男はツンデレもヤンデレも似合わないと思います。
「しかし初めて訪れた来訪者が樹の魔物とは、前の大樹が枯れてからどうしようかと思ってたけど、僕もまだ女神に見放されてなかったみたいだよ。」
虚ろな眼窩をこちらに向け楽しそうに語る人骨、神経質そうだがやや気弱で卑屈そうな感じもする、こんな所で待ち構えているアンデッドと言う雰囲気ではない。
こっそり鑑定してみる。
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名前:アグレイ 種族:<狂気ノ幻想ニ取リ憑カレシ者>
所持スキル
【術式※】【魔法陣】【詠唱】【杖術】【魔像創造※】【疑似迷宮創造※】【影術※】【生命戯術※】
保有能力
【生命力剥奪】【憑依】【狂気の虜】
※は複数の技や効果を持つスキルや能力
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前世の知識で行くと何とかの王だとか言い出す上位のアンデッドかと思いきや、実は妄執に取り憑かれた人の成れの果てだったようだ、翻訳さんが付けたと思われる種族名が悪意に満ちている気がする。
スキルを視るに創造者達の一人であることには間違い無さそうだが、彼一人でこの<楽園>の創造が出来たとはとても思えない、他にも人が居たらしいからそっちがメインだったのかも知れない。
だがあのゴーレムやキメラを作り出しているのはこいつで間違い無さそうだ、情報を得たら消してやろう、このまま放置しておいてもただの迷惑の元凶にしかならない、ところで彼の言う女神って誰の事だろうか。
「最近は新しい素材が手に入らなくてろくに研究もできないんだ、ナーシアに最高の身体をあげるためにも僕はもっと実験しなきゃいけないのにね、この樹動き回るのなら脚はなんとかしないと封じるの大変そうだな。」
アグレイ氏は俺が喋れるとは思っていないようだ、一方的に楽しそうに喋りこちらを観察している、鑑定は持っていないようだが、今の時点で鑑定されてもチョットばかしステータスを偽装してあるので問題ないのだが。
偽装とステータスの能力を組み合わせた結果、他人が見た自分のステータスも偽装できることが判明したのは少し前のことだ、アイビーもステータスを偽装しているはずなのだが鑑定の能力の高さなのか俺の眷属だからなのか、それとも看破が発揮されているのか俺には普通に表示される、アイビーに聞いても俺に隠す事はないので問題ないと平然としたものだが、案外それが一番の理由かもしれない。
しかしその姿で僕とか言われると違和感がすごい、よく見ると微妙に猫背だし、姿勢の悪いスケルトンとかゲームとかでも見たこと無い気がする。
なんか一人で盛り上がってるようだが大丈夫なんだろうかコイツ、って狂人の成れの果てが大丈夫な筈無いな。
「脚はほとんど落としておけば身動き出来ないだろうしいいかな、前の大樹もそれでおとなしくなったし、うん、今度こそナーシアに最高の身体を造ってあげることができそうな気がするんだ、早く声を聞かせてほしいよナーシア。」
ナーシアって誰ですか? とりあえずそのナーシアとかの身体を造る為に俺をあの精霊樹と同じようにしたいという事ですか、冗談でもお断りだな。
とはいえここで派手に暴れるのは得策では無いか、あのコンソールっぽいのに被害が出た時何が起こるかわからないし、だとしたら目の前の彼がワザと攻撃する可能性まである、という事で魔手も魔法も使わず枝で打ち払うフリをしてみる、こっちもリアクションを返したほうが彼の注意もそれるだろう。
「おっと、自分がどうなるか気になったのかい? 上にあっただろう大樹の残骸が、君はアレの代わりに彼処に植えてあげるよ、身動きはできなくなると思うけど森からの魔力を浴びることが出来るようになる、そうすれば合成炉に魔力が安定供給できるからね、ナーシアの技術はやっぱり凄いよ僕なんかじゃ修理だって満足にできやしない、ああナーシア、僕があの身体を傷つけさえしなければ君は身体を捨てたりしなかったのに。」
なんか彼の様子がおかしな具合になってきたな、ナーシアとやらは元は合成炉とやらの技術者で傷の所為で身体を捨てた? ゴーレムか何かなのか、人形愛好家なんだろうかアグレイ君、スキル的にも本当にありそうで嫌だな。
「ああナーシア、君の護衛にする筈だった僕の失敗作が君のあの美しかった顔と身体を傷つけた所為で、その所為で君は二度と声を掛けてくれなくなってしまった、起きる事すらなくなってしまった、ずっと治るのを待っていたのに君は身体を捨ててしまった、でもきっと前以上に魅力的な身体を用意したら戻ってきてくれる筈なんだ、また微笑んで話しかけてくれるはずだ、そうだろうナーシア!」
ああ、これもう駄目っぽい、虚ろだった眼窩の下に赤黒い妙な光が視える、このまま興奮して逝ってくれたら楽なのにアンデッドだからそれは無理、というか逆に妄執が強まっただけかね?
