使える手は多い方がいいのですよ。
今更ながらこんな話を読んで頂きありがとうございます。
タイトルで大体内容が判る人が多い気がする。
異世界の森の日が暮れる、思えば地上に出て意識した初めての夜だ。
【魔力視】をオフにして森を見る、周囲は真っ暗だが上空部分、森が切れている所から星が見える、この世界でもやっぱり星は見えるんだと少し感傷的になるがすぐに飛沫様内部の広さを考え出す自分に気が付き、この状況に馴染んでいる事を実感して可笑しくなる。
実感もなくいつの間にか魂となってあの異界を漂っていた、と聞かされたときは自分の頭がおかしくなったのかと思った、それが今や人である姿を捨て、植物系モンスターとして異世界で生活しようとしている。
ほんとに判らない物だ。
うん、せっかくモノローグっぽくカッコつけてるんだけど、わっさわさにウネウネでウニョウニョな自分の身体だ、似合わない事この上無い。
【魔力視】をオンにする、途端に世界が明るくなる、この森に濃淡をつけながら漂う薄い魔力、所々に輝く属性魔力、そして視界内に常に見える俺の魔力で雲の中から星でも見ているようだ。
暗視とか赤外線視とか出来ない物だろうか、魔力を使って感度増幅するとか特定波長だけとらえるとか、目覚めてから割とイメージだけで何とかしてきた、魔手とか正にイメージから作り出した代表だ、何より俺の視界、眼だと認識している部分がないのに全方位で見えると言う謎の視界だ、魔力を使えば何とかなるかもしれない。
身体が動くようになって以前の魔力訓練方法が使えなくなった、身体の中をスムーズに魔力が流れるようになったせいだ。
限界まで魔力を消費する訓練方法を考える、消費するのなら出来れば無駄にはしたくない、ならば現状出来る最大消費の行動は魔手だ、身体の方の手が枝になった事もあるのだろう、複数魔手の制御も楽になった、というより気にしないレベルで普通に出来るようになった。
ならばもっと精密に、緻密な作業が出るように、魔手の操作に慣れるべきだろう、枝では精密作業に向いていない。
背中の魔手を真ん中から割って分割していくイメージ、当然修復もイメージだ。
感覚を持たせているせいでムズムズする、日焼けした肌から皮を剥がしていくようなむず痒い感覚、見た目だけなら裂けるチーズっぽく見えなくもない、色のせいで台無しである。
先端が2つに分離すると同時に魔力の消費量が上がる、だが魔手を全部展開しなければ今でも使えそうだ。 ここから更に全部展開しても平気で使えるようにしていきたい、そのためにも魔力の総量は大事だ。
身体の周囲を回るように魔手を伸ばしていく、思い付きだったがこれなら魔力の消費の微調整や習熟での消費の検証も出来そうだ、ただし他人に見られたら恐怖感を与えてしまうだろう。
魔力がどんどんと消費されていく感覚、これでいい、このまま枯渇かギリギリで止めておくかを選択でき…
意識が浮上してくる、おはようございます、いろいろ考えてるうちに枯渇まで魔力を使ってしまったようだ、周囲はまだ暗いがそれなりに時間が経過した感覚。
周囲を見る、見回す必要は無い、が特に変化は無い、【振動感知】は全く仕事をしていない、これも訓練しなきゃダメだろうか。
【魔力視】をオンにする、少し離れた位置で何かがふわふわと飛んでいる、見てる限りは蛍のような感じだ、薄緑の光が揺れている。
こちらに向かってくる様子もないのでそのまま放置していたら、しばらくウロウロとした挙句そのまま遠ざかっていった。
結局その後は特に何かに遭遇する事も無く、朝を迎えた。
薄明かりの中でまだ朝靄の漂う森、実に幻想的で美しい光景だ、これはもう光合成するしかない、身体が養分を欲している。
平和な朝、上空を大きな鳥が飛んでいく、その後ろを竜らしき影が追って行く、異世界だと実感する、竜が普通に飛んでるよ。
あんなのと敵対的な遭遇はしたくない物だ、最初の【混沌の種】から産まれたのが【原初の竜】と呼ばれる存在だったらしい、知能が高く、聡明で長い間竜種の頂点として君臨していたが3百年程前に寿命で亡くなったという、貰った記憶の中にある姿はまさに西洋のドラゴンといった姿、首筋に鬣のように長い毛があるのが少し違うところか。
基本的な姿が俺の記憶とブレないというのはありがたい、変に記憶がある分認識を修正するのも大変そうだし、とはいえ蚯蚓が噛み付いて魔力吸って来たりもするし、新しい情報もどんどんと取り込んでいくとしよう、見聞きした分の情報は外部記憶に蓄積されるらしいし、その為にここに送られたと言ってもいいと思っている。
俺は俺らしく臆病に生きるとしよう、臆病にいろいろと情報集めだ、まずはこの森から。
遠くから竜の咆哮と鳥の断末魔の鳴声が聞こえて来る。
うん、生存競争にも生き残らねばね。
ところで、さっきから俺の周囲に鑑定出来ない光の毛玉? みたいなモノがふわふわと集まってきてるんだけどなんだろうねコレ。
やっぱり話は進まない。
裏話:物理干渉型魔手は魔力干渉型約3本分の基本魔力を消費するのだった。




