考えに熱中すると独言とか出てたりします。
樹はただ考える。
夜、俺は根を下ろしアイビーは周囲に拡がる、以前より展開が容易になったおかげで最近定番になった夜間の防御陣形、夜行性の魔物が彷徨いてはいるがこちらを気にする様子はない、覇気は出していないので単純に興味が無いか、樹だと思われているかだろう、不用意に接近してくればアイビーに貫かれて命を落とすことになる。
時折遠くから狼系と思われる魔物の遠吠えや獲物を襲う声が聞こえてくるが前世の街の夜に比べれば車の音が無いだけでも静かなものだ、最初の頃はどうなる事かとも思ったがもうこの環境にも慣れた、ゆっくりと考え事をしてみる。
そもそもこの森林は何のために存在しているのか、情報では大陸の中央にある大森林だとある、その森林は数年に一度の頻度で氾濫する、今回は俺達がいた所に、普段は周辺国に満遍なくと言っていい位の頻度で、それは何故?
この大森林は周辺部の成長がものすごく早い、それに一役買っているのが魔物の氾濫? その割には氾濫が終わった後の森は魔力こそ濃くはなっていたが魔物は減っていた、魔物を生み出すための魔力は豊富だったが。
ではその前の段階、ドームがあった時のあの重苦しい淀んだ魔力はどこへ行った? 推測だがその魔力は氾濫に加担した魔物とボスの強化に使われた、何かに気が付きそうで何かを見落としている感じがする、もどかしい。
前世の知識から考える通常の森の役割、これは簡単に言えば環境の保全、空気の循環や水の浄化等、ではこの大森林も同じ考えでいいのか、俺の知る森の環境と明らかに違う要素、魔力の存在と魔物の氾濫? そこで思考の片隅に何かが引っかかる感覚。
(御主人様? 何か気になることでもありましたか?)
『んー森と森の氾濫、そして扉を越えてやって来たこの場所について少し考えていたよ』
時折独り言を漏らす癖のせいで変に思われたらしい、ぼっち生活が長かったせいか自然に独り言がでる、空気の循環は魔物化している俺にだって出来ている、今だって葉は全開でフル稼働……中ってこれなのか? なんの気もなく葉を視ると何かが薄く揺らめいている、アイビーからも同じ様に、他の樹の葉を確認してみる、やはり同じ、むしろ魔物化している俺達よりも濃い揺らめき、森の中に漂うのと同質の魔力。
アイビーに順を追って説明しながら思考を整理する、さっきから気になっていたパズルの抜けたピースが埋まっていく感覚。
この世界の樹木は空気の循環と同様に魔力の放出も行う、放出されてはじめは均等に漂う魔力は周囲の環境に影響されて魔力溜まりを作ったり属性の力を含むようになる、それらの魔力を吸収しつづけた生物は内部の魔力が均衡を失い魔物化する、魔物は餌から魔力を取り込むことで更に複雑に魔力が混じり合い、その際に不純物を多く含む<淀み>とも言うべき濁った魔力が生じる。
それがある程度濃くなるか貯まりすぎたりするとそれを核に【小鬼】が生まれる? 其処はよく判らないが、恐らくその淀んだ魔力を森の外部に排出する為の浄化行動として、森の魔物に淀んだ魔力を含ませて外部へ排出するのが森の氾濫の正体ではないだろうか?
