その時彼女は夢を見ている。
非常に読みづらい仕様となっております。
私はいま夢を見ている、一番古い記憶から順に。
まだ私が私ではない、うっすらとした意識とも呼べないようなモノでしか無かった頃、私の一番古い記憶を辿っていくとそこになる。
後に判ったことだが私は俗に言う<変わりモノ>であったらしい、魔力の濃い場所に時折誕生する変異体、通常とは異なる変化や能力を見せる個体、私はまさにそれであった。
と言っても特に何かの能力があったわけではない、あったのはうっすらとした意識、今日は日差しが暖かいとか流れ込んでくる何かが濃いなとか、その程度を漠然と思うだけの意識しか無かった私は、その日も宿り主の樹に巻き付いたままぼんやりと過ごしていた。
だがその日を境に私の世界が変わることになった。
突然宿り主に被さる影、何かが日を遮ったのだと思う間もなく私は宿り主で有る樹から引き剥がされた、途中から引き千切られるではなく、根まで一緒に引き剥がされたのは今思えば幸運だったのだろう。
影の主は私を自分に巻き付けた、影の主もまた樹だったが何かを伸ばし器用に全身に巻き付けていた、そこには既に他の蔦が巻かれていたが影の主である樹は別に気にしていないようだった。
その樹は移動していた、根を器用に使って倒れないように移動し、【小鬼】と呼ばれる、とは後で知った事だが、二足歩行の魔物を狩っていた。
魔物を倒した後、気がつくと一緒に巻かれていた蔦が力を失っているのに気がついた、根を引き剥がされているのだからそんなに長く持つはずはない、それは自分でもなんとなく理解できた、だったら自分もそうなるのだろうか? 突然私の中に何かが膨れ上がった、自分が消えるかもしれない、その事に対する恐怖、初めて感じた自己の消滅と言う事への恐怖だった。
なんとかしたい、消えたくない、その一心だったと思う、私は根を影の主である樹へと張り付かせた、そしてその時初めて自分への違和感を感じた、自分は根を剥がされていたのにまだ葉が元気だったのだ、身体にいつも流れ込んでくる何かがいつもより遥かに濃く染み込んでくる。
この影の主に張り付いていれば消えずに済むかもしれない、だから離れたくない、私ははっきりとしない意識でそう考えた。
影の主は役目を終えたと思ったのか私を剥がそうとした、だが私は抵抗した、張り付かせていた根も使って必死に抵抗した、離れされたくなかった、自分が消えてしまうのが怖く、なにより自分だけで萎びていくのが怖かった、その時外部から感じたのは困惑、だっただろうか、恐らくはこの影の主も私と同じ<変わりモノ>であるのだろう、この時初めて自分の身体が動かせる、ということに気がついた。
主となった樹に巻き付き、森を移動することが増えた、以前からすると考えられなかった事だ、更にはこの頃から意識がはっきりとしてきた、それと同時に身体を自在に動かせるようになっていった、幹から枝へと巻き付く位置を変えたりすることも出来るようになった。
主の樹は相変わらず森を移動しては【小鬼】を襲う、時には実を撒き、時には身体から何かを伸ばし、一方的に【小鬼】を狩り、その他の魔物も襲う、とても樹の行動ではないように思うが、そこで得られる何かは私にも流れ込んでくるので私としては何も言うことはなかった。
ある夜、主の樹が【小鬼】を襲った、私も見よう見まねで身体を伸ばし、倒れていた【小鬼】に巻きついて引き摺ってみた、主の樹はそれを見て最初は驚いたようだったが、すぐに褒めてくれた、私はそれがとても嬉しく、とても誇らしく思えた、そして私は褒めてもらう喜びという物を知った。
その日以降、主の樹は何かと声をかけてくれるようになり……
そして私は【アイビー】という名を頂いた。
変化は劇的だった、それまで身体を動かすしかできなかったぼんやりとした意識であったモノは名を頂いた途端に私へと変化した。
意識が私になった後、身体も変化しようとしていた、私はそこで主の為にもっと働けるよう願った、ただ寄生している蔦ではなく主を補佐し、主をお手伝いできる、そんな変化を望んだ。
願った価値はあったのだろう、それまでただ樹に寄生していただけの蔦が様々な能力を行使できるように変化した、更には自分の意志を主に伝えることが出来るようになった。
