その浪漫は本当に必要だったのか疑問です。
浪漫です、恐らく。
これはフィールド選択のミスだ、間違いない。
森であればあの巨体の機動性を殺せると考えた、俺の移動も容易いと、だが浅層の樹程度ではあの魔獣を止められない、既に何本か俺がカバーに使った樹が腕の一振りや体当たりでへし折られてしまった、このままでは森がグチャグチャだ、燃える以前に更地にされてしまう、完全に俺の選択ミスだった。
こうなったら平原に飛び出すしか無い、戦闘方法も切り替えるしか無いだろう。
こういう相手だと本気でやらないとまずいけど、あの戦闘スタイルはあんまり見られたくないんだよなあ……
朴~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
森から氾濫した魔物達と並走する、こちらを同類と見ているのか攻撃を受けることはない、魔物達は森に近い位置に集まっている人種の一群に向かっているようだ、遠目に簡易的な柵を造り背後に武装した人種の姿が多数確認できる、どうやら御主人様からの警告は上手く通じていたようだ。
私が命じられているのは殲滅ではなく足止め、ならば私はこの辺りで先を征く小物よりやや後方からくる中層の魔物をなんとかしよう、この距離ならば人側からも私の存在はバレにくいだろう。
近くの茂みに飛び込み姿を解除する、そのまま周辺へと拡がる、私の能力【庭園】は一定範囲内に私という存在を拡張させる能力だ、以前は御主人様を中心として拡がっていたが更に広範囲に、そして自在に展開できるようになった、これに【隠蔽】と【偽装】を施せば簡単に見破れる者は居なくなる、とは先程御主人様の思考から読み取れた使用法だ。
とりあえず上を通りかかる魔物の脚を絡め取り、【硬化】し槍のようになった蔦を伸ばして止めを刺す、私は御主人様のように自在に術を使うことは出来ないがあれを見ていたおかげでこの規模の相手でも真似て対処する事が出来る、そのまま引き倒して更に複数の蔦を刺す、魔石を抜き取り【ストレージ】へと仕舞う役、魔石の回収が間に合わない大型は蔦で取り込み死体ごと仕舞う、死体から吸収できる物を吸収する役、今や拡がる全てが私であり、全てが私の手だ、力を得た私は更に展開する範囲を拡げて獲物を増やしてゆく、残った死体は放置しておいても他の魔物に踏まれ蹴飛ばされ潰されていく。
全ての魔物を私が処理する必要はない、適度に間引き人側へも流す、人側は前進させずにあの場で魔物と戦ってもらわねばならない、ジリジリとなら後退しても構わない、散り散りになってしまうような敗走では魔物のひきつけ役が居なくなってしまう、そうなってしまった時の魔物の動きが読めない、私の役目は足止め、誰にも御主人様の戦いを邪魔させる訳にはいかないのだから。
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木立の中を右へ左へと魔手を使い並行移動していく、だがこの移動法は魔手が見えてしまうせいで移動先が読まれてしまうという欠点がある、奴もどうやらそこに気がついたようだ、移動先の樹を狙って攻撃を仕掛け始めている。
ならばと伸ばす魔手をさらに増やす、より変則的に、途中で引き戻すような動きも加える、全方向が見えているから安全な方向を選んで飛べるが生身だったら骨が耐えきれないなこの動き。
単体の魔法は簡単にかわされる、範囲魔法も弱いものなら打ち消され、土槍などは樹を蹴って三角跳びの要領で逃げられた、思っていたより器用だ、そして素早い、フィールドを変えよう、もう少しで森の出口だ、そう思ったのが気の緩みだったのか、魔手を伸ばす間に距離を詰められた、眼の前すぐ近くに奴の紅い眼と顎が近づいていた。
<金剛>!、身体の防御力を上げる魔法、を咄嗟に唱える、GAA!と言う咆哮とともに全身に衝撃、樹の身体なので痛みはないがどうやら噛みつかれたらしい、だが見る限り牙は完全には刺さっていない、なんとか魔法で防げているようだ。
(ミシッミシミシ、メリッ、ビシッ!)