声の存在からしてこの場所も関係しているのはほぼ間違いはないと思うが、それを行っている者の正体等はまだ不明だ。
いや、不明ではあるがこの世界の知識から似たような存在には一つだけ心当たりがあったりもするのだが。
【魔物迷宮】、ゲームよりもラノベなんかによく登場するダンジョン・コアと呼ばれる核を持つ迷宮を身体とする魔物。
ある日突然、何も無い所に入り口を開けて湧き出してくるこの迷宮は最深部の何処かに守護者に守られた核を持ち、内部で魔物を繁殖させ、コアが討伐されなければどんどん深層化して行く、最後には強力な魔物を生み出して内部から魔物を全て吐き出し氾濫を起こして自壊するという、彷徨う蠱毒の壺のような存在だ、かつてこの迷宮の氾濫で小国2つが滅んだとされている。
記録では地上に口を開けた時点で最低でも5階層以上が存在し、内部は人工物ではなく洞窟から鍾乳洞のような形に成長していくのも特徴らしい、ちなみにだが地下に穴が空いた時の土砂がどこに消えるかは判っていない、自壊した後に地下には何も残らないところから入り口以外は迷宮の<体内>で別の空間になっているのではないか、とも言われている。
翻訳さんは地下牢でも迷宮でもなく洞窟風だが【魔物迷宮】なのだと言いきっている、世界も違うし解りやすいので俺としても特に問題はない。
氾濫する、という一点だけを見ればこの森も【魔物迷宮】と共通している、ただ【魔物迷宮】は一回氾濫すると自壊する洞窟型だという特徴がある、白様からもらった知識なのでそこに間違いは無いだろう、ならばこの森との違いはハッキリとしている。
ならばここは何なのだろう、と再び考えた時、この世界基準ではなく前世の知識も動員して考えるとそれに当て嵌まりそうな解答は意外と簡単に見つかることになる。
推測の域を出るものではないが、ここは何者かに管理された<箱庭>もしくは<迷宮>ではないだろうか、そして周辺の森、恐らくは中層域までがそのカモフラージュと扉の防衛の役割を持つ、だから時折指向性をもたせた氾濫で森を浄化し、ついでにボスを送り出してここへ迎え入れるに相応しい実力を持った者を探す。
森の声の発信源は中層だった、そう考えると浅層の必要性とは本来野生動物を呼ぶための場所だろう、次の魔物を育てるために必要となる存在だ、だが狙ってなのか想定外のことなのか森の侵食は早くなり、浅層が広がり魔物も増加した、結果として当然のことながら氾濫の規模も大きくなった。
そのせいで周辺の人類は被害を受け、氾濫への対処と森の拡がりを抑えることで精一杯になった、森に怯えつつ、森を伐採しないと生き残れない、そんな歪な生存環境が誕生した。
ここに迎え入れた存在が俺達に何をさせたいのかはまだ謎だが、だいたいそんな状況なのではないだろうか。
(ここが何者かの用意した庭……ですか、森と何等変わりがないように見えますが、そもそもあの門と扉が異常だったという事を忘れそうになります)
『俺の推測でしか無いからこれが正しいというわけでも無いさ、ただこう思えばいろんな事に辻褄が合うなと思っただけだよ』
(いえ私も知識は得てはいますが、全くそのような事思い付きもしませんでしたので、やはり御主人様は凄い方です)
素直なアイビーの賞賛が心に痛い、前世の知識がないと俺だって思いつかなかっただろうし、利用したこの世界の知識も白様から貰ったもので実力とはとても言えたものではない、俺がこの世界で頑張ったのは魔手の技術の使い方とその応用だけだ、結果俺は植物から逸脱している。
どんなに周りが凄いと言っても全て貰い物のハリボテでしか無い、中身はただノリのいいだけのお調子者のおっさんだというのに、俺から見ればアイビーのほうがよっぽど凄い存在なんだが、これを口に出すと不毛な譲り合いに発展するので止めておく。
さて、ここが箱庭や迷宮だとしても、どこかにあの門と扉を制御する核なり制御室なり管理人室なりが存在してると思うんだが、どこに在って何が待っているのやら。
案内表示とか何処かにないものだろうかね?
【魔物迷宮】をダンジョンと訳すのは本来間違いではありますが、この世界でそのような意味の言葉を翻訳さんが主人公に理解しやすく(?)変換しているという事でご理解下さい。
今後もこういったパターンはあると思います。




