戦いは数だと言いますがちょっと多すぎます。
森は氾濫した。
ちょっと間引きしますね?
振動感知が徐々に大きくなる地面の揺れを伝えてくる、間違いなくこっちに向かってきているようだ。
『アイビー、あの中にはボス的な何かが居る、そいつは赤の神が俺を試す為に用意したものだ、だから奴は俺が相手する、アイビーは』
(では私は御主人様の神聖なる戦いを、他の有象無象が邪魔しないよう処理いたしましょう)
やや被り気味に告げてくる、やはりアイビーは出来る蔦だ、こちらで考えるより早く頼もうとしていた事の返答を導き出す、言ってる事がやや大袈裟だが。
『よろしく頼むよ、でも無理はしないように、あと連中がこちらを無視して街の方に向かうようなら正面からじゃなくていいから足止めをお願いできるかい? 全部じゃなくていいから』
(おまかせください、ただもし森の外に御主人様が出られるようであれば、その時は土の術は控えられたほうがよろしいかもしれません)
『なるほど、声の主と結び付けられ難くするためだね』
(はい、御主人様の術はかなり特殊ですので、同じ術を見られればあの人種じゃなくとも話を聞いた者ならそう思うかと)
『わかった、でも他の術もかなり特殊なんだよね……まあその時は何か考えるか』
アイビーの頭のキレが凄い、これは俺ももっと頑張らないと見限られてしまいそうだ。
だがまずは相手を釣るための一撃だ、こちらに気がついてもらわないといけない、周囲の取り巻きを罠に嵌める為にも。
最新型の黒い触手を展開する、魔力操作に特化した結果何故かこうなった、推測だが黒い子様の影響だろう、肩から6本腰から4本、俺を中心として扇状に先端が向くように配置、敵がまだ見えていないから当たればラッキー程度だが一つでも気付かれれば問題ないだろう。
コンソールを表示、触手を起点に放射、威力は最大、使う魔法は<石弾>、3センチほどの石の礫を飛ばす、ただし弾には木ネジ風の荒いねじ切りを施し、鋭い回転を加えた森の樹も貫通できる仕様だ、当たった樹が傷むかもしれないが燃えるよりはマシだろう、できるだけ視界内の射線から樹をずらして、発射、当たったのかもわからないが今はこれでいい、次を用意する。
感知範囲に魔物の陰、どうやら上手く釣れたらしい、賑やかになってきた、効果範囲に入ったものから順に<閃光爆雷>の魔法を飛ばす。
<閃光爆雷>、フラッシュバンとスタングレネードを混ぜたような魔法だ、不可視の小さな空気玉として実体化し一定時間待機状態で浮遊するソレに触れると強烈な閃光と音を発する、その際範囲内に急激な空気と魔力の振動を行い、脳と感覚器官をシェイクした後弱めの範囲雷撃を撒き散らして消える、一定範囲内の魔物を無力化するがゴブ程度なら雷撃で死滅する、これ至近距離だと俺でも一瞬探知を全部無効化されて気絶できるという優れものだが、先日の遭遇を見るに人種相手でも使うと非殺傷では済まない気がする、後ろから狂乱した魔物が押し寄せている所に少しでもボーッとしてたら跳ね飛ばされて終わりだ。
先頭を走ってくるのは【魔犬】、間に混ざっているのは野犬にも見えるが森に住む【緑狼】だ、走って来るが途中で支える地面が限界を超えて崩れ落ちる、残念ながらそこは落とし穴の上だ、後続も崩落に巻き込まれて落ちていく。
前方の大穴と異変に気が付いた【猪頭】と【小鬼】の混成軍団が落とし穴を躱して進み、ある程度進んだ所で地中へと飲み込まれていく、誰も落とし穴が一つだなんて言ってない、上からはテナガザルのような魔物【風刃猿】が折れた枝を掴んだまま落とし穴に落ちていく、腕についた刃のような部分も飛ぶのには役に立たなかったようだ、掴む枝が折れてしまえば連中は高速での移動はできない、地上に降りてしまえば脚は短いのでさほどの脅威ではないだろう。
