駄目な影響を受けている気がします。
神域 神々の神殿
石造りの荘厳な空気の漂う神殿に原初の神々と呼ばれる六柱全員が集まっていた。
この神殿に一般の者がやって来る事は滅多にある事ではない、神々が一同にこの神殿に集う事などそれこそここ数百年なかった事であった。
なぜならここは神々が居る神域であり、普通は修行を積んだ聖人や稀に神々と波長の合った者達が夢の中で招かれて神々の言葉を授かる場所であったからだ。
神々によってこの場所に呼ばれた者達は、その荘厳で重苦しくも神々しい空気に自ずと跪き頭を垂れる、そんな場所であった。
一人の来訪者が異界からやって来るまでは。
今、その神域は来訪者に関連した事態に対処する為に皆が集まる場所として利用されていた。
神々は皆この神域に自分の固有の場を持っている、だが固有の場に皆を呼ぶよりここを使ったほうが簡単で集まりが早い、というのが何よりの理由だった。
この世界に生きる大半の者には荘厳で重苦しく感じる空気も神々には関係ない、今この場所には豪華な赤いカーペットの上にビニール製のレジャーシートが敷かれ、円卓ならぬ円形の卓袱台を神々が囲み、お茶を飲みながら何かを行っていた、茶請けは芋羊羹とカステラである。
神々の前には小型のスクリーンのような物が立っており、それぞれが何かを映し出している。
─ おーい黒、もうすぐ浄化が終わって炎が消えそうだ、そろそろ周辺に幻術頼む!
─ ん、そのまま森が盛大に燃えてるように見せる、青、翠、ゆっくりでいいから雲創って上空に集めて、炎を反射させると夜空に映える
─ やり過ぎないで頂戴ね黒、森の外のモノ達に変に興味持たせてもいけないのよ?
映っているのは大森林の<楽園>と呼ばれた閉鎖された空間、その管理施設と枯れ果てたその周辺。
少し前まで神々はレージやアイビーの行動をここから眺め、大森林の有用性を考えて、人が造った制御核を自分達が造った制御核に交換し直すべきかどうかを話し合っていた。
結果、かつて【原初の竜】に与えたようにレージにも住処を与えるべきで、ここならば丁度良いと言う結論から創造主に伺いを立てた所で想定外の出来事が発生した。
レージにこの地を管理させるのならば、と創造主から彼専用に創られた遥かに高性能な制御核が届いたのである、これはもはや魔物迷宮の核を模倣して単純に制御するというような生易しいモノではなく、かつて神々が【第二の混沌の種】討伐の際に人々に貸し与えた神器ですら足元に及ばない、限定空間内とはいえ生態系まで絡めて複雑に管理運営していく為の制御核であった。
しかもレージであればすぐに使い方も理解して使いこなせるだろうというメッセージ付きだ。
白と黒の女神は始めから彼に肩入れするつもりであったため即座に行動を開始した。
この魔力を必要以上に吸い取られたばかりか、アンデッド化した前の管理者が自分の負の力までも広範囲に撒き散らしたために荒れ果て澱んだ土地の浄化と再生である。
もっとも、その様子は傍目には卓袱台に齧りついたまま動かず、各自でテレビを見ているだけの一同なのだが。
─ 夜でも明るい、となると竜達辺りが興味を持ちそう、ではあるな
─ 眷属達が周りに高濃度で魔力を撒いてるから普通のモノは近付くことすら出来ない、大丈夫問題ない
─ いや問題はあると思うがの、この位置なら影響を受けるのは精々森の獣位よ、酷そうなのは後で儂が間引いておこう
─ ならば我は周囲の空に我が界を巡らせておこう、我が神気を感じ取れば竜達も避けるであろう
─ 様子を見て鎮火したように見えるよう雨を降らせましょう、どうせ私も祝福を与えるのにこの地に<慈雨>を使う予定でしたし
─ 強そうな奴が居たらここに放り込んでおいても良いんじゃねーか? アイツの遊び相手位にはなんだろうよ
─ 無理でしょう赤、レージさんは森を傷つけるような力を奮う事を嫌っている様子、所構わず暴れる貴方ではないのですよ、結界で覆われる区域とは言えここも森には違いないのですから
─ 青の言う通りよ赤、レージ様はこの森の状態を常に気にかけて変化を最小限に抑えようとしています、そこを下手に荒らすような事をすれば嫌われるのは私達なのです、貴方が嫌われるだけなら放置しますが、私に迷惑をかけないでください
─ なぁ白、おめぇ最近特に俺への当たりが酷くねぇか? 後本音が漏れてんぞ
─ フッ……莫迦が何時も以上に赤な事言い出すのが悪い
─ おめぇもかよ黒、ってお前は何時もそんな感じだったな
─ ここを造った者達はここを<楽園>と呼んだ、だが今後ここは創主様の加護と我々の祝福により<聖域>と呼んでも過言ではない土地となる、管理はあの者に任されたのだ、我等が無闇に手を出すべきではないと考えるぞ赤
─ 赤よ、レージ殿に変な事をすれば白も黒も間違いなくお主の敵に回るぞ、二柱共随分と彼にご執心の様だからの、もちろん何かあれば儂も放ってはおかんが
─ 俺の味方ぁ居ねえのかよ……おぅ浄化終わりだ、黄後は任せた、しかし前に居た奴は随分と考え無しだったみてぇだな?
