我に力を、と願った所でもう遅かったのです。
理不尽な暴力が魔物を襲う。
怒り、毛玉達やあの【人形】を見て、いや【人形】という名を付けられたあの存在達を見て、名も付けられないままただ与えられた仕事をこなしていた毛玉達を見て、ただ湧き上がった怒り。
ムカついた、とりあえず魔物を見つけては八つ当たりを繰り返す、【猪頭】がいた【森林鬼】がいた、見た事もなかった魔物もいくらか居た気がする、邪魔だった、全て殴り倒した、木杭が途中で折れたから後は自分の身体を使って薙ぎ倒した。
気がつけば血塗れになっていた、少しやりすぎたか、水を生み出して洗浄する、未だ燻る苛立ちを一旦鎮める為にも血を洗い流す。
(あ、あの、御主人様、大丈夫ですか? 随分とお怒りのようでしたが)
アイビーが若干怯えつつも心配してくれているのが判る、そういえばここまで感情を露わにしたのは初めてだったかもしれない。
今はアイビーが傍にいるんだった、無様な姿は見せられない、頭の中が冷めていく、落ち着こう、頭は常に冷静であれ、だ。
『心配をかけた、もう大丈夫だよ』
怒りをぶつけるのは創造者達にだ、ここで八つ当たりしても仕方ない。
(先程は只ならぬ様子でした、御主人様が何にお怒りだったのかお聞きしても?)
『あーうん、良く似た奴を思い出したんだよ、あちこちでいいように使われて心身共に擦り減らした挙句に裏切られて切り捨てられて、気が付いた時には何もかも、自分という存在すら虚ろになってしまう程に何も残ってなかった奴だ』
一瞬頭に浮かぶ過去をすぐに消し去る、もう生きている世界すら違う、前世の経験は確かに役に立っているし妙な影響を与えたりもしているが、碌でも無い事まで思い出す必要はない。
『あの与えられた仕事をこなしながら朽ちかけていた【人形】達が其奴と被ってね、いろんな事が許せなくなった、それだけなんだよ』
結局の所は俺の我が儘でしかない、【人形】達は与えられた仕事をこなしていただけだし、創造者達が管理を放棄したのにも何か理由があるのかもしれない、それこそ寿命だったのかもしれないし、他になにか原因があったのかもしれない、そこに俺がただ変な感情移入をして暴走しただけだ。
『怖がらせてしまったな、ごめんよアイビー』
こういう事は口に出して伝えておくべきだろう、言わずとも判ってもらえるなんて思うほど自惚れては居ないし、それは思っちゃダメな奴だ。
実際は口に出さずとも眷属だし一体化してるしで伝えようと思えば感情まで伝えられるのだが、そこはやはり簡単さに逃げるように頼っちゃダメだろう。
(いいえ、いいえ御主人様違うのです、私が怖かったのは自分が何のお役にも立てなかった事、戦いであればお手伝いができると、そう思っていました、ですが先程の御主人様の戦いは私が動いては逆に足手まといになりそうな勢いで、眷属として傍に在りながら何も出来ない事が悔しく、何よりもお役に立てないことで見限られてしまう事が恐ろしくなったのです)
泣いているような訴えと伝わってくる感情、俺は元の感性があるから涙は出ないがそれっぽい感情を持つことはある、だがアイビーは本来泣くという事には無縁の種族だ、そのアイビーを泣かせてしまった自分の不甲斐無さを反省する、どうしよう、こんな経験無いからこういう時どうしていいか全くわからない。
とりあえずアイビーの本体がある所を撫でながら声をかける、泣いた迷子をあやすように。
思っている事をしっかりと伝えたほうが良いかもしれない、前世のイケメン達ならこういう時どうするんだろう。
『アイビー、そんな事はない、君は十分以上に役に立ってくれている、戦闘でも君のサポートがあれば俺が一人で戦うよりもっといろんな事が出来る、実際森が氾濫した時はアイビーがいなかったらもっと酷い事になっていただろう、森で意識を失った時、君が居なかったら残りの魔物や攻め込んだ人側に討たれていたかもしれない、防御やサポートという点ではアイビーは俺以上の実力があると思っている、俺は守るより攻め込んで壊すほうが得意だからね』
(御主人様は誰にも討たせません!)
『ありがとう、俺も簡単に倒される気とか無いし大丈夫だよ、それにねアイビー、俺は君がいるおかげで随分と救われているんだ、俺独りで森を彷徨いていただけなら、今頃外の森はもっと酷い事になっていただろう、森の半分位平気で焼いていたかもしれない、さっきみたいに暴走してね、君が居たおかげでさっきは冷静になれた、君という存在を知ったから森を簡単に焼こうなんて思わなくなった、森には他にも君のような存在が居るかもしれないからね、少し慎重に考えるようになった』
(でも【小鬼】は殲滅するのですよね?)