突進してくる【暴風熊】も【森林鬼】も同様に穴の中だ、【暴風熊】はともかく【森林鬼】にも罠を作るような文化がないから仕方ないだろう、そんな文化があるようならとっくに森から出て狩猟生活をしていてもおかしくないはずだ。
しかし全く減ったような気がしない、全体数を見誤っていたようだ、あとは勝手に落ちてもらって少し森の出口側に後退しよう、前哨戦はこの位だ。
(御主人様、あの者達の様子を見るに痛みや恐怖を鈍らされている可能性があります)
『森の声の影響なのかボスのせいなのか、森の声の可能性の方が高いか、ドーム内にいた間に一種の暗示をかけてそういう部分を鈍化してるのかもしれないな』
(御主人様の用意された棘板に掛かった魔物が、傷を負いながらでもほぼ気にした様子もなく移動しています、あの様子では私の幻惑も効果は薄いでしょう)
そう言いながらしきりに蔦を伸ばし、周囲の樹の幹の少し高い位置に巻き付けては切り離していく。
巻かれた蔦からはアイビーの使う花が早くも可憐な蕾を見せている、何か仕掛ける気でいるのは間違いないだろう。
『そう言いながら何を仕掛けようとしてるんだい? その様子からして幻惑ではなさそうだけど』
(はい、単純ですが毒を撒こうかと、抵抗されてしまえばそこまでですが)
『なるほど、なら風を使って奥へ送ろうか、ついでに眼も潰すとしよう』
カプサイシンの実を生み出しては即熟成させて放り投げる、後は森の奥に向かって軽く渦を巻くように風を送り込むだけでいい、どんなに精神を鈍化されていようと無防備な眼や粘膜を焼かれるのはダメージになるだろう、そこにアイビーの毒が加われば更に効果も上がる筈だ、毒の扱いに関しては間違いなくアイビーの方が俺より上だ。
コンソールを開き効果範囲内、森の奥の方に向かってゆっくりとした空気の渦を作り出す、最弱威力の<旋風>で十分だ。
移動しながら<閃光爆雷>もできるだけ仕掛けていく、威力は低いが森の浅層であれば人側にも音が届くかもしれない、もし警戒してるなら偵察も出しているだろう。
しかし今更ながらなんでこんな事になってるんだかだ、本来の森の氾濫なら無視してもいいはずだし、森への影響を考えなければ大規模魔法だって考案してある、変に俺が人の精神を持つ樹なせいでどっちも無視できなくなった、しかも赤い神の介入によってボス回避不可のイベントまで組まれてしまった。
ここで選択間違うと神と敵対とか、人側と敵対とか、どっちに転んでも碌な事にならない、まだろくにこの森の事すら判ってないのに、こんなイベントやるんならもっと後にしてほしかったよ。
ちょっと赤い神には知ってもらう必要があるだろう、俺が赤の力を使う事の意味を、なんで森で使わないかを、いや普通森の中で火を使うとか焚き火くらいだし、それで嫉妬されるってのもどうなのよって話ではあるが、血気盛んな戦神みたいだし黄色様の話からも多分深くは考えていないような気がする。
連続した炸裂音、森の奥のほうが白く輝く、魔法にかかった奴が現れたようだ、進行方向の予測は出来た、さて穴掘りだ。
<土操作>、その名の通り地面を弄るための魔法だ、細かい操作には向いていないがこういった時の溝掘りや大規模穴掘りには十分使える、別に塞ぎもしない溝、幅5メートル深さ10メートル長さはよく把握していない、掘った土は反対側で3メートルほどの高さの壁にする、後で埋め戻すのに使おう、樹まで巻き込んで壁の中だが浅層だしまあいいだろう、森が穴だらけで景観台無しだ、間違いなく俺のせいだけど。
魔物が後ろから押されて面白いように落ちていく、深さがそんなに無いからすぐ大型の魔物で埋まるだろう、取り合えず煩いから穴の底から<土槍>で貫いていく、ついでに吸収魔手も伸ばして魔力を頂戴する、補給は大事だ、すっかり忘れてたけどこれ魔石の回収とかどうしようか?