<再生の炎>で土地の淀みを浄化し終わった赤の神は一仕事は終わったとばかりにお茶を喉に流し込む、他の神からの扱いには慣れているのか特に気分を害した様子もない。
四本の腕を使い新たに自分の湯呑にお茶を注ぎながら、目を細めて美味そうに芋羊羹を摘んでいる。
レージを受け入れた際に同時に齎された情報、異世界の甘味の提供はこの所皆が集まった時の楽しみの一つとなっていた、その姿から豪快に酒を呑んで肉を頬張っているのが似合いそうな赤の神だが実はどちらもいける口であった。
─ アレは既に周りが見えなくなっていた、自分が死んだ事すら気が付かない程に妄執に囚われて、周囲の土地の力まで無駄に消費している事にも気がついて無かった
─ その挙げ句黒の下に行く間もなくアイツに飲まれたってか、実際どうだったんだ? 見てきたんだろう?
─ すぐに向かったけどもうほとんど何も残ってなかった、ヒト程度があんな魂に憑依して個を保てる筈がない、多分赤や翠の眷属が憑依しても無理、青や黄の眷属で少しは保つ程度
─ そこまでかよ……白や黒の眷属ならどうだ?
─ 愚問、私の眷属ならそんな事する前に私の手で屠る
─ そうですね、レージ様に手を出そうとした時点で滅します!
─ おっかねぇよお前ら、そこまでアイツが気に入ったのかよ? 確かにおもしれぇ奴だがアイツが来てから白が変わり過ぎだろうが、神が特定の者を様付するって異常だぞ
─ 赤……貴方も創造主様の気に直接触れてみれば解りますよ、その状態にあって尚平然と、創造主様と対等に会話が出来るという事の凄さを
白の女神の眼から光が消えてポツリと呟く、この女神にとってあの強制干渉の出来事はそれ程の経験だったのだ。
同時にレージの記憶から、自分の経験より強烈な強制注入と、魂を何度も砕かれるという普通は経験する筈のない事を経験し、記憶しているという事を知っている白の女神はすっかり彼に心惹かれていた。
─ 私は純粋にレージの行動といろんな知識が気に入っている、見ていて飽きない、恐らくだけどレージは近い内に私の<書庫>に自分の力でたどり着く事が出来る
─ レージ殿はなかなかに面白い存在よな、手を使わず魔力を捏ねるだけでこんな物を造り出す程器用なのに自分への評価は然程高くない
そう言って黄の神が取り出したのはレージが魔力操作の訓練をしている所で彼が話し掛けた結果、創作意欲を刺激したのか造られた土製の黄の神の像、当然の事ながら取り出されても崩れること無くしっかりと形を保ったままだ。
─ 黄ズルい、一番逢ってる私ですらそんな物造ってもらってない
─ 黒、何やら聞き捨てならない言葉が聞こえましたが、そんなにレージ様と接触しているのですか?
─ 白も黒も、その辺でやめておかないと、創主様のご不興を買うぞ
翠の神の一言で口を噤む二柱の女神、もはやぐだぐだである。
スクリーンの中では<楽園>改め<聖域>の土が深くから起こされては均されて行く、黄の神が奮闘中だ。
ここは神域、荘厳にして重苦しくも神々しい、そんな空気の漂う空間。
最近になって日常化した割と平和な光景であった。




