慈悲はない、そう言っておいた筈なのです。
そう、慈悲はない、きっと救いもない。
今起こっている森の異変が森の内部だけならたいした問題では無いだろう、他の生物にとってどうなのかは知らないが、少なくとも俺には影響が少ない。
餌が減って、相手が手強くなる程度だ、その位嘲笑いながらでも生き残れなければここに放り込んだ誰かさんは納得しないだろう、俺無双系とか格闘系のゲームは苦手なんだけどな、爽快感のある大技ぶっ放すのは好きだけど。
森の外に影響があった場合、あの囁きが森の外まで届いている、とは思えない、未だに森で人に出会わないし、外縁部の魔物や影響を受けたらしい野生動物も例のドームに向かっているが、そこにも人らしき姿は無い。
ゴブは見かけ次第狩っている、当然だ、何が起こるにしろ奴らは俺にとって絶対の駆逐対象だ、黒の女神だって奴らに慈悲はないと言っている、女神のお墨付きだ。
森の雰囲気が少し変わる、異変の状態は変わらないが木々の間隔が広くなり、少し明るくなる、外縁部に近くなったのだろう、ここからは更に慎重さが求められる、魔物より人に見つかる方が厄介だ。
周囲を感知しつつ森の端と思われる地点へ、先には背の低い繁みを含んだ草原が拡がる、割と街道っぽい道が近いな、そして少し離れた繁みの位置にゴブと思われる集団の魔力、どうやら森から離れていたお蔭で囁きの影響を免れたようだ。
街道傍にいるって事は何かが通るのを知っていて襲おうとしてるんだろうか、既に誰かが襲われたのならあんな所に静かに隠れてはいないだろう。
始末するのは割と容易いが、少し気になる事もあるので放置して見学する、ついでにゴブに向かって自分の声で囁きを飛ばして見る。
『たたかえー たたかわなければいきのこれないぞー たたかうのだー』
(あの……一体何を?)
『なあに、俺のこの声がどの位届くのか試して見たくてね、あとはゴブがこっちの声を理解出来ているかどうかのテスト』
(声自体は意思疎通の能力なので何を言っているかは判るかも知れません、ですが距離がある場合は対象を目視する必要があるかと)
なるほど、森の囁きみたいな無差別の範囲的な物じゃなくターゲットの目視での指定が必要か、盲点だった。
『いつも何となくな感覚で魔法の範囲指定とか使っちゃってるからなあ』
(……普通はそれこそが在り得ない事だと思うのですが)
まあ実際は頭の中でゲーム画面みたいなのを想像して魔法の範囲指定やターゲット指定とかしてるんだけど、それはアイビーには話しても理解出来ないだろう、俺だって実際何となく出来たら良いな程度でやってみたら本当に出来ちゃっただけだし。
『こちらの魔法の感覚と言う物を基本的な知識でしか知らないからね、それより自分の魂に記憶されてる認識の方が優先されてるんだろうさ』
(魂、ですか)
静かに、ゆっくりと移動する、森の縁、少し出っ張った部分、左手に街道と右に【小鬼】が潜む繁みを目視出来そうな位置まで、俺の想像が正しければそろそろこの街道を何かが通りかかる筈だ。
振動感知より目視の方が早かった、まあ直線距離なら当然か、しかし平原の方は魔力が薄い、森の中ではこの辺でも薄靄位の魔力が漂っているのに平原にはほとんどそれがない、魔力持った存在が見つけやすいなこれ、俺なんかも外歩いてたら見つかりやすいんだろうけど、それは魔力よりもっと別な事が原因な気がする。
遠くから馬車だろうか? 馬2頭に牽かれた乗り物が移動してくる。
御者台に二人、後ろの荷台に五人、馬車の両横と後ろに各一人、護衛だろうか? 周囲を警戒している様にも見える、御者台の一人の魔力が高い、リーダーか魔法職だろうと推測する。
(荷台にいるのは奴隷のようです)
アイビーが先に鑑定したらしい、俺も確認する、荷台の五人は皆簡易ステータスにも名前の横に[奴隷]と表示されている、御者台の人間の一人が[商人]、状況からすると奴隷商だろうか。
そして御者台のもう一人、見た目だと深くフードを被っているから判り辛いが女性だな、これが[魔術士]だ、やはり魔法職、でもこいつの持つスキルに【魔力視】が無い、【術式】【魔法陣】【詠唱】【杖術】【格闘】【交渉】、これだけだ。
他の者も確認する、[剣士][戦士][猟師]と言う職業で男男女、【剣術】【斧術】【弓術】【短剣術】【投擲】【盾術】【格闘】【索敵】【直感】【第六感】【瞬間剛力】【尋問】【採取】【解体】【神学】【知覚】【器用】、護衛の持っているスキルは以上で全員分だ[猟師]は斥候職なのかもしれない。