やばいっなんか軋んだ!? <金剛>で牙が刺さらないだけで顎の圧力に負けそうになってるのか、ならば<鋼身>!身体の内部を強化する魔法、ただこの魔法を作った後自分の内部という存在に疑問を持った、<金剛>!重ねがけしても効果の重複はないが効果時間の延長くらいは出来る。
【ストレージ】から杭を作った時に入れておいた枝を取り出し、噛み付いている方の頭の両眼を抉る、早く離脱しないとまずい。
突然目を潰されて狂乱状態になる魔獣、だがそれでも俺を放そうとしない、頸を振り回し、走り回っては周囲の樹にぶつけ、引摺り振り回し、なんとか俺を倒そうとしている。
俺も顎の力に負けてしまって折られたらどうなるか解らない、最悪死ぬかもしれない、吸収魔手を奴の胸に突き刺して魔力を吸い取……ん?なんだこれ?
『いい加減にしやがれこの野郎!』
潰した左眼にそのまま<閃光爆雷>、この距離なら耳と反対側の無傷な顔にも影響はあるだろう、俺もヤバいが今は緊急だ、感覚を切り防御に集中して気を張って耐える、空気振動の衝撃と魔力振動の酷いめまいや酩酊感にも似た感覚が襲う、雷撃は俺からすれば冬場の静電気程度だ、感覚を戻す、地面に投げ出され何度も転がる、葉が地面に擦られて毟られていく、なんとか開放されたらしい。
魔獣の方も少しふらついているようだが立ち直ったようだ、無事な方の頭が吐息を吐いてくる、俺は魔手を使いつつ距離を取るが炎が掠める、残っていた葉が熱に耐えきれずに遂に燃えだす、仕方ないので全部落葉させる、同時にカプサイシンの実を生み出して熟成、奴の足元で弾けるように投擲、流石にアレには耐えられないのか魔獣が飛び退る、これで仕切り直しだ。
身体を起こす、ざっと身体のチェックをする、軋み音を上げはしたが外見上はなんともない、これならまだなんとかなりそうだ、葉は全滅だ、まあこれはすぐに生やせるから問題ないし今はこっちのほうが煩くなくていい、つまりは戦闘続行可能だ。
奴が引き摺り回したせいでいつのまにか森から出てしまっている、つまりはここから先俺は目立つような土の術を制限しながら戦う必要があるということだ、既に平原上で樹を使った回避は不可能となった、力や瞬発力を活かした戦闘は奴が得意とするところだろう、ただし奴も右の頭の眼は両方とも潰されている。
それでもまだ奴の方が有利だ。
ただしそれは俺がただ魔法を使うだけの樹の魔物であったなら、の話だが。
平原に出たのならそれなりの戦いをする、少々計算は狂ったがこちらもその予定だったのだ。
【ストレージ】を開き、刀を抜くように杭を2本ずつ計4本を取り出して魔手で持つ、さあ始めよう、第2ラウンドだ。
魔獣が一気に距離を詰めて吐息を吐きかける、森の中では狭いから逃げるしか無かった、今は杭を回転させて防ぐ、魔手は関節も筋肉も関係がないからスムーズだ、左右から杭を棍棒のように振って殴り掛かる、飛び退る様に魔獣が回避、着地した瞬間を狙って上段から振り降ろされた杭が魔獣を打ち付ける。
奴の俊敏性を殺すようにこちらは手数で叩きつける、魔手なら長さも自在だ、ただし第三者に目撃された時の俺の精神へのダメージは計り知れない。
だってこの姿って絶対樹じゃないだろう!