天を仰ぎ両手を広げ、芝居がかってるなアグレイ君、自分に酔ってるのか? 熱心にナーシアとやらに戻ってくるよう訴え続ける。
「ナーシア! どうして戻ってきてくれないんだ! 僕は君を愛していた! だからこそ君が師の元から出ていくと言った時協力してついてきたんだ! だからこそ師の留守の間に師の研究を告発して君が教えてくれた通りに兄弟子達の食事に魔毒まで盛って師の造った疑似迷宮の核を持ち出したんじゃないか! 何故戻ってきてくれないんだ!」
……ナーシア何やった? というか何やらかしたんだ此奴等。
「苦労して<楽園>を生み出して追手にも簡単にわからないようにもした! 僕の作った人形達に世話を任せておけばよかったんだ! なのに君は……何故僕を拒否した! 僕はこんなにも君を愛しているのに……何故だナーシア!」
あーハイ、なんとなく解った、性悪女が純情だったオタク青年を誑かして自分の逃亡の手伝いをさせたのね、腕はあったけど性格が悪かったんだろうなそのナーシア、このアグレイ君でも手が出せないもの造ってるぽいし、想定外だったのはアグレイ君が予想以上に行動派のストーカーかヤンデレ気質だったって事だろう。
という事から考えるとナーシアはゴーレムじゃなく生身だった可能性が高い、つまり最初に傷を負った時点でもう死んでたんじゃないのナーシア? 身体を捨てたっていうのも死んだ事実を認めたくないからアグレイ君が思い込んで言い出した可能性があるな、確か似たような事例を前の世界で聞いたことがある。
ナーシアの復活は普通に考えて成功することはない、この世界に蘇生や復活の魔術があるかは判らないが、数百年前に死んだ人間を甦らせるなんてそうそう出来る物じゃない、身体が出来上がっても彼が造るそれは人形かゴーレムだろう、ただしアグレイ君はそれに気がつくことは無く、失敗したら器がとなる身体が悪かったと今後もずっと同じことを繰り返し続ける。
なるほど <狂気ノ幻想ニ取リ憑カレシ者> というのはあながち間違ってはいないと言う訳だ、ひょっとして翻訳さんは鑑定した時に最初からここまで見通してたんだろうか?
そろそろ何とかしないと彼が暴走しだす可能性が高いな、眼窩の灯った光は今は真赤になり、彼の感情が如何に昂っているかを伝える。
(御主人様、地下からアンデッドと思われる強力な気配が……御主人様のすぐ近くに?)
ここがどの位の深さにあるのか分からないが地上に居る筈のアイビーにまでアグレイ君の気配が伝わったようだ。
まさかその目の前に俺が居るとは思わなかったみたいだけど。
『ああ、俺の目の前に居るよ、狂った創造者達の成れの果てって奴が、こっちは問題無いから周囲を警戒しつつ地下の方まで回収作業を進めておいて、俺が入れない所にいろいろと散らばってたりするみたいだから』
怒りや呆れが混ざって少しモヤモヤしていた気分がアイビーからの念話ですこし解れる。
とは言えコレをどうしたものか、このまま破壊してしまうだけで良いんだろうか?
相変わらず彼は芝居がかった様子でナーシアへの愛を熱っぽく語り続けているのだが。