【魔力操作】や【魔力視】とか持ってる奴もいないし【魔法】とかも持ってる者はいない、【魔法】に関しては貰った知識からもあまり期待して無かったが、生活魔法はスキル化しない物なんだろうか。
では商人以下奴隷達、御者と男性が二人、残り三人は女性だ、【交渉】【目利き】【算術】【記憶】【御者】【格闘】【斧術】【棍術】【農業】【家事】【料理】【感受】【神学】【艶事】、見事に一般人ですって感じのスキル群だ、一人おかしなスキル持ってる女性がいるがそれ系の奴隷なのかそう言うお仕事だったのか、男衆の殆どに【斧術】があるのはこの森のせいかもしれない、どうも仲間が迷惑かけてます。
ただこの世界スキルがあると基本的には扱いがうまいって位であって、スキルが無いから何もできないと言う訳じゃない、この辺が危ない、ラノベ知識で突っ走ろうとすると横からぶん殴られる事になる。
【魔力視】がなくても何となくだが見える奴がいるかもしれないし、スキルだと意識しないまま【魔力操作】している奴がいるかもしれない、特に後者は肉体強化系とかでやってそうな気がする、常識はずれの怪力持ちとか、素早い奴とか。
そして更に厄介なのがスキルだって使い続けると熟練するし、上級化したりもするらしい、だがそれがどのくらいで起こるかなんか判らない、つまりスキルがある奴はそれに関して最低から最上まで警戒する必要がある。
常に警戒して、見た目に頼るなって事だな、俺って難しく考えるのは苦手だし!
ついでに言えば【小鬼】達は【繁殖】と【悪食】を持つのが普通だ、ただし種族的な能力で【異種配合】なんて物を持つ、これこそが異種族だろうと繁殖を可能にする厄介な能力だ。
なんか考えが明後日の方向に行った気がするが今は目の前の光景に集中しよう、【小鬼】が動き出した、森を背後に繁みから24体、対する護衛は街道を背後に四人、数が違い過ぎるし隠れる場所も少ないがどうする気だろう。
遠距離からまずは弓、狙いが正確だ、熟練しているのかもしれない、馬車は魔術士を降ろして反対側、街道から少し離れた平原へと位置を移動している、乗っていた商人も奴隷達も素早く馬車の陰だ、背の高い草の繁みを使って上手く隠れている、襲撃に慣れているわけでは無さそうだが、先へと逃げたところで伏兵を警戒してるのだろうか? まっすぐ走って来た所でこっち側には森の俺位しかいないけどね。
弓と手斧の投擲でゴブ4体が死亡、だがかなり接近されている、魔術士は? 馬車を降りた位置でで何か詠唱してるっぽいな、魔法陣の一部と魔力の動きは見えるがどんな魔法陣かこの位置からでは背後側でよく見えない、触媒で染まりつつある魔力の色からすると火系の魔術か、でも魔力の収束状態から視るに発動にはもう少しかかりそうだ、人が魔術使うのって結構大変そうだ。
(あれでは時間がかかりすぎるかと、【小鬼】相手とは言えあの発動速度では他の者が無傷では済まないないでしょう)
アイビーが冷静に分析している、俺もそうなるだろうと思うんだが、他の仲間も奮闘している、だがいかんせん戦力差がありすぎる、この状況は護衛側の判断ミスだろうか、魔術で逆転を狙っている? いや決め付けは良くないか。
『ここで下手に動いて人に見つかりたくは無いんだがな』
(あの人種の魔術士は自分の詠唱に集中してこちらに気が付いていません、我々と違って前しか見えないのならば発動も見られる心配は低いかと)
そういやそうだ、【全視界】に慣れ過ぎたが故の盲点、人って基本前しか見えないよね、訓練で拡がるらしいけど魔術の発動と詠唱に集中してる時にそんな事してはいられないだろう、ならやってしまおうか。
どうせゴブは放置してても仕方ないし、彼女達も苦戦してるようだし、ちゃんと勝たせて報告に帰還してもらおう、その方がこれからやろうとしてた事にも都合が良い、まだ不確定な要素はあるが計画を繰り上げて利用させてもらうとしよう、そうしよう。
脳内ディスプレイを展開、自分を中心に位置関係を表示、とりあえずゴブだけを敵性として判断、範囲内のゴブを全部マーキング、位置的に範囲系の魔法でも護衛を巻き込む恐れは少ないが、各自目の前の1体位は倒してもらうとしよう、という事で少しの脅しもかねていつものやり方で、ロック17で発動 <土槍>
瞬間、目の前にいた20体のうちの17体の【小鬼】が股間から身体を抉りつつ伸びる土の槍に貫かれてそのまま天へと突き上げられ、奇怪なオブジェと化す。
沈黙が場を支配した。
うん、ついいつものつもりでやりすぎたかもしれない。
(相変わらずお見事です、御主人様)
次回はおそらく他者視点から開始