私が【アイビー】として自我を持ち、進化して解ったが主は樹とは思えない程いろんな事を知っていた、中には理解の及ばない事柄も多かったが、この世界に関する基本的な知識などは主から頂いた、私に使える様になるかは判らないが魔術や魔法に関する知識も得た。
そして知識を得たことで余計にはっきりする主の特殊さ、樹でありながら意識を持ち、博識であり、魔法を行使し、その魔法はこの世界の魔術とは一線を画す似て非なる魔法、敵対する魔物に一切の慈悲を与えず、その一方で森の安寧を考えてくださる慈悲深さ、私は本当に素晴らしい主を得た、このような主だからこそ私は今のように進化をする事が出来たのだと、私は私と成れたのだと、そう言い切れる。
主と意思の疎通を繰り返しているうちに、会話と言うものが話に上った、意思ある者同士が声を出して行う情報の伝達行為、だが私も主も植物であり口はなく、発声器官は存在しない、しかし主はこんな感じだとイメージを思念として伝えてくれた、私はそれを真似てみた、実際に声は出ていないが会話をするようなイメージで思念の伝達を行う方法、主にも口は無い筈なのにどこからそのイメージを得たのかわからない、だが私は練習した、主に伝えたい気持ちが出来た、なんとしても言葉としてお伝えしたい。
(ご主人様、私はアイビー、頂いた名に恥じぬ様、今後より一層お傍で励ませていただきます)
はじめは御主人様と普通に呼ぼうとした、だがあまりにも畏れ多い事のような気がした、だが私の宿主であるならやはりご主人様であろうと思い直した。
ご主人様と呼ぶことに対してまたも困惑はされたが、別にやめるように言われたことはなかった、困惑しながらも好きに呼ぶといいと言って頂けた。
ご主人様と会話を重ねる、言葉にせずともある程度の意思は伝えられる、逆にご主人様からの意思は頻繁にこちらに流れ込んでくる、こちらにも状況を説明して下さるように、時折私が思考に割り込むように口を挟んでもちゃんと受け応えをしていただける、その事がただ嬉しい。
今森には異変が起こっている、ご主人様は自身でなんとかなさるおつもりなのだろう、見つかったら敵対されるだろうと警戒されていた人種を助けてまで森の異変を伝えられていた、あの人種達がご主人様の想いを無駄にしなければいいが、もし想いを裏切っているようならば私が処断しよう、あの者達の名は一応記憶しておくべきだ。
ご主人様が翠の神に祝福された、それだけでなく誕生を歓迎するとまで、しかも話を聞けば既に白と黒の神もご主人様に個別に逢っているらしい、自分は神々から注目されているのだとご主人様は事も無げに笑いながら教えて下さった。
やはりこの御方は普通ではない、神々から注目されるなど普通はありえない、先程の気配の中でも平然としておられた、私はやはり幸せな蔦だ、だがこのままではいけない、ご主人様がここまでの存在であるなら、私もそれに相応しく有るべきだ、もっと力がほしい、ご主人様をお助けする為の力を、ご主人様の敵を駆逐できる力を、ご主人様の手を煩わせる事無く物事を上手く運べるような力を。
何時の日かご主人様はこの世界でも有数の存在となられるだろう、もしかすると王へとなられるかもしれない、どの様な事になったとしてもその時私は常に御側にあり続けたいと願う。
『アイビー、君に確認してもらいたい、君は今自分自身を鑑定できるかい?』
ご主人様の傍に傅く未来を夢想していたら声がかかって現実に引き戻された。
そういえば今まで自分を鑑定したことなど無い、自分は蔦でありご主人様に寄生することで繋がった存在で、付随する新しい器官のようなもの、そう思っていた。
だがそこで目の前に広がった物はそれ以上の事を私に告げていた。
(これは……)
<個体名【アイビー】が条件を満たしました、進化を促します>
私はいま夢を見ている、夢の様な状態の中でご主人様に抱かれる夢を見ている。
ああ、この御方こそが私の絶対の主、この先もこの御方とあり続けられる力を私は望む。
我が身が枯れ果て新たな芽として生まれようとも、この愛しき御方の下に再び傅ける様な力を。
私の意識は暗闇の縁へと沈んでいく。
<個体名【アイビー】の眷属化を申請……受理を確認…処理を開始…能力を一部初期化の後上位進化……変異を確認……処理を修正…進化完了まで……>
おや?アイビーさんの様子が…




