その時彼女達は驚愕していた。
あの時渡した魔石にはどんな事が封じられていたのか?
そしてその時主人公は!
それだけなお話。
森の囁きに耐えてた奴がいた、どうやらそいつも反撃してこない魔物を餌として襲っていたようだ、今は横取りされると思われたのか俺に攻撃をしかけてきている。
【装甲大百足】ようするにでかくて硬いムカデだ、3メートル位だろうか、鎧を着込んだみたいに鋭いトゲのある硬い外殻に覆われてわさわさと動いている、牙のあるでかい顎からは涎に見えなくもないが毒液が滴っている、どこかの戦国武将が見たら喜んだかもしれない。
何度か脚を噛まれているが俺って樹だし、牙が食い込んだがこの程度の毒とかは効かないようだ、スタイルは格好いいし脚がいっぱいなとこは仲間意識を覚えないでもないが、攻撃してきた以上こいつは敵だ、倒そう。
とは言えこいつは名前の示す通り硬い、魔手で殴るくらいじゃあまり効いてないっぽい、ただ餌にするだけならこの位握って吸ってしまえばなんとかなるんだが、戦闘訓練のつもりであえてその戦法は封じている、縛りプレイだ、だんじてSMではない。
さてどう攻略しようか……
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眼前に広がる光景に目を奪われる、私達はついさっきまで傭兵組合の会議室にいたはずだ、しかし例の魔石を起動した途端その光景は一変した。
今ここに広がる光景は一面の森、しかもこの暗さと森の密度は大森林の奥地だろう、あの<徘徊者>なる声の主が見てきたという光景に違いない、手には会議室のテーブルの触れる感触がある、それなのに同じ室内に居た筈の他の人の姿は見えない、見廻す周囲も、上空さえも全て森の中の光景、まるで本物の森の中にいるような感覚に襲われる、だが本当に森の中に飛ばされたわけではないようだ。
「……なんだというのだこれは!」
「恐らくはこれこそが報告にあった声の主が見てきたという光景ではないかと」
「静かに、刺激は強いが特に害はない、今はこれを確認することだよ」
姿は見えないが会議室に集まった者達の声がする、皆同じ感覚を味わっているのだろう、少し静かにしてもらいたい、こういう貴重な魔道具の起動の場に立ち会う機会は滅多に無いというのに。
薄靄の漂う森の奥、陽射しはあるが僅かなもの、しかも靄を通じて一部分だけを照らすように差し込んでいるため周囲が余計に暗く見える。
そんな中で視線の主がそれを注視しているのだろう、正面の地面に横たわる巨大な魔物、それに群がり肉を貪る大きな犬のような魔物達の群。
「あれは…【暴風熊】を【魔犬】の群れが襲ったのか……」
誰かの声が呟く、どちらも森の氾濫時によく確認される凶悪な魔物だ。
【魔犬】の群れが突然顔を上げ周囲の音を探るように耳をそばだてる、その視線の先、森の奥から棍棒を持った二足の魔物が複数接近してくる、観察者の視線もそちらを向く、【猪頭】だ、そして振り返った背後からは【森林鬼】の丸みを帯びた巨体がこちらも複数接近しているのが見える、血の匂いに誘われたのかどちらも鼻をひくつかせ、涎を垂らしている、【森林鬼】が他に接近する存在に気がついたのか両手を広げ威嚇と思われる咆哮をあげる。
「…っ!」
この場にいる者達が息を呑むのが判る、音はなく、記録なのだと解っていてもこの光景には恐怖心が煽られる、実際に音はなくとも先程の咆哮の幻聴が聞こえてきそうなほどに。
視界が暗転する、既に【魔犬】も【猪頭】も地面に倒れ肉塊となってしまっている、【森林鬼】がそれを引き千切り餌にしようとしている、だがそれは長く持たない、何があったのかその場に立ち尽くし、ギラギラとしていた眼からは輝きが失われていく。