次々と振るわれる杭を魔獣が右へ左へと軽やかにステップするように回避する、片方の頭の眼は潰されているがもう片方の頭と高さを変えることで視界を補っているようだ、回避を重ねては吐息を吐くがこれは回転する杭によってことごとく阻まれる、ステップした先へ穿つように振り下ろされる杭を素早く回避する、そこへ再度杭が振り下ろされるがこれも飛び退って回避する、回避された杭は加速も加わり地面を穿ち簡単に抜けそうにはない、魔手は杭を掴んで両側に伸ばされたまま、真正面には俺、遠距離では対処のしようがなかった魔獣はこれを隙と見たのか体当たりをしかけようと加速する、だがこれこそが俺の狙い、残念ながらこの状況に誘い込んだのは俺の方だ。
<鋼身><金剛>、魔手を一気に縮めて杭に身体を引き寄せこちらも加速する、奴の顔面めがけて伸ばした根からの俺式破城槌をぶちかます、みしりという手応え、相手の質量でこちらが跳ね飛ばされるが魔手で魔獣の脚を掴み距離を稼がれるのを防ぐ、痛みを感じ難い身体と全視界、そして魔手があってこその合わせ技だ。
『掴んだぜ犬っころ!』
魔手を頭上で渦を巻くように重ねる、逆さまの傘のような形、再度身体を魔獣めがけて引き寄せる、奴もそれに気がついたのか右の頭が吐息で対抗する、根から炎に包まれるが短時間だ、 俺式破城槌からの着弾と同時に俺の頭、魔手の傘の中で魔法を発動<爆砕気>、本来なら圧縮した空気を爆発させて一定範囲に音と高圧力のダメージを与える魔法、だが魔手の受け皿内でこれが発動し一方向への運動エネルギーへと変換される、俺式破城槌改、俺式爆砕破城槌、うん浪漫過ぎる、魔手越しでも腕と頭と耳が痛い。
だがやった甲斐はあった、俺の身体は吐息の為に開いていた顎を裂き奴の前脚を蹴り抜いた、追撃! 避けた顎に黒魔手を突っ込み再び<爆砕気>、魔手を伸ばして少し距離を取る、同時に目の前で爆散する奴の頭、これで頭1つだ、だがまだ油断できない、奴はまだ動ける筈なのだ。
噛み付かれた時に俺の感知が拾った感覚、2つの心臓の鼓動とそれぞれの頭に呼応した二対の肺による呼吸音、それこそが奴のあの俊敏さの秘密だ。
溜めもなく吐息を吐きすぐに全力移動ができる、あの巨体で驚くほどの瞬発力を持つ、これらは奴の2つの頭の処理能力と2頭分存在する肺と心臓の送り出す酸素と血液のなせる技だった、だがこれで1つは潰した、このまま放っておいても出血で長くはもたない筈だ、しかし今回は面倒なことに赤の戦神の試しだ、完全勝利のほうがいいだろう、まだ俺の使う赤の力も見せていない。
奴が立ち上がる、もう満身創痍だ、片方の頭は吹き飛び、前脚も片方が変な方向を向いている、出血は止まらず息も荒い、それでもまだこちらを見る眼だけは闘志を失っていない。
考えてみればこいつも哀れだ、赤の神の介入がなければこの場に現れてはいなかったかもしれない、とは言えこれも運命だと思おう、俺だってヌシ様の介入が無ければここにいたりしないんだし、もう終わらせてやろう。
『アイビー、聞こえるかい? 撤収だ、森の中で合流しよう、後は人側に任せよう』
(畏まりました、一応魔石を抜いていない死体を回収しておきます)
『あー森の穴の中にその手の死体も生きてる奴も一杯ありそうだ』
(では先に行ってそちらの処理をしておきます)
『お願いするよ、こっちも終わらせて合流する』
魔獣、いや【炎獄ノ獣】はもう吐息さえ吐けないようだ、動いている内蔵が一頭分になったせいだろう、両方が動いていてもろくに制御できていないだろう、あの巨体だし身体を動かすので精一杯かもしれない。
範囲魔法<幻夢>、範囲内に魔力を纏った濃霧を生み出して内部に居る者の感覚を狂わせる、を展開し目撃者を減らす。
『おつかれさんだ、ワン公』
後方へ移動しながら範囲殲滅魔法<大火柱>、イメージの仕方が悪かったせいで単体指定なのに範囲殲滅型の魔法となった直径10メートルの炎の柱、イメージは太陽フレアだ、魔力を馬鹿食いする上に範囲外に出た俺の身体でもめっちゃ熱い、やり過ぎだとは思うが、まあ神に弄ばれた奴への手向けだ。
ついでに罠掘りの時に手に入れた加工前の樹も根と含めて転がしておく、森の魔獣と謎の樹はこの炎で死ぬのだ、奴の近くにあった杭はきっと跡形もないだろう。
さあ森へ帰ろう。
ラスト部分は書き直すかも。