どうでもいいことを悩んでいたら感知に一際大きな魔物が迫ってくる影が映る、ようやくお出ましのようだ。
『アイビー、どうやらボスのお出ましのようだ、あちらをお願い』
(畏まりました、では行ってまいります)
俺に絡んでいた蔦がずるりと全部落ちて傍らに這っていく、さっき見せてもらった時はタンブル・ウィードのような姿だったが今度は【緑狼】を真似たようだ、尻尾の部分が蔦の集合体な事と眼が閉じたようになっている所以外違和感はない、よく見ると耳や首周りに葉らしき名残が見えるが【擬態】能力恐るべしである。
(では御主人様、ご武運を)
狼の姿で軽く頭を下げて一礼すると素早く駆け出す、走りながら身体が一回り大きくなった気がする、あれなら任せておいて良さそうだ。
まだ姿の見えないボスに向けて挨拶代わりにまずは<石弾>を1発、移動速度からして二足歩行ではなさそうだ、振動も四足動物のそれだと伝えている、だが正面に高熱源体は見えない、ドーム内で静かだった間に最終的に外に熱を漏らさないような変化をしたか進化でもしたかだろう。
姿が見える、ドーベルマンの様に真っ黒で艶のある短い毛並み、犬のような頭が2つ、その眼は森の中でも存在を示すかのように紅く輝いている、口から漏れる炎、鑑定すると【炎獄ノ獣】とでた、こちらの世界のヘルハウンドはこんな姿らしい、【魔犬】では認めてもらえなかったようだ、黒妖犬表記ではないからただの黒い犬という扱いなんだろうか? 未だ隠れて姿を見せていない翻訳能力さんに意思があったら基準を聞いてみたい所だ、ついでになぜ魔物や俺の作った魔法までが漢字カナ表記なのかも、中2的なアレをこじらせちゃってるんだろうか?
こちらを確認したのかどんどんと接近してくる、火炎弾とか攻撃術を飛ばしてこない辺り遠距離攻撃能力は無いようだ、だとしたら口から炎が漏れてるし使ってくるのはアレしか無いだろう、後は顎の力とその大きさからの力そして獣の瞬発力が武器といったところか、己の力を過信しているのか真っ直ぐ向かってくる辺り、あまり頭はよくなさそうにも見えるがどうだろうか。
あっという間に溝を飛び越えて壁の上へ、ボスだけあって流石にでかい、頭から尻尾の付け根までで5メートルはあるだろうか?更に何故かここだけフサフサな毛をした尻尾が1メートルほど、二つの頭の位置は俺を見下ろすような形だ。
魔手を伸ばして背後の森へ高速移動、壁の上では状況が不利だ、離れつつ<氷弾>、石弾の氷版、を放つ、いとも簡単にかわされた、やはりあの瞬発力は侮れないようだ。
樹の多い森では奴の巨体は不利、とはいえあの巨体の魔獣がぶつかってきたらどうなるやらだ、細めの樹では耐えられないかもしれない、俺だって樹としてみたらまだか弱いサイズだ、試してみたくはない。
更には奴が攻撃に使うと思われるあの炎の吐息、到達距離や威力によっては森を焼くおそれがある、ドーム内にいたときのように全身炎並の温度ではないのがややマシか。
範囲魔法<吹雪>、ブリザードといったほうが強い魔法に聞こえるが効果は同じだった、範囲内に氷弾級の氷の礫が吹き荒れる、ただしこちらの氷の礫はねじ切りもないし回転もしないので威力的には弱い。
ここで奴が思いがけない行動に出る、片方の頭が炎の吐息を吐いてこちらの<吹雪>を打ち消した、吐息の炎はそのままこちらへと襲いかかる、魔手を使い斜め後方へ飛ぶと同時に<土壁>で炎を遮る、だが直後に奴が体当たりをしてすぐに壁は壊される。
あの炎の吐息は侮れない、ボスだけあって戦いのセンスもあるようだ、あの巨体を活かした体当たりも思った以上に威力があるようだ。
まずい、これはフィールド選択を間違ったかもしれない。
魔手を使った高速回避は直立したままです。
不気味!