またも暗転、薄暗い森の中を多数の魔物が歩いている、先程は互いに戦っていた筈の種類の違う多数の魔物が互いに接近しても反応を見せず、一方向に向かって歩き続ける、観察者は正面から横、やがて背後へと回り込みそれを見つめる、薄暗い森の中を音もなく進む魔物達の行進はあまりにも異様な光景。
森を進んでいた魔物達は森の一箇所に集まり、動きを止めて立ち尽くす、その目にはやはり輝きがなく、互いに争う様子もない、だがその光景こそがその場の異常さを伝える、そして魔物は更に集まり続ける、観察者はそれを見回しその場を後ずさるように後退する。
記録が終了する、周囲の光景は再びただの会議室へと戻っている、誰かが深く呼吸する音が聞こえこの場に漂っていた緊張感が和らぐのを感じる。
この場にいるのは<徘徊者>に遭遇した私達四人と、この傭兵組合の支部長とその護衛、鑑定官、専属の魔術士、そして衛兵の隊長と副長、魔術兵の計十二名だ。
その誰もが言葉もなく顔を青ざめさせている、無理もない、あの記録を確認している間は互いの姿が見えなかった、たった独りであの場に放置されているような心細さを感じたのだろう。
そうじゃなくともこんな魔道具など初めて体験するだろう。
「以上が魔石に封じられていた記録の全てだよ、他の魔石についても全てが同じ内容であったと私とそこの鑑定官が確認しておる」
組合専属の魔術士、ガレリアが卓上に置かれた魔石を眺めながら告げる、既に齢六十を越えていると聴くが未だ二十代のような姿の女性だ、魔術士は魔力を扱う影響で長寿がおおいという、彼女を見ると納得しない訳にはいかない、最も本人の前でその話題は厳禁らしいが。
組合の若い鑑定官が青い顔のまま頷いている、全部の確認に付き合わされたのだろう。
「組合長として言わせてもらう、俺はこの記録は本物じゃないかと思う、どうやって記録したかは知らねぇが魔物を知らなきゃあんなもんが造れるはずがねぇ、実は二日前、森で活動中の別の連中が同じような報告を上げてきている、魔物たちが自分達に目もくれずに森の奥に消えたそうだ、そしてこの事は過去の氾濫の兆候を記した記録とも一致する。 って事で組合は森に氾濫の恐れ有りと判断、それに備えた行動を開始する、いや既に周辺支部にはもう通達している。
こいつが偽物だったとしても森がおかしいのは既に確認された事実だ、警戒して悪い事は何もねぇ、逆にこの事を無視して油断してるところにあれだけの魔物が森の外に出てきたらこの街、いや下手すりゃ王都でもあぶねぇ、周辺の村なんざ軽く呑まれるぞ」
組合のハゲ、いや禿頭のベテラン傭兵でもあるモッド組合長が真面目な顔で告げる、私もその判断は正しいと思う、先程の記録の中の魔物はどれも森の奥地で確認されるものだ、それらが備えをしていない所を襲ってきた場合その被害は計り知れない。
衛兵の皆も真面目な顔で頷いている、街の防衛となれば外壁で魔物と戦うことになるのは彼らも同じだ。
「私も魔石の情報の真偽はともかくモッド組合長の意見に賛成だ、我々は領主様の命令が無ければ動けん、だがいつ声が掛かっても動けるように備えをはじめておくことにしよう、で、領主様に報告は?」
「既に森の危険度が上がったとは報告した、あとはここでの話し合いの結果を持ってガレリアが詳しい報告に出向くことになっとる、記録を見せるのに数人連れて行かなきゃならんからな」
誤算だったのはあの魔石の起動にかかる魔力だ、馬車の中で何度か起動しようと思ったが無理だった、組合に報告した結果判ったのは一度動かすのに二人から三人の術士の魔力が必要になるという事だった、内容を見れば納得ではあるのだが、あれは実際に目に見えているのではなく、あの記録を見ている者がその場にいると感じるように頭の中に伝える魔道具だ、目の前に自分の手を翳しても何も見えなかったから間違いないだろう、<徘徊者>が自分が見たものを記録したと言ったのがよく解る、どのようにしてあんな物を創ったのか仕組みについては全く想像もつかないが、とんでもない術士の力だ。
