囁かれ続けるのも鬱陶しいものです。
大体の展開は予想されてた気が?
森に違和感、あまりにも静か過ぎる、まるで鳥や森の木々すら息を潜めているかのように。
そして森を漂う魔力に違和感、何時もの静かに漂うような感じではなく、一旦森の奥へと引き寄せられる様に動いた後、また押し戻される、その先で何かが呼吸しているかのように。
ゆっくりとした鼓動の様に脈動する森の奥から伝わる魔力の波動、一定のリズムで囁かれるような感覚、何かが呼んでいる、一瞬思考に靄がかかった様になったがすぐに復帰する、どうやら精神への何らかの攻撃を受けて俺の身体の方が自動的に対抗措置を施したらしい。
『アイビー、無事かい?』
(……御主人様の呼びかけのお陰でなんとか、アレは一体なんでしょう)
呼びかけはまだ続いている、定期的に、囁く様に。
<集え>
と、ただそれだけを囁き続ける。
俺やアイビーの様に抵抗出来なければ囁きに従うだけだろう、違和感も無く、思考に靄がかかった状態のまま、まるで暗示にでもかかったかの様に。
感じた魔力の規模を考えるとこの付近一帯は全てこの囁きの影響下だと思って間違いない、どの位が抵抗できたか判らないが嫌な予感がする、予感はするのだが、あの奥で一体なにが起こっているのか確認しないといけない気もしている。
好奇心はもちろんある、無いといったら嘘だ、だがそれ以外の部分がなにやら訴えている、俺は何が起こっているのかを知るべきだと。
幸いあれ以降は囁きが俺達に影響を与えてはいないらしい、ならば進める所まで進んでみようじゃないか、
危なかったら逃げるとしよう、命は大事だ。
出来る精一杯の警戒、【振動感知】と【魔力視】だけである、未だに他の探知系のスキルは覚えていない、覚えるんだろうか? 良く考えたらそれっぽい行動もしていない気がする。
聞き耳位はあっても良いかもしれないが、俺って耳無いんだよ、相変わらず何処で視て何処で聞いているのかわからない、アイビーも俺と同じように感覚でモノを視たり聞いたりしてるらしい、寄生してるから同じような能力に目覚めちゃったんだろうか? 謎である。
俺の横を、近くを、上空を、いろんな魔物が過ぎて往く、皆こちらを気にしないだけでなく、他の魔物同士でも気にしていない、向かう方向は皆同じ、あの脈動が感じられる方向だ。
【魔力視】に見えるのはあちこちの属性魔力と森に漂う濃淡のある魔力、普段ならそれだけだ、魔物がいればその身体にある魔力溜りが見える程度、だが今、眼前に見えているのは輝くような魔力の壁、見た目の形状的にはドームと言った方が良いかもしれない、森の一角を覆う様に、【魔力視】を切ってすらうっすらと存在が確認できるほどの魔力で包まれた巨大な空間が出来上がっていた。
ドームではなく球である、何故なら地中からも同種の魔力が感じられる、一定の区画を全てこの中に封じているのだろう、森を漂う魔力はこのドームに一旦吸収され吐き出されている様に見えるが特に変化がある様には見えない、魔力は自在に出入りしているが魔物達は次々に中へと入っていき、出てくる魔物はいない、開いてる場所に移動してはそのまま棒立ちになる、眼は開いているし呼吸もしているようなので死んでいるわけでは無いようだがそれっきり動く様子もない。
別種の魔物が一堂に集まり、威嚇の声すら聞こえない、皆が息を潜めて何かを待つかの様にただ立ち尽くす、それはあまりも不気味で異常過ぎる光景、ん?
俺は静かにその場を離れる、離れながら考える、先ほどの自分の思考に感じた僅かな違和感、思い出せ、俺は何を考えた?
囁きに従って<集った>魔物が集まり立ち尽くす光景、息を潜めて、何かを待つ様に、そう、何かを待っている、だとしたら何を待つ?
魔物達は囁きに従って集った、ならばその次も何かの囁きがある?
俺だってこんな状況に遭遇するのは初めてだが考える、必死に考える、頑張れ俺の脳細胞、俺の脳とか何処にあるか想像もつかないけど、結論として浮かぶいくつかの可能性。
一つ目、何モノかが魔物を集めて蠱毒と似た状況を作り出す、だがこれは魔物達が互いに潰し合わないと意味がない、ただ立ち尽くしているだけのあの状況とは合わないだろう。
二つ目、何モノかの餌として集められた、その可能性は無いとも言えない、魔物達の自意識が半ば奪われているであろう今の状況であればそれは可能だ、だがそれなら既に捕食が始まっていてもおかしくない、一旦保留だ。
三つ目、何処かに攻め込む為の戦力として集められた、それにしては雑多すぎるし集めた意思の存在も感じない、この森を今まで動き回っていて見かけた集団行動など精々が群単位だ、森の中に意思の統一された集団があるような気配も無いし、あんな集め方をしたら相手にもばれるだろう。
ここで思い浮かぶ更なる四つ目の可能性、三つ目の攻め込みの亜種、森の中の何処かではなく、森の外に攻め込む為に集められた、いわば森の氾濫を意図的に起こそうとする物、もしくは二つ目とも複合して森の氾濫を促す存在を呼ぶ為の生贄。
どれかが正解だとしても、現状でそうだと決定してしまうには決め手に欠ける。
さて、問題は誰がこんな事をしてるのか?
これは全く思いつかないし手がかりもない、俺が原因ではない、とは思う、原因だとしたらもっと早くこの事態が起こっていてもおかしくない。
では、この事件で森が荒れる、もしくは森が氾濫するという事態になった場合、俺にとってどう影響するんだろうか?
森が荒れてもやることは変わらないだろう、なんせ現状特に目的が無い、あえて言うなら自分の強化位か、なら森に乱世が訪れたとして自分もそこに踏み出すだけだろう、森でヒャッハーの再来だ、枝をモヒカン状にするべきだろうか。
森が氾濫する、これこそ全く影響が不明だ、外に人種の生活圏があるのは理解している、だが現状人種に俺が接触しても不幸な出来事しか起こらないとも思っている、最悪は森の氾濫の元凶扱いだ。
だが森に異常が起こって災害が起こるのなら何とか民間人の事前避難位は出来る様にしてやりたい、とも思うのだ。
まだ森が氾濫すると決まったわけでもないのだが、とりあえず森の近隣の状況も知らないと伝えるのも無理だ。
囁きの傍にいても気が散るだけだし、今の様子ではまだ少し余裕もありそうだ。
ここは一旦森の外縁部を確認しておくのも良いかも知れない、森の異常がどこまで影響しているかも判るかも知れないし。
途中で氾濫が起こったら?
襲われるようなら暴れるだけだ、何時もと何も変わらない。
今後の展開も予想されてる気が。
そう、ゴブが不幸に!




