合、ギルドに頼ったほうがいい、元は森林資源の管理と活用の為に作られた組織だけに情報に金はかかるがなにより早く正確だ。


 それに先日の森の氾濫の報告書にあった首領級を二体とも屠ったという炎、首領級の片方が炎を使っていたというのでそっちが原因かとも思っていたがあの跡地は抉れて表面が溶けたようになってしまっていた、そのような規模の炎の術はガレリア師でも聴いたことが無いという、軍で使う大規模術式でもそこまでの威力を持つ術は無い。

 だからといって簡単に魔獣が魔力を暴走させた結果だと決めつけてしまってはいけない気がしている、長年魔術に携わり、魔術に関しては組合のガレリア師に次いで詳しい妻も同じ意見だ。

 かつて妻の調べた所によると神殿所蔵の古い文献の中に神々の神罰について書かれた物があり、その中でも<赤き神の炎>と<白き神の雷>に関する文献の中で似た様な跡を残したという記述が見つかるという。

 滅多な事で起こるものではないというが神々の不興を買えば何時起こっても不思議ではない神罰、それ程の力が振るわれたのならあの跡地を残す事や森林深部でもあれだけの規模の火災を起こせるのではないか?


 だがもしそうだとしてもその理由がわからない、神罰であるなら神殿関係者に何かしらの神託や託宣があってもおかしくないがその様な報告も噂もなければ今回は森の氾濫で被害が首領級の魔獣だ、魔獣が神罰を受けるというのは聴いたことがない。

 見たこともない魔獣にかつて無い二体の首領級の登場、そしてそれを屠った炎に今回の火災、今までと違う何かが起こっている、そんな気がしてならない。


 判らないことだらけでは在るが情報は集めておいて損はない、私の勘と憶測でしか無いので公費は使えんが神殿の関係者からも情報を集めてもらうようにしよう、妻に頼んでもいいが……報酬で小遣いが足らなくなるな。


 

 翌朝、モッド組合長に依頼のついでに軽く今回の件についての話を聞いてみる、彼は組合長では在るが森林探索でもベテランの傭兵だ、今回の件どう見るだろうか。


 「領主様の言われることも解る気がします、今回の森の氾濫は俺やガレリアも色々と気になるところがあるんで。」


 組合長だけでなくガレリア師もなにか気にしているらしい、そう言えば今日はまだ姿を見ていない。

 いつもなら組合に出向いた途端、奥で書類仕事をして居たとしても態々挨拶代わりの悪態を吐きに出てくるというのに。


 「今回の氾濫、森の近くの防衛陣地で大半の魔物を止める事が出来ています、ですが後の調べで陣地から更に森側で多数の魔物が死んでいた事が判っています、躓いた所を後続に踏まれてってんなら解りますがあまりにも数が多い、更には死体はありましたがそれらの魔物が持っていた魔石が見つかってない、防衛陣地の連中はご存知の通り領軍の指揮下にありましたんで勝手に魔石の回収もしていないし、なにより戦うので手一杯で柵を越えて更に敵の多い森側へなんて出ていけない、なら誰が、いつの間に魔石を回収したのかって話になります。」


 「その事は報告書にも書かれていたな、領軍の指揮担当からも組合のベテランは皆防衛側に居たと聴いている。」


 「そうなんですよ、あの氾濫の中魔石を回収しながら戦うのはベテランの傭兵でも至難の業です、そんなんが出来るのは大規模な、それこそ軍団規模の集団になるでしょう、だがそんな連中は誰も見ちゃいない。」


 確かに報告書でも付近にその様な大規模の集団の痕跡は無かったとあった、何処かに隠れていたなら野営の跡でもありそうだがそれすら見つかっていない、信頼できる斥候職達からの報告なので間違いないだろう。


 「もう一つ、終息後に森へ調査に出た連中が森の中で戦闘があった跡を見つけています、具体的には罠を仕掛けた跡や魔術で傷ついた樹、むき出しになった地面や大量の血痕なんかですね、首領級が出てきた辺りではかなりの樹が薙ぎ倒されていたのも見つかっていますがそっちはあの二体の首領級の争った跡と見ていいでしょう、そこでガレリアとも話したんですがね、例の<徘徊者>って魔術士もいくら実力があっても一人で森の奥にずっとは居られない、仲間が居てもおかしくないはずなんですよ、だとしたら<徘徊者>とその仲間が氾濫のあった時に森で魔物相手に何かやってたんじゃないか? ってのが俺らの所見です、姿を見られるのを嫌っている様子ですから森の中に居たのではないかと、だとしてもあの氾濫の中森で戦闘していたのなら死体があっても良いはずなんですがそっちは全く見つかっていません、死霊憑き(アンデッド化)で何処かに行ったという線も無くはないですが可能性としては少ないでしょう、どっちにしろ森から出てきて誰にも見つからず魔石を抜いたりは出来ないでしょうから、そっちをやったのが何者かについては全く判らんのですがね。」


 なるほど、件の<徘徊者>が森の中に居たかも知れないのか、そのへんの報告書はまだ目を通してなかったが後で現場を確認しに行くとしよう。

 結局それ以上の情報はなく、森の調査を頼んで組合を出る事になった。

 商工組合や教会に寄って情報を集めてみたがどちらも芳しくない、そもそも神々からの言葉が伝えられたのも一番最近のもので六十年以上昔だという、何か判ったら教えて頂くようお願いするだけで終わってしまった。


 その後結局森は三日間の間燃え続け、神も見かねたのか翌日より二日間雨が降り続き、森林の火災は終息する事となった。

 森の調査をしていた傭兵からの報告書では、森の中層までに特に異常はなく、奥地から魔物が移動してくる様子も見られない事が書かれていた。

 まだ調査は続行中だがひとまず安心して良いのだろう、色々と考えることは多いがこれは私が領主である以上仕方のない事だ。

 今日も領内や組合、王都からの報告が積まれていく、いい加減書類を読むのに飽きてきたが放り出すわけにも行かない、だから見張りはいらないと思うんだが、最近は部屋の中と外で家令とメイドが常に見張っている、どうやら妻の命令らしい、解せぬ。

おっさんしか居ねぇ…

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