少し調子が戻ってきたかな? 声の調子が普段に近くなっているし伝わってくる感情の揺れも少なくなってる。
『当然だ! 奴等は見つけ次第殲滅する、それはもう決定事項だよ、それとねアイビー、君は少し思い違いをしている、君は自分が役立たずだから見限られると心配していた、役に立たないと切り捨てられると、そう思っていた、違うかい』
(はい、それが思い違いなのですか?)
そうだ、それは俺が嫌いな考えだ、思わず八つ当たりしたくなってしまう程に、だからしっかりと伝えておかないといけない。
『そう、俺は君が思った<役に立たないモノは切り捨てられる>という考えが嫌いだ、俺はねアイビー、君が思っているよりずっと身勝手で我が儘で強欲なんだ、だから……』
いかん、つい伝えておかないとと思って暴走したがいざ言葉にするとなるとなんか難しい。
世のモテ男君達はこんな時でもスラスラと言葉が出るんだろうか、誰かこういう時に役立つ様なスキルを教えてください。
(身勝手で、我が儘で、強欲、ですか……)
やばい、声のトーンが一段下がった、ドン引きされたか?
『だから、うん、そうだな、自分が手に入れたモノはどんなモノでも簡単に手放す気にはなれないし、気に入ったモノなら尚の事だ、手放すつもりもないし他に譲るつもりもない、そしてアイビー、君は俺の眷属だと言う以前に俺についてきてくれたお気に入りなんだよ、見限るだの切り捨てるだなんてとんでもない話だ、むっ……と』
あぶないあぶない、「むしろ逆に俺が捨てられないかの方が心配だ」なんて思ってはいても言っちゃいけない所だ、捨てられるかもと不安になっていた所に自分が劣等感を抱かせているとか思わせちゃダメだろう、世の優男ならもっとスマートに格好いい事が言えるんだろうが、うん、爆発すればいいのに。
(……!!)
突然アイビーが分体を切り離して【森林狼】に成るが早いか遠くに掛けていってしまった、俺に聴かれちゃ不味い愚痴をぼやきに言ったのかもしれない、ドン引きしてるようだったし。
とりあえず前世で読んだ本の知識からそれっぽいことを言ったつもりだが上手く伝えられただろうか、言ってる内容自体に特に嘘もないんだけど<永世魔法使い>にいきなりこんな難易度高い実技は勘弁して頂きたい所だ、原因が自分なだけにごまかして逃げることすら出来ない。
アイビーが戻ってくる間に新しい木杭でも作っておこう、【妖樹】の死体……は枯れてるから駄目だな、【石化妖樹】の死体を削ってみるか、石みたいに見えるが一応木扱いらしいし魔力さえ込めれば<粉砕>で削れるだろう、まだ数はあるがとりあえず二本だけ、魔物素材は使い道多そうだしただ殴るだけなら普通の丸太でも十分だ、こっちは数も十分にあるが一応何本か削って杭にしておく、あとは新しい魔法も設定しておこう。
(御主人様、鑑定でも名前が読めない妙な魔物達を見つけました)
四本目の丸太を削っていると急にアイビーから念話、アイビーが妙なって言う位だから相当だろう、あの泥沼の触手みたいな奴だろうか。
アイビーは俺が来た方向に戻っていたらしい、視線の少し先の方に反応がある。
『相手に見つかっているならこっちにおびき寄せて合流しよう、そうじゃなければこっちから向かう、脅威度的にはどんな感じ?』
(まだ見つかっては居ませんが脅威度は不明です、見えている相手は2体ですがそれぞれ幾つもの魔物の特徴を寄せ集めたような感じです)
『解った、脅威度が不明なら睡眠に麻痺、毒も出していい、散布して出来るだけ身を隠すように、見つかるようなら逃げてきていい、すぐそっちに向かう』
幾つもの魔物の特徴を寄せ集めた魔物? アイビーに鑑定ができないと言うことはあの毛玉達のような存在だろうか、だがアイビーは敵だと判断している。
この世界にファンタジーのキマイラを期待するわけではないが、どうやらキマイラではなくキメラの方が先に見つかったらしい。
ここでは
キマイラ=神話モチーフの大体3種ほどの魔物の合成体
キメラ=生物学的な意味の複数の生物の因子を持つ怪物
としています。