「それでこれを渡したと思われる<徘徊者>なる[魔術士]ですが、何か情報は?」
これについては実際に遭遇した私が答えることになっている、高度な土の術を使いこなし、このような魔道具を生み出すだけの技術もある、と既に報告書で判っている情報を述べていく、各派閥に組合から問い合わせを行ったがそれらしい該当者はなかった、今の時点では全く正体が不明の[魔術士]だとしか言えない、そう締めくくって報告を終える。
術者に対する情報の少なさ、それこそがこの情報の信憑性を問われる所だ。
この情報を持ち帰ったのが組合の傭兵であるならば問題もなかっただろう、だがこの情報は正体不明の外部の者からもたらされた物だ。
どこかの国の間者では無いか、この<徘徊者>こそが森の異変の原因ではないか、森の異変にかこつけて魔道具を売り込みたい商会の手のものではないか等、正体が判らないだけに疑い出せばキリがないのだ。
だが森で【小鬼】に襲われたとき我々が助けられたのは事実だし、森の異常についても混乱を狙うのならば黙っていればいいだけだ、国力を削ぐ為でも同じだ、森が氾濫すれば国は軍備を整える以上に疲弊する事になる、<徘徊者>が氾濫の犯人だとしたら? それこそ意味がわからない、森を氾濫させることになんの意味があるというのか、過去に氾濫を外部に伝えてきた魔物の首領級がいたという話もない。
なによりも<徘徊者>自身、この後何が起こるかは判らないと言っていた、判断はこちらに任せるとも、だとすれば態々嘘の情報をこんな高価な魔道具を渡してまで伝える必要はないと思える。
結局<徘徊者>については何も判らないまま、ただ森の氾濫が近いうちに発生するのは間違いなさそうだと言う事で報告会は終了した。
「シリカ、あの魔石については1つを組合、残りは領主様に渡すということでいいのかい?」
ガレリアが聞いてくる、魔術士として研究対象にしないのかと言いたいのだろう、気持ちは解る、私だって初めて見る魔道具だ。
「あれは私が貰った物ではなく、森の異変の説明に使えば便利だろうと<徘徊者>から預かった物だと思っている、ならばあれを有効活用できる所に渡すのは当然の事、なによりあんな物を個人で持っていると知られたらこれから先自分の命が危ない、なら全部手放したほうがいい。 どう分けるかはお任せする」
あの魔道具は危険すぎる、使われている術も仕組みも何もわからないのに価値だけは十分以上にある、個人で持っていると知られれば貴族や他の魔術士の興味や嫉妬を買うだろう、面倒事になる想像しかできない。
組合や領主なら問題ない、組合に敵対するような馬鹿はまずいない、加入している全ての傭兵を敵に回すようなものだ、領主様は現王の王弟であり対大森林の最前線にあって実力も認められる公爵だ、中央のボンクラ貴族では近付くことすら出来まい。
「フム、欲のない子だね、あの魔石は正直価値がわからん、王都の好事家にでも売ればかなりの値がつくだろうけどね、まあ領主様に渡しておけば1つはこの領に、後の2つが王家に行くことになるだろうさ」
「妥当なところでしょう、2つあればあの魔石の研究も王家主導で始まるかもしれない、個人が持つより意味がある」
「領主様にもお伝えしとくよ、ああ、魔石の分は組合から追加で報酬が出てる、下で受け取っておきな」
礼を言って別れる、森の氾濫は思ったより近そうだ、物資の値段が上る前に薬や少し上級の触媒を買い足しておかないといけないだろう、追加報酬が出るのはいいが物資の値段が上がってしまっては有り難みも減ってしまう、追加報酬の分飲んで終わりそうなうちの男衆にも酒の量を減らして道具代に回すよう言っておかねば、セリのほうがよっぽど傭兵らしい、全くどっちが歳上なんだか解らない、私はあいつらの母親か!
レ『ヨシ、獲ったどー!』
ア(…Zzz)
オーガの咆哮はプレデターの咆哮のイメージで。